221 従魔進撃 その2
『なっ、なんとガラル選手!キングリザードの一撃を正面から受け止めたぁ!……って、嘘ぉ!?』
おい司会、お前が驚いてどうする。
さて、ガラルは人化した状態で受け止めた。
と言うことは、だ。恐らく元の姿に戻ったなら、あの程度指一本で受け止められるんじゃないだろうか?……え、なにそれ怖い。
「そぉらよっ!ベイシア!」
「分かっとるのじゃ!」
ガラルがキングリザードを空中に放り投げる。
その時点ですでに人としておかしいが、俺達はガラルが鬼人であることを知っているので「まぁ、できるよな」程度にしか思えない。
そして、空中に放られたキングリザードに向かってベイシアが糸を射出し、キングリザードを絡めると、リンキスに向かって走った。
そして急に足を止めると、そのまま一気に糸を引き寄せた。
「そぉら、お返しするのじゃ!」
「なっ、くそっ!?」
キングリザード達は慣性の法則に従い、真っ直ぐにリンキス目掛けて引き寄せられた。
リンキスはこれをギリギリのところで回避。キングリザードはそのまま地面に叩き付けられた。
『なっ、あっ……な、なんということだ!ベイシア選手、糸を使ってキングリザードを地面に叩き付けた!……ってか今の何!?』
……おい、もはや実況じゃねぇぞ?
いや、気持ちは分かる。今目の前で二人がやった行為って、どれも人間離れしてるからな。
モンスターじゃなかったら、普通あんな動きできないからな。
うん。あいつらが味方で本当に良かったと思う。
「こんのやろっ!」
「あふぅンッ」
リンキスが腰に付けた鞭で攻撃を仕掛ける。
普通の鞭の何倍もの長さの鞭がベイシアに襲いかかるが、ソルシネアがそれを阻む……というか、自ら喰らいに行った。
「ンー、まあまあかナァ」
「……は?」
「痛みハ感じるけド、そんなニ気持ちよくはないかナ……」
「は?え……気持ち……?」
……うん。それが普通の反応だよな。普通に生きていたら、ドMなんて相手にすることないもんな。
ちなみに俺はとっくの昔に諦めた。だって、俺がなにをしても興奮するんだもん。命令で無理矢理抑え込むことも考えたが、余計に酷くなりそうだったから止めた。
「オラァッ!」
「え、あがっ!?」
そして、リンキスが動きを止めた隙に、ガラルが一瞬で距離を詰める。リンキスはソルシネアの様子に呆然としていたため、反応するのが完全に遅れた。
ガラルの拳がリンキスの腹部を捕らえ、糸に巻かれて動けなくなったキングリザード目掛けて飛んでいった。
『なっ……なんという連携攻撃!不抜の旅人、リンキス選手を圧倒している!』
ガラル達が、キングリザードの壁にぶつかって地面に転がったリンキスの元へと歩く。リンキスは、体を上げるのに必死になっていた。
「これで分かったか?オレらの強さがよぉ」
「くっ……なんなんだよお前らはっ……!」
「あん?」
「たかがハーピーの為に、どうしてそこまで怒る!どうしてモンスターごときにそこまで荷担するっ……!」
「どうして……?はっ、愚問だな。お前はなーんも分かっちゃいねぇ。己のことも、モンスターのことも」
ガラルは客席に座る俺に目を向けた。それを見た瞬間、俺は諦めたように項垂れつつも許可を出した。
ガラルはそれを見ると、ニヤリと笑い、再びリンキスに顔を向けた。
「テメェはモンスターを道具だと言った。道具ってのは、心を持たないモンのこと……だが、モンスターには意思がある。生きてんだよ」
「……は?」
「分からねぇか?じゃあ、なぜモンスターは人を襲う?なぜ人はモンスターを倒す?答えは単純、自分が生き残るためだ。自分が生き残るために他者を襲い、己の命を繋ぐ。自分の身を守るために、害となる者を排除する。人間もモンスターも、なんら変わりゃしねぇ。知性があるぶん、人間の方がタチワリぃけどな」
ガラルの発言に、闘技場が静まり返る。
今の発言、下手をすれば、冒険者の在り方そのものを否定するような内容に聞こえてしまう。
だが、ガラルはそんなのお構い無しと言わんばかりに話を進める。
「まぁ別に?モンスターを倒すな、なんて言ってねぇけどな?自然界じゃあ、殺るか殺られるかなんて当たり前。勝った奴だけが生き残る。それが世の中ってモンだ」
「結局、お前はなにが言いたい……!」
「はっ、オレはただ、答えてやってるだけだ。オレらがどうして怒ってんのか、ってやつによ……で、まだ答えてなかった質問があったよなぁ?どうしてモンスターごときに荷担するのか、だったか?そりゃあオレらが……モンスターだからに決まってんだろ?」
「なっ……!?」
瞬間、ガラルとベイシアが魔力の渦に包み込まれ、そして霧散する。
ガラルの額からは肌と同じ赤褐色の角が生え、人化していた時ですら放っていたプレッシャーを、何倍にもさせている。
ベイシアの下半身は、美しい足から蜘蛛へと変貌。眼球の色が紫へと変化し、それに合わせて額に紫一色の目が四つ現れた。
鬼人のガラル。そして、アラクネのベイシア。
ついに、本当の姿を露にした二人を見て、観客にいた人々が騒ぎ始める。
「なっ……あれってまさかアラクネ……!?」
「じゃ、じゃあ、正面の奴って、オーガなのか!?」
「いや違う……あれはオーガなんかじゃねぇ……もっとおぞましいもんだ……!」
あまりの光景に、会場中がパニックになる。
人間の世界に、人に化けたモンスターがいる。その事実が、目の前に現れたのだから。
「さて……改めて名乗ってやろう。オレは鬼人のガラル。テメェらが勝手に付けたランクだと、Aランクモンスター、だったか?」
「妾はベイシア。こやつと同じAランクモンスターが内の一体、アラクネじゃ」
「なっ、なんでそんな奴らがここに……!?」
「はっ、それが一番の愚問だな。最初っから言ってんだろ?オレらはずっと、あいつをご主人サマって呼んでんだぜ?」
「まっ……まさかあいつにテイムされて……!?」
「ちげぇよ。オレらはご主人サマと契約してるんだよ。従魔契約っつう、魂の契約をな」
「魂の、契約……」
「オレらはご主人サマの駒にして兵士!僕にして配下!そんなオレらですら、ご主人サマは仲間だと呼ぶ!そんな奴だからこそ、オレらはケイン・アズワードという男をご主人サマとして認めた!テメェのようなゴミが、オレらを侮辱するなら、それすなわちご主人サマの侮辱!故にテメェはここで殺る!」
「ヒッ……!?」
「安心しろ、どうせ殺せねぇんだ。死ぬほど地獄、見せてやらぁ!」
そこから先は、ただ一方的な試合となった。
力を解放したガラルの一撃が、キングリザード二体を瞬殺。リンキスは逃げようとするも、ベイシアの糸によって捕まる。
そして、ガラルはリンキスの首根っこを掴むと、そのまま反対方向の壁へと勢いよく投げ飛ばした。
動きを封じられ、まともな受け身すら取れないリンキスはそのまま地面を転がり、壁へ激突。そして、そのまま動かなくなった。
「おい」
『……へっ……?えっ?』
「終わったぞ。さっさと宣言しろ」
『え、あっ、か、勝ったのは不抜の旅人!ガラル、ベイシア、ソルシネアの三人……いや三体が、リンキス選手を圧倒したぁぁぁ!』
彼女が宣言した瞬間、結界が霧散していく。それを見たガラル達も、人化を使い人の姿へと戻った。
結界が消えてすぐ、救護班らしき人達がフィールドへ入ってくる。その姿を横目に、ガラル達は舞台から姿を消した。




