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222 現れた過去

「あー、スカッとしたぜ」

「まぁあそこまでボロボロにされたからの。暫くは立ち直れんじゃろう」

「ンー、もっト気持ちよくなりたかっタ……」

「……お主もぶれないのぅ……」



 戦いが終わった闘技場の通路を、三人が歩いて来る。その向かい側から、俺達も歩いて来ていた。



「お?ご主人サマじゃねぇか」

「ほんとダ、ご主人さマー!」



 ソルシネアが叫びながら飛んでくる。そして、俺の前まで来ると減速し、そのまま着地した。

 その後、追い付いたガラルとベイシアもソルシネアの横に付いた。



「……さて、まずは一言。よくやった」

「おぅよ!まぁ、あの程度の奴なら、オレ一人でも十分だったけどな!」

「まぁ、そこは別に重要じゃないが……少し問題もあってな……」

「問題、じゃと?……まぁ、なんとなく察せるが、一応聞くかの……その問題とはなんじゃ?」

「お察しの通り、冒険者ギルドがお前らの存在を警戒、並びに危険視した。当然と言えば当然だが、主人である俺も、仲間であるこいつらもな」

「あー……それはすまねぇ」

「いや、別に構わないけどな。警戒こそされたが、俺がAランク冒険者だということが幸いして、少なくともこの町に居る限りは、俺がしっかりとお前らを制御するように、と言われただけだからな」



 そもそも、俺はガラル達を使ってどうこうする気はあまりない。

 仲間に危機が迫っているなら話は別だが、誰かを貶めたり、誰かに威張る為にガラル達を使いたいとは一切思っていない。

 故に、ギルドの忠告はさして意味の無いものなのだが、ギルド側には「問題を起こしたらお前の責任になるぞ」という圧力を掛けた()()が残る。

 これで、ガラル達が少しでも暴れようものなら、即刻俺が処罰を喰らうことになるのだ。

 ただし、この忠告はあくまでもガラル達から仕掛けた場合に限る。全面的に相手が悪い場合は問題にこそなるが、処罰の対象にはならない。

 まぁ、わざわざガラル達に喧嘩を売る相手が居るのかと言われたら、居ないと答えるけどな。



「……にしてもすごいね。ケイン君はこんなにも強い子たちと戦ったんだよね?それで、従魔にまでして……やっぱりすごいよ!」

「……純粋な視線が痛い」

「ふぇ?」



 確かに戦った。そして勝った。

 が、ガラルとはほぼ負けのような状況にまで追い込まれ、ベイシアには懇願され、ソルシネアは自ら来た。

 ガラルはともかく、ベイシアとソルシネアに関しては従魔にした経緯があれなので、ナーゼの思っているであろうようなことは無い。

 が、それを言うのも面倒なことになるので言わないでおく。



「さて、これからどうするか……」

「そうね……昨日のうちに出店はほとんど回ってしまったし……」

「いや、ほぼ全部の間違いではないか……?」

「そうですね……わたしも驚きました」

「……おいし、かった」



 昨日のうちに、やるべきことはほとんど済ませているので、正直に言えばやることがない。

 あるとするなら、ギルドで依頼をこなすことくらいだろうか?



「……?」

「メリア?どうしたの?」

「……どうやら、誰かがこちらに向かってきているようです」

「誰か?一体誰が……っ!?」



 ウィルが後ろを振り向いた瞬間、急に言葉を詰まらせた。俺達も反射的に後ろを振り向くと、ちょうどこちらに歩いてくる男性と、後を追うようにしてギルド職員が一人付いてきていた。

 そして、俺達の顔が見えるくらいまで近づくと、手を鳴らしながらさらに近寄ってきた。



「いやはや、いいものを見させて貰いましたよ。ケイン・アズワード様」

「……誰だ?」

「おっと失礼、わたくしはトランクと申します。以後、お見知りおきを」



 タキシードを身に纏い、トランクと名乗った少し老けた男性が、俺に向かって深々と頭を下げる。

 見たところ、どこかの家に住む執事と見受けられるが……



「すみません、ケインさん……私たちは止めようとしたのですが……」

「はぁ……」

「いやはや、お嬢様からの言伝てをギルドに届けてもらおうとしたらば、今日この場にいらっしゃると聞きましたのでな。せっかくなので見物させていただきました。いやはや、この歳になっても、戦いを見ると熱いものが込み上げてくるものですな」

「……それで、結局なんの用だ?」

「おや失敬、つい語ってしまいました。ケイン・アズワード様宛に、お嬢様からの言伝てを伝えてくるよう言われたのです。最も、貴方は察しているようですがね、ウィル様?」



 トランクの口から、名乗ってすら居ないウィルの名前が出てくる。そこで、俺はようやく目の前の男性の正体に気がついた。

 ウィルの態度の変わりようからして、トランクの正体は人魚族。それも、ウィルとかなり関わりが深い人物だろう。



「では改めて……『ケインさん、お久しぶりです。私のやるべきことも大分落ち着いてきました。ですが、訳あって私は今外の世界へ出ることができません。そこで提案なのですが、私たちの故郷、マリンズピアへ来てくださいませんか?もし来てくださるなら、このトランクに返事をしていただけると嬉しいです。皆さんと再び出会えるのを、楽しみにしています。ビシャヌより』」

「ビシャヌ!?」



 最後に出てきた名前に、思わず驚いてしまう。

 確かに、ウィルもマリンズピアが近いとは言っていたが、こうして直接出向いてくるとは思っていなかった。

 ……確かに、ビシャヌはやるべきことがあると言って故郷に帰っていった。だが、故郷から出られないというのはどういうことなのだろうか……



「……さて、言伝ては伝えました。次は、返事を頂けますかな?」



 トランクが、俺に問いただしてくる。

 俺は、横目でウィルを見た。その顔は少し暗く、けれども、前を見ていた。

 ……それに、あの約束のこともあるからな……



「……分かった。マリンズピア、行かせてもらう」

「そうですか、それは良かった。お嬢様も大変お喜びになることでしょう」

「……それで?具体的にどうするつもりだ?」

「マリンズピアへ行く為の船に乗り、そこから向かっていただきます。とは言え、今日はお疲れでしょう。明日の朝、船場で待っております」



 そう言い残し、トランクは去っていく。

 ギルド職員の女性は俺達に軽く謝ると、すぐにトランクの後を追っていった。



「……ウィル、大丈夫か?」

「……えぇ、問題ないですわ」

「そうか……」



 ウィルにとって、故郷に良い思い出はない。

 だがそれでも、ウィルは問題ないと言い切った。


 次の目的地はマリンズピア、ウィルの故郷だ。

これにて二十五章「調教師vs従魔軍」完結です。


次回二十六章、ついにビシャヌが再登場します。お楽しみに。

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