223 海中都市マリンズピア その1
二十六章、開始です。
「いやはや、良い天気ですなぁ」
「そうだな……」
「こんな良い天気になるということは、マリンズピアもあなた方を歓迎しているということでしょうな」
「そうか……」
「……まぁ、どれだけ言おうと、現実逃避はできませんか……」
「……だな。おい、ホントに大丈夫なのか?」
「むり……おぇ……」
翌日、朝一番に船場へ向かった俺達は、トランクの率先の元、1隻の船に乗せられていた。
最初こそ、普通の船旅のような感じだったが、それが変わるのは一瞬だった。
というのも、ナーゼが船酔いしたからである。
これまで、木々を伝うように移動をしていたナーゼ。そのため、常に揺れながらの移動は初めてのことだったらしく、乗り初めて一分と経たずに酔ってしまっていた。
ちなみに、アリス達は平気だった。
「ったく……この先大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫……初めてだから、酔っただけ……うっ」
「あーもう喋るな。大人しくしとけ」
「うん……」
ダウンしたナーゼはメリアに任せ、俺は再び海を眺める。
どこまでも青い海で、海鳥が飛び、魚が跳ねる。他になにかあるわけでも無いその光景を、俺はただじっと眺めていた。
勇者。かつて世界を脅かしたモンスターを討伐した者。メリアの呪いの元凶を封印した者。
今この世界に、勇者を名乗る男が現れた。
勇者―勇者を呼び出した者の目的は恐らく……いや、確実にメリアだろう。
急激な速度で成長する力は、同じ人族とは思えないほど異質な能力。今後、あの男がメリアの存在に気が付いた時――俺は、あの男に勝てるのだろうか?
そんなことを考えていると、隣にトランクが並び立ってきた。
「……悩み事ですかな?」
「……そうだな。今後のことについて、少しだけ」
「貴方がどのような道を通るのか、わたくしには分かりません。しかし、無理に考える必要も無いと思います」
「何故だ?」
「人が歩む道とは、その人自身が決めるもの。他人が示す筋書きに乗る必要はありません。貴方が守りたいと思うものがあるなら、それを守ればいい。貴方が好きだと思う人がいるなら、その人を愛せばいい。悩んで後悔するよりも、自分の信じた道を突き進めばいいのです」
「……そうだな」
分かっている。こんなことに悩むような、半端な覚悟でいる訳じゃないことくらい。
だが……だからこそ、最近の自分の力の無さが悔やまれる。
傲ったつもりも、楽して得たいとも思わない。
だが、それでも足りない。
仲間を、友を、大切な家族を、愛する人を守れるだけの力が、俺には足りない。
まだ世界のどこかには、俺よりも強い奴等は沢山いるのだから。
「……さて、着きましたよ」
「着いたって……ここが?」
「……海」
「そう、ですよね……周りになにかあるわけでもありませんし……」
「……貴方、嘘言ってるんじゃないのかしら?」
「……いいえ、間違いありませんわ」
「ウィル?」
「はい。正確には、ここの真下です」
「真下?……っ!?」
トランクの言葉を聞き、海の方を覗き込む。
そこには、確かに都市があった。
いや、正確に見えた訳ではない。都市のようなものが見えた、という程度であり、本当に都市かどうかは船の上からでは分からない。
「では、参りましょうか」
「待て待て待て」
「はい?なんでしょうか?」
「そりゃ、お前は人魚だから平気だろうが……俺達は人魚じゃない。水中で息なんてできないぞ?」
「あぁ、失念しておりました。しかし、心配はご無用です。そうですよね?」
「……分かってて言っていますわよね?」
「いえいえ。それでは……Aa―――」
『……っ!?』
突如として、トランクが歌い始めた。その瞬間、体に膜が張られたような感覚を覚える。
メリア達も同様だ。
「……今のは?」
「人魚族が使う歌の一つ〝水膜〟です。暫くの間、水中でも息ができるようになります」
「暫くってことは、長く続かないのかしら?」
「はい。とはいえ、マリンズピアに入ってしまえば関係ありません。マリンズピアでは、地上と同じように活動できます。勿論、水の抵抗等もございません」
……なるほど。確かにそれなら、持続時間が長くなくても問題ない。
だがそれよりも……
「……ウィル、今のもか?」
「……えぇ。あれも、魅惑の歌の一つですわ」
「……そうか」
前に魅惑の歌について聞いた時、人魚の歌には全て魔力が込められていると聞いていた。
そして、今の水膜という歌も魅惑の歌の一つ……つまり、ウィルには歌えない歌だということだ。
しかも、わざわざウィルに確認までした。恐らく、彼もウィルにいい印象を持っていない人物なのだろう。
「さて、改めて参りましょうか」
「あぁ……っと、ベイシア。念のため、全員の糸で繋げておいてくれ」
「ふむ?つまり、危険が迫っているという体で引き寄せても!?」
「……わざとか?」
「本気じゃが?」
「……そうか。そんなにガラルの拳を喰らいたいのか。そうかそうか」
「あ、や、冗談じゃよ?冗談」
「そうか?ならいいんだけどな」
ベイシアが青ざめた顔をしているが、特に問題ないだろう。
「では、行きましょう」
トランクが先に海の中へと飛び込み、俺達も後へと続く。そして、海の中に入った俺達の目に飛び込んできたのは……
予想よりも遥かに巨大な、海中都市だった。
ガラル「おっしゃあ!」
ユア「……ガラル様、今何匹目ですか?」
ガラル「ざっと十匹目じゃねえか?」
リザイア「むっ、我らも負けていられぬぞ!」
ユア「はい、リザイア様」
ガラル「ハッハッハ!オレだって、まだまだ釣ってやるぜ!」
イブ「……いつからつりしょうぶに?」
アリス「さぁ?というか、ユアが勝負に乗ってる方が意外なんだけど……」




