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閑話 勇者、対する姫騎士

本編ほぼ同時刻

「ここが王の間だ。くれぐれも、王の迷惑になるようなことだけはしないでくれよ?」

「わーってるよ」



 初めての敗北から数日、健也はエルトリート王国へとやってきていた。

 王城に来たのは、ムーが王城に知り合いが居るという情報を口にしたからであり、あわよくば仲間に引き入れようという思惑があったからである。

 健也とムーが、王の間へと入る。そこには、現国王のブラウン、現女王のクローティ、王子であるランデル、そして……



「お久しぶりです、ダリアさん」

「うむ、元気そうでなによりだ」

「ムー、彼女が?」

「はい。ダリア・ソル・エルトリート、この国の王女にして、騎士団長を勤めているんです」

「姫騎士……!」



 健也は内心で、歓喜に沸き上がった。

 創作物の中にしかいないと思っていた姫騎士という存在が、自分の目の前にいるのだ。興奮しないわけがない。

 おまけに、ダリアは美人と来ている。健也は敗北した怒りを頭の隅に放り投げていた。



「改めて……ムーよ、良くぞ参られた。そして、その者が……」

「はい。この度、勇者として召喚されましたケンヤさまで……ケンヤさま?」

「……ん?あぁ、すまない。考え事をしていた。滝沢健也だ。よろしくな?王サマ」



 ムーがブラウンに健也を紹介するも、健也はどっち付かずな態度を見せる。

 なにせ、健也の脳内では、すでにダリアを迎え入れた後の妄想で埋め尽くされ始めていたからである。

 健也にとって姫騎士という存在は、いわゆるチョロインと呼ばれる、主人公に簡単に落ちる存在であり、ダリアも同じように自分にコロッと落ちるものだと思っていたのだ。


 故に、ここで健也にとって、思わぬ誤算が産まれることになる。



「それでは、妾はここで失礼するとしよう」

「……え?」

「……ダリア、逸る気持ちは分かるが、無理をさせるのは良くないぞ?」

「分かっている。が、こうしてジッとしてはいられぬ。皆が強くなれば、それだけ彼との約束わ叶えられるのだからな!」

「え?ちょ、ま、待ってくれ!な、なんの話をしているんだ?」



 意気揚々としているダリアに対し、健也は少し焦ったような口調になる。

 なにせ、これからダリアは自分に口説かれ、仲間として加わるものだと勝手に思い込んでいたからである。

 そんな健也の妄想など知らないダリア達は、健也がなぜ焦っているのか分からなかったが、一部を濁して伝えることにした。



「なに、と言われてもなぁ……娘が騎士団長であることは、今しがたムーから聞いただろう?ダリアは騎士団に配属こそしているが、元々王女の立場にある。故に、見合いの話もよく上がって来る」

「そ、それとなんの関係が……」

「それで、だ。先日、この城に招かれた一人の冒険者に、ダリアが一目惚れをしてな?王女を辞めるだの、騎士団を抜けるだの言い出したのだよ……」

「……は?」

「それで、その冒険者さんから『ダリアが居なくても、この国を守れるだけの力を身に付けさせることができたら、結婚なんかは考えてやる』って言われたもんだから、ダリア張り切っちゃって……ほんと、恋ってスゴいわよね」

「は、母上……恥ずかしいので止めてくれ……」

「あら、お顔が真っ赤ね♪」

「うぐっ……」



 唐突な桃色空間に、健也は困惑した。

 健也の考えていたとおり、ダリアは比較的すぐに落ちた。ただし、自分ではない誰かに。

 その事実に困惑し、同時に怒りを覚えた。その役目は、自分であったハズだと、勝手な思い込みを始めた。



「な、なぜだ!?お前は俺たちと一緒に来るハズじゃないのか……!?」

「……なにを言っているんだ貴様は?」

「一目惚れした……?それは俺のハズだろ?そうなんだろ?」

「……ムー、こいつの頭はどうなっているんだ?」

「え、えっと……その……」



 さすがのムーも、今の健也はおかしいと感じているようで、いつものように間に入れずにいた。

 その間にも、健也の癇癪は止まらない。



「大体、主人公である俺以外に姫騎士を落とせるやつなんて居ない……そうだ、全部そいつが悪いんだ。そいつさえ居なくなれば……」

「……今、なんと言った?」

『っ!?』



 瞬間、ダリアが強烈な殺気を放つ。

 健也達はおろか、側にいた家族、果ては扉の向こう側にいた兵士にまで、その殺気が突き刺さる。



「今、余の思い人を消すと言ったか?妾が初めて抱いた恋心を、殺すと言ったのか?」

「なっ……あっ……」

「妾は、遊びで彼のことを思っている訳ではない。妾は真剣に彼のことを思っている。愛している。故に、貴様のその言動を見過ごす訳にはいかん!」



 一歩でも動けば、即座に首が飛ぶ。

 そう思わせるような殺気が、全員の息を詰まらせる。

 だが、健也だけは違った。健也だけは、未だに現実を受け入れられていなかった。



「だ、だが、俺はそいつよりも強い!王女なら、強いやつと結婚する方がいいに決まっているだろう!?」

「強い?貴様が?」

「そ、そうだ!」

「なら、その強さを見せてみろ。……付いてこい」



 ダリアは殺気を抑えると、健也に付いてくるよう促す。健也とムー、それとお目付け役としてランデルが共に向かった先は、騎士団の訓練場。

 ダリアはそこで訓練していた騎士達を一括すると、腰からエンプレスを抜いた。



「一太刀だ。一太刀見れば、お前の強さは分かる」

「はっ……よ、余裕そうだな?言っておくが、俺は」

「御託は要らん。さっさと来い」

「っ!……後悔すんなよっ!」



 健也は聖剣を手に取ると、一瞬で距離を詰める。その速度は、ケインと戦った時よりも早くなっていた。

 対するダリアは、一歩たりとも動かない。

 健也が「取った!」と思った瞬間、健也の手から聖剣が消えた。



「……は?」

「やはり、貴様は弱い」



 ダリアは、突撃してくる健也の聖剣を、直前でエンプレスを使って受け流し、同時に健也の手の中から弾き飛ばした。その間、僅か一秒の出来事である。



「貴様は、何のためにその剣を振っている?愛する者を救うためか?大切な仲間を守るためか?……いいや、そのどれでもない。愛も、友情も、誇りも……お前の剣からは、どれも微塵たりとも感じられない」

「なっ、なにを……」

「貴様は、自身を強いと言った。だが、その強さは薄皮一枚で作られた見せかけのもの。そんなもの、強さでもなんでもない」

「んだと……!?」

「……失せろ。貴様と話すことなど、妾には無い」

「……けるな。ふざっけんな!俺が弱いだと!?あり得ない!勇者である俺が弱いハズがない!そんなこと、あってはならない!」

「……ランデル、ムー、さっさとこいつを連れて失せろ。これ以上暴れてもらうのは御免だ」

「わ、わかりました……」

「け、ケンヤさま……?ここは引きましょう?」

「くっ……!」



 健也達は、ダリアの元を後にする。

 残されたダリアは、一人健也の方を見て呟いた。



「……貴様は強い。だが、ただ強いだけ。それでは、他者の心を掴むことなど一生かけても不可能だ。それに気づければ良いが……」



 ダリアの呟きは、健也に届くこと無く風に流れて消えた。

 そしてダリアも、健也のことなど頭から消し去り、再び騎士達の訓練へと戻っていった。


 全ては、ケインとの約束のために。

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