220 従魔進撃 その1
最近寒いですが、皆様体調はよろしいですか?
私は一応元気です。
翌日、闘技場は熱狂に包まれていた。
闘技場は普段から誰かしらが戦っているため、常に歓声が沸き上がっているのだが、今日に限っては普段の比ではなかった。
なぜなら、この町に住む人ならば知らぬ人などいない、Bランクモンスターを従えた男、リンキスが戦うと言うのだから。
それに加え、相手はどこにも所属していない冒険者パーティー。未知数な相手を前に、リンキスがどのように戦い、そして勝つのか。
観客席に座った人々は、思い思いに耽っていた。
*
「……まぁ、知ってはいたが、ものすごいアウェーだな」
「……ほんと、私たちが勝つだなんて微塵も思っていなさそうよね」
「それだけ、あの男が人気だということでもありますが」
「ふっ、だが問題などない。勝つのは我らなのだから」
「「みんなー!がんばれー!」」
圧倒的なまでのアウェーな闘技場の一角に、俺達は纏まって座った。
俺達を除くほとんどの人はリンキスに向けて声援を送っており、そうでない人は、未知数な相手に興味深々、といった感じだ。
「……そろそろか」
「……始まりますわね」
「そういえば、彼は3対3を要求してきましたよね?あの時連れていたキングリザード以外に、どんなモンスターを連れてくるつもりなのでしょうか……」
「どんなモンスターが相手だろうが、あいつらは負けない。必ず勝ってくるさ」
「……そうですね。信じましょう、彼女たちを」
少しして、観客達が一斉にとある方向へ目を向けた。
俺達も追うようにその方向を向くと、丁度実況席らしき場所に、一人の女性がやってきたところだった。
その女性が、拡声器を手に取る。彼女が今回の司会進行役なのだろう。
『皆様、大変お待たせいたしました!進行役のメルルと申します!今回の戦いは、この町の住民なら誰もが知る孤高のテイマー、リンキス選手と、世界を旅する冒険者パーティー、不抜の旅人による3対3の決闘!それでは両選手、入場です!』
フィールドに設けられた二つのゲートがゆっくりと開いていく。観客達もいっそう賑わいを見せる。
『さぁ、最初にフィールドに現れたのはリンキス選手……って、これは!?』
メルルと名乗った女性が驚きを露にする。観客達も同じく、驚きを口にしていた。
それもそのはず、リンキスが引き連れていたのは二体のキングリザード。片方は恐らく、この決闘のために新たにテイムした個体だろう。
しかし、この短期間でよく見つけられたものだ。
『リンキス選手!いきなり見せつけてくれます!まさかまさかのキングリザード二体!これに対抗するは、選ばれし三人……いや、二人と一体!不抜の旅人より、ガラル、ベイシア、ソルシネアだぁぁぁ!』
ガラル達も少し遅れてフィールドへ入ってくる。
ガラルは不敵な笑みを浮かべ、ベイシアは口元を隠し、ソルシネアは普段通りに飛んでいた。
……心配はしていない。が、やりすぎないかが心配である。
『さぁ、両選手が睨み会う!それでは……始めっ!』
開始の合図と同時に、フィールドに結界が張られる。この結界で、観客席を守るのだろう。
さて、この闘技場にはもう一つ特徴がある。それは、フィールドにいるガラル達の声が、拡声器に当てたように結界外では大きく聞こえるというもの。つまり、ガラル達の会話が聞けるということである。
「よぉ、逃げずによく来たな?最も、君たちのリーダーはどうやら腰抜けみたいだけどな?」
「はっ、ちげぇよ。オレらがやるって言ったんだ。ご主人サマの出る幕じゃねぇよ」
「ご主人サマねぇ……昨日から思っていたが、君たちは本当に彼をリーダーとして認めているのかい?」
「ア?どういう意味だ?」
「君たちのような女性に戦いをさせているだけに留まらず、自分をご主人サマ、なんて呼ばせている。そんな男がリーダーで不服じゃないのかい?」
リンキスの言い分は最もだ。
ガラル達のことを知らなければ、俺は唯のクソ野郎に見えるだろう……自分で言ってて悲しくなってきたな。うん。
だが、ガラル達は何一つ迷うことなく、その疑問に返事を返した。
「はっ、なにを言うかと思えば。不服?んなもん感じたことねぇよ」
「じゃの。むしろ、妾たちのことを第一に思ってくれる。ご主人として、これ以上ない男なのじゃ」
「ご主人さマと一緒なラ、いつも楽しいヨ?」
「そうか……だが残念だ。こうしてこの場で、彼の無能さを見せつけることになるなんてねっ!」
リンキスが掌をガラルに向けた途端、二体のキングリザードが体格に見合わない速度で駆け出した。
そして、二体同時にガラルに向けて拳を振るった。
『おぉーっと!先に仕掛けたのはリンキス選手!これは早くもダウンかぁ!?』
実況席の彼女も、観客達も、リンキスも。誰もが今の一撃で終わったと確信した。そう思えるほどに、重い一撃だったから。
だが……
「はっ、この程度かぁ?」
「なっ……!?」
土煙が晴れ、姿を表したのは、二体のキングリザード。その拳を、一歩たりとも動かぬまま、片手で受け止めたガラルの姿だった。
ベイシアとソルシネアも、その場から一歩たりともうごいていない。
「さぁ、覚悟は良いな蜥蜴ども!テメェらごとき、すぐに終わらせてやるよ!」
この小説にとって、唯一に等しい無双回 (他の戦いで無双っぽいのはあっても、無双と呼ぶには程遠い)




