表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
240/413

235 昔の家族、今の家族

 突然現れたナヴィの父親。


 あまりにも親とは思えない諸行の数々を知り、異議を唱えたビシャヌを殴り飛ばし、ガラルの攻撃を避けたかと思えば、周りへの被害を一切考えない攻撃を放ってくる。

 一応、下では戦闘向きではない仲間達が避難を促してはいるが、それでも危険すぎる状況だ。



「……ふん。結局お前らは腰抜けの集まり、というわけか」

「……聞き捨てなりませんね。わたしたちの、どこが腰抜けだと?」

「では、なぜ先ほどから攻撃してこない?こんな赤の他人の家など、どうでもよいではないか」

「……本気で、言っているんですか……!?」

「事実を言っているだけだ。赤の他人のことを心配するなど、まっぱらおかしいと思わないか?」



 さすがのイルミスも、この発言には怒りを覚えたのか、龍の腕を強く握り締めている。

 確かに、自分自身や家族以外は赤の他人。それは揺るぎ無い事実だ。だが、だからといって、その生活を脅かしていいものではない。

 ……だが、この男は違う。自分の家以外のことは全てがどうでもいいこと。実の娘の気持ちすらも、関係のないことなのだ。



「貴様らがナヴィを保護してくれたことは誉めてやろう。だが、所詮は赤の他人。大人しくナヴィを引き渡してもらう」

「んなこと、させっかよ!」

「なら、さっさと来い」

「ぐっ……やってや――」

「ガラル、止めろ!」

「――あっ!?なんでだご主人サマ!」



 怒りに任せ、飛び出そうとしたガラルに対し、静止を促す。従魔であるガラルは逆らうことができず、その場で静止した。

 イルミス達も、俺に目を向ける。



「ふん、ようやく渡す気になったか」

「……」

「……なんだ?その目は」



 俺は、男を睨み付ける。そこに、ナヴィを渡さないという、ハッキリとした意思を乗せて。

 ふと気づけば、ナヴィの俺の服を掴む手がより強くなっている。

 そんなナヴィの肩に、そっと手を置いた。



「……さっきから、本っ当に好き放題言ってくれてるな。部外者?赤の他人?それが、お前の他人に対する態度か?なら、お前の家とやらも対したことないな」

「……なんだと?」



 男が、先程よりも苛ついた顔になる。

 それはそうだ。この男にとっては娘のことよりも、家のことを侮辱されることの方が許せないのだ。

 これが、本当にナヴィの親なのか、やはり疑ってしまう。が、最早そんなことはどうでもよかった。



「他人の生活を脅かし、実の娘の自由を奪い、挙げ句の果てにはその態度……そんな家に関わるやつが、幸せになんてなれるハズがない!」

「……幸せだと?思い上がるな!そんなもの、我が家の繁栄に必要ない!」

「いいや必要だ!幸せがあるから、人は前向きになれる!幸せを感じれるから、人は明るくなれる!お前みたいな幸せを否定する家に、繁栄なんぞ訪れるわけがない!」

「貴様……!部外者ごときが口を出すな!ナヴィ(それ)は我がマリーワルド家の繁栄に必要なもの!どう扱おうと構わないだろう!」

「また物扱い……ふざけんな!ナヴィはお前の操り人形でも、繁栄の道具でもない!ナヴィは俺達の仲間で、大切な家族だ!」

「……っ!」



 前々から、俺はずっと仲間のことを家族だと言ってきた。

 かつて俺は家族に裏切られ、見知らぬ森の中に捨てられ、そして冒険者となった。

 それから三年後、メリアと出会い、ナヴィと出会い、たくさんの仲間ができた。そして仲間が一人増えるたび、俺は一つ、大切なものを背負った感覚に襲われる。

 それが命なのか、信頼なのか、それとも別のなにかなのかは分からない。だが、こうして背負うものがあることに気づいた時から、俺は仲間のことを、新しい家族だと思うようになっていた。


 そして、俺は家族を侮辱する者を、傷つける者を許さない。たとえそれが、仲間の本当の家族であろうと。



「家族?ふん、なにを言うかと思えば……そんな狂言に付き合っていられるほど、こちらは暇じゃないんだがな」

「その言葉、そっくりそのままお返しするぜ?お前が本当の親だってんなら、ナヴィはどうしてお前との再会を喜ばないんだろうな?」

「……なにが言いたい?」

「家族ってんのは居場所だ。どれだけ悲しいことがあろうと、どれだけ辛いことがあろうと、必ず安らげる場所。それが本来の家族の形であるべきだ。……勿論、そう簡単にはいかない家庭だってある。だがお前は、恵まれた環境を持ちながら、その安らぎを、幸福を、自由をナヴィに与えなかった!そんなもの、家族でもなんでもない!」



 家族の形は決まってなどいない。

 だが、俺達のほぼ全員は〝家族〟に対して、何かしらの不幸を与えられている。勿論、俺もそのうちの一人だ。

 だからこそ、せめて今この不抜の旅人として活動している時だけは、幸せを感じて欲しい。そう願っている。

 たとえ、どんな未来が待っていようと。



「……貴様ぁ!」



 俺の言葉が気にくわなかったのか、男はナヴィが近くにいるというのに、迷うことなくこちらに火球を飛ばしてくる。

 だがこちらも、タダで食らうわけにはいかない。俺は創烈を抜刀し、魔力を込めると、そのまま火球を切り裂いた。

 しかし、その火球はフェイク。俺が火球を切るその一瞬の隙をつくように、男が拳と共に迫ってきていた。



「ふっ!」

「なっ、ぐぉぁっ!?」



 確かに、不意をつくいい攻撃だ。ただし、囲まれていることを忘れていなければ、の話だが。

 俺に対する怒りで周りの状況を忘れてしまったのか、俺の元へとすぐ駆けつけられる位置にいたイルミスの拳に、自ら飛び込んでいった。



「イルミス、助かった」

「はい。……それよりも」

「チッ……わたしとしたことが、怒りで我を忘れるとはな」

「……しぶといですね」



 自ら飛び込んだこともあり、相当な一撃となったイルミスの拳を受けておきながら、男は平然と立ち上がった。

 効いていない、とも思ったがそうではなく、拳を受け、地面に叩きつけられるその一瞬の間に、ダメージを()()()()()のだ。



「……まぁいい、今日のところは引き下がってやろう。だが、次はない」

「あ?まちやが……チッ!」

「なんだったノ……あのひト……」



 男は翼を広げると、そのままどこかへ飛び去ってしまった。

 その姿を、残された俺達は、ただ見ていることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ