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239 奥底の想い その2

最近、数少ない現実の友人が遠くに引っ越しました。

ネット上でよく会話してるし、互いに会おうと思えば会いに行けはしますが、また一人友を失いました。


悲しい。

 男の―いや、アブゾンの拳が迫り来る。

 怒りで大振りになっているため、回避するのは容易い。が、俺はあえて突っ込んだ。こういう相手は、一度痛い思いをしない限り目を覚ますことはない。

 救いようの無いような思想の持ち主とはいえ、生身の相手に刃を向けるのは少々心が痛む。が、ここで引くわけにもいかない。

 アブゾンが拳を突き出し、俺は二刀を振り下ろした。



「ぬぐっ、アァァァァァァァ!!!」

「……っ!?」



 生身の拳に、二刀が斬りかかる。だが、一行に切り落とせる気配はない。それどころか、拳で受け止められていた。

 まるで、鉄を切ろうとしたような感覚。その感覚に驚愕したのも束の間、魔力眼が拳から異様な魔力を関知した。

 それを危険信号と捉えた俺は、すぐさまその場を離れた。

 そして、俺は魔力の正体を知ることになる。



「チッ、感づいたか……!」

「成る程、血か……」



 アブゾンの拳には、二刀によって切られた跡が今も痛々しく残っており、そこから血が流れている。

 そして、異様な魔力はその流れ出る血から放たれていた。

 アブゾンの拳から流れる血。二刀で切り付けた以上、本来なら大量に流れ出るものだが、なぜか血は溢れず、むしろその場に留まっている。

 それだけではなく、少しウネウネと動いているのだ。



「そのとおり。吸血鬼にとって〝血〟とは食事であり、成長や回復といった、あらゆる場面においての必需品。無論、戦いにおいてもな」

「……よく喋るな?」

「教えたところで、私が不利になるわけではないからなっ!」

「なっ……!?」



 そう言って、アブゾンは左手の甲に爪を突き刺すと、そのままおもいっきり引き裂いた。

 そんなことをすれば、勿論血は溢れ出てくる。

 が、やはり血は溢れるだけで、大量に出てくることはない。むしろグローブのように、拳に纏わりつき始めたのだ。



「さぁ、覚悟はいいな!」

「くっ!」



 再び襲い来る拳を、こちらも二刀で受け止める。だがやはり、先程と同じく拳を切ることはできない。

 それどころか、鉄を切り付けているような感触すら感じる。



「はぁっ!」

「オラァ!」

「チッ……!」



 俺の背後、その左右からアリスとガラルが現れ、武器を振るう。アブゾンは舌打ちをすると、すぐに身を引き、攻撃を回避した。



「はっ、よそ見厳禁だぜ?」

「ケイン、大丈夫?」

「あぁ、それより……」



 俺は、チラリと横目で森を見る。

 先の攻撃で、森に火がついた。その炎は止まることなく燃え続け、今もその範囲を広げている。



「はぁ……自分のことより他人のことか……くだらん、実にくだらん」

「なに……!?」

「ケイン、落ち着いて。山火事の方は、すでにメリア達に任せてあるわ」

「メリア達に……?」

「んで、俺らはご主人サマをサポートするために残ったわけよ」



 よく見ると、すでにメリア達の気配はなく、目の届かない位置にいることがわかる。

 そして、アリスとガラルは俺を一人で残すのは不味いと思ったのか、この場に残り、アブゾンと戦う役を任されたようだ。

 ……まぁ、ガラルに関しては、ただ強い相手と戦いたい、という本能に駆られただけのような気もするが。



「ふん、三人ごときで勝てるとでも?」

「テメェこそイキってんじゃねぇぞ?あん時とは、勝手が違うんでなぁ!」



 ガラルが飛び出し、金棒を横凪に振るう。

 アブゾンはそれを見切ると、羽を広げて浮遊し、金棒を回避した。

 それを見たガラルは、ニヤリと笑う。



「はっ!」

「ぐぅっ!?」



 アブゾンが飛んだ先。そこにはすでに、アリスがいた。

 ガラルの大振りの攻撃は、勿論当たればそれでもいいが、フェイクでもあった。

 攻撃を見切られても、横凪の攻撃である以上、後ろに下がるか空中に逃げるしかない。そうなってしまえば、今度はアリスの槍の餌食になる。

 どちらであれ、アリスには空歩がある。多少のズレは簡単に修正ができた。


 そして、その攻撃は見事に命中。とっさに防御されたとはいえ、左腕の前腕に深く槍が突き刺さった。



「こんっのっ!」

「きゃっ……!?」

「どらぁ!」

「ぐぅっ!?」



 アブゾンは、突き刺さった槍を掴み引き抜くと、そのまま槍ごとアリスを振り回した。

 だが、そこにガラルの金棒が襲いかかる。アリスに当たらないよう、足元を狙った攻撃が見事に命中したのだ。



「うわっとと……助かったわ」

「はっ、良いってことよ」

「貴様ら、調子に乗るなよ……!」



 アブゾンが怒りの籠った目でこちらを睨む。

 そんな中俺は、少しだけ考え事をしていた。


 先のアリスの攻撃。あれは、確かに食らえばタダではすまないだろう。

 だがアブゾンには、恐らく〝血を操る〟スキルがある。二刀の攻撃を受け止めたのも、血を固めてのものだったと考えている。

 ではなぜ、防御体勢を取ったのか。


 アリスが狙ったのは心臓部……殺す気か?

 いや、多分、相当頭に来ていたのだろう。そう思うことにしよう。

 ……話を戻すが、血を固めることができるのであれば、無理にアリスの攻撃を防ぐ必要はない。体内の血を、その一点だけ固めれば良いだけの話なのだから。

 だが、そうはせずに、左腕で受けた。


 ……もしかすると、心臓に近い場所では血を操りづらいのでは?



「アリス、ガラル。確かめたいことがある」

「……分かったわ」

「ふん、なにを考えているのかは知らんが……いい加減目障りだ!さっさと失せろ!」



 再びアブゾンが迫り来る。

 俺の仮説が正しければ……まだ、勝ち目はある。

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