243 覚醒する自由の力
「ぐぁっ、なぜ、動けない!?」
ナヴィが使う謎のスキルによって、地面に這いつくばり続けるアブゾン。それを見ていた俺達も、呆然としていた。
なにせ、ナヴィが使っているスキルは誰も知らないもの。解析を持つナーゼなら分かるかも知れないが、今この場にはいない。
現状、唯一この力の詳細を知っているのは、ナヴィだけなのだ。
と、ナヴィが俺の側から離れ、アリスとガラルの元へと向かう。二人ともすでにボロボロで、まともに動ける状態ではなかった。
「な、なにがどうなって……ナヴィ、これは……」
「……アリス、ガラル。皆に伝えて。『雨を降らせて』って」
「あ?雨ェ?んなもんどうやっ――」
「大丈夫、皆ならできるわ」
「えっ――きゃぁっ!?」
ナヴィが二人に触れた途端、二人は弾かれたように空に向かって飛んでいった。
だが、それと同時にアブゾンが起き上がる。
「はぁっ、はぁっ……ぬがァァァァッ!!」
「っ、お前……!」
「ナヴィィィィィ!!!貴様、一体私になにをしたァァァァ!!!」
立ち上がって早々、アブゾンが火球を放つ。もはやその目は、正気を失っているようにも見える。
だが火球は、ナヴィに当たることはなかった。ナヴィが右手を付き出した途端、火球は地面に向かって垂直に落ちていったからだ。
「「なっ……!?」」
「……言ったハズよ。私はもう、貴方になんて縛られはしないと。この力は、その覚悟の証よ!」
「ナヴィィィィィ!!!」
「……ナヴィ、二人は?」
「大丈夫。二人とも、皆のところに飛ばしただけだから」
「飛ばした……?それはどういう……」
「説明は後!来るわ!」
再びアブゾンが火球を放つ。俺とナヴィは二手に別れ、左右からの挟み撃ちを狙う。
だが、半分正気を失っている状態のアブゾンは、火球を撃つのを止め、ナヴィの方に向かって飛び出し、拳を握り締めた。
しかし、アブゾンの拳はナヴィに届くことはなかった。
拳がナヴィに届くよりも先に、ナヴィが右手を付き出す。その瞬間、アブゾンは弾かれたように吹き飛ばされ、俺の方へと向かってきたのだ。
「チィッ!ならばぁぁぁ!」
「させないわ!」
アブゾンが飛ばされた先、そこにいる俺のことに気がつくと、無理矢理翼を動かして体の向きを変えると、その勢いのまま俺に殴りかかろうとした。
だがその瞬間、再びナヴィの力によって、今度は俺が空中へ投げ出された。そして、空中に投げ出されてすぐに、今度はナヴィの方に向かって引き寄せられた。
「うわっととと……」
「ケイン、大丈夫かしら?」
「あ、あぁ……それより、見えたぞ」
今俺も、ナヴィの力を受けた。そして、その力について、一つの可能性が浮かんだ。
確証はない。だが、間違っている気もしなかった。
「……重力だな?」
「なんだと?」
「……ふふっ、正解」
アブゾンを押さえつけた時、そしてアリス達を空に飛ばした時、俺は風のような力で押さえつけたり飛ばしたりしているものだと思っていた。
だが、今さっき自分の身で受けた時、俺は抵抗できなかった。風や水みたいな原子的な力じゃなく、そうなることが当たり前であるかのように、その方向に体が引き寄せられた。
そんなこと、普通じゃあり得ない。念力のような力が働くか、重力の向きを弄られない限りは。
「〝重力〟重力の向きや強さを、私の思うように操れる。それがこのスキルの力よ」
「それはまた、とんでもないスキルだな……」
「えぇ。……ただ、今は一ヶ所にしか適応できないし、魔力の消費も激しいけれどね」
ナヴィの得たスキルの内容は、俺が思っていたよりも強いものだった。
重力は万物にかかる力。抵抗しようにも逆らえない、最強の力。その重力を、向きはおろか強さまで変えられるとあれば、それは無敵と呼べる力になりうる。
ナヴィの言う弱点も、会得したばかりであるが故のものだろう。使い続ければ、いずれはその弱点すらも気にならないほどのスキルへと昇華するに違いなかった。
「重力……ふん、つくづく甘いな。わざわざ私の前で解を教えてくれるとは」
「だから?知られたところで、今の貴方には対策のしようが無いでしょう?」
「親に向かってその態度……教育のし直しが必要みたいだなっ!」
おちょくるようにナヴィが挑発する。その態度が気にくわなかったのか、アブゾンは迷わず突撃してくる。
ナヴィが再び、右手をアブゾンに向ける。しかしその瞬間、アブゾンは右回りに軌道を変えた。
確かに、先の発言からして、一度重力を発動させるだけでも、かなりの魔力を消費する。
それに加え、柔軟性もないとあれば、一度でも回避されれば、ただ無駄に魔力を消費してしまうことになる。アブゾンはそれを狙ったのだろう。
ナヴィが重力を使っていれば、の話だが。
ナヴィはアブゾンの動きを見て僅かに微笑むと、四種の弾丸を出現させる。それら全ては混ざり合い、一つの弾丸となる。
「〝極四弾〟!」
「なっ――がはっ!?」
放たれた弾丸は、アブゾンが回避しようとするよりも早く標的に到達。そして、ぶつかるや否や、爆発を起こしたのだ。
アブゾンは爆発に巻き込まれ、近くにあった木に叩きつけられる。さらに運悪く、その木は燃えているうえに少しささくれだっており、アブゾンの背中を僅かながら、痛々しく引き裂いた。
「がっ……ナ、ナァァァァヴィィィィィ!」
「……どんだけタフなのよ……」
「でも、もう長くは持たないハズだ。一気に叩くぞ!」
「えぇ!」
「私を、舐めるなァァァァ!!!」
ナヴィが影の槍を構え、同時にアブゾンに迫る。アブゾンはフラフラと立ち上がると、火球を大量に放ってきた。
魔力が尽きかけているのか、威力はそこまであるわけではない。だが、打ち出される数は圧倒的で、食らい続けていれば危険かもしれない。
「「はぁっ!」」
「ぐっ、ぬぁっ!」
そんな火球の波を越え、俺とナヴィが同時に武器を振るう。しかし、アブゾンは無理矢理翼を動かし、空へと逃げた。
だがやはり、すでに限界が近いのか、すぐに地上に降りてきた。
「かはっ、ぐぅっ……!?」
「……その体じゃあ、もう戦えないだろ」
「なにを、ほざくかと、思えば……そんなわけ、無いだろう、がっ!」
「いやだが、お前の体は見るからに限界だぞ?」
「――〝操血・流〟」
「っ!?おいバカやめっ――」
「ぬぉぐぃぁがぁぁぁぁぁぁ!!!」
人と呼ぶには相応しくないような、絶叫に近い声をあげるアブゾン。もはや執念で動いている体に、魔力が溢れだす。だが同時に、体から流れ出る血の量が増えていた。
――これ以上長引かせるのは、危険すぎる!
「ナヴィ!これ以上は不味い!」
「分かってる!」
「お前ら、全員、消えろォォォ!!」
ついに脳までいかれ始めたのか、ナヴィにすら強い殺意を示すアブゾン。
アブゾンの周りを、再び無数の火球が囲む。そして、アブゾンが解き放とうとした瞬間――
俺達の頭上から、大量の水が雨のように降りかかり始めた。
「なっ……!?」
「よかった、間に合った……!」
「間に合った?一体なにが……って!?」
ナヴィが見つめる視線。その先にあったのは、巨大な水の塊。その水の塊は渦巻いており、大量の水を、雨のように撒き散らしていた。
重力
空間の一部、または対象物を指定し、指定した範囲内の物質全てに、任意の向きと強さの重力をかけるスキル
スキルレベルが上がるにつれ、魔力消費量の減少、指定ヶ所の増加に加え、強弱の具合変更、指定範囲の増加などがより鮮明にできるようになる
極四弾
四種類の弾丸を合成し、打ち出すスキル
他の弾スキルよりも威力、速度ともに高く、回避するのは困難
四種の弾丸を同時に発動させる関係上、魔力の消費も激しいが、それに見合った火力を誇る




