219 全力以て
俺の前には、正座で座るガラルがいる。
その両隣には、正座しろとは別に言っていないのに、律儀に正座をしているベイシアとソルシネアがいる。
「……あの、ご主人サマ?」
「なんだ?」
「いや、確かにあんときゃ頭に血が上っちまってたけどよ、あそこまで言われて黙ってろってのは無理が……」
「で?仲間を平然と賭けたと?」
「い、いや……それは……」
「どうなんだ?」
「さっ、サーセンでしたっ!」
普段のガラルからは想像がつかないくらいの、清々しいまでの土下座。ただ、床に思いっきり頭を打ち付けようとする勢いで頭を下げたのは少しビビった。
さて、俺がどうしてこんなことをしているかと言えば、昼間ガラルが勝手に決闘を受けたことに他ならない。
なにせ、勝手に仲間を賭けたのだ。頭に血が上っていたとはいえ、許せる訳がない。なので、正座をさせた上で土下座をさせている。
ちなみに、ガラルは普段があぐらな為か正座はすこぶる苦手らしく、正座をさせて数秒で根を上げた。が、そう易々と許す気もないので、命令で無理矢理正座させた。
「……で、お前らはどうしたんだ?」
「い、いやぁ……止められなかった妾たちにも責任はあるかなぁ……と思っただけなのじゃが……」
「へぇ……なにを止められなかったって?」
「それは、その……「すみませんでした (タ)!」」
「……はぁぁ……もういい。決まったもんはしょうがないからな……」
こいつらの気持ちは痛いほどわかるし、俺だってこいつらを道具扱いされたのは許せない。
だが、やはり仲間を賭けることは許されざることだ。ここはキツく言い聞かせておいたほうがいいだろう。とのことで、こうして正座させたのだが、どうやら予想より良く効いたらしい。
「ベイシア、ソルシネア。正座は止めてもいいぞ」
「……あの、ご主人サマ?オレは……」
「ガラルは正座」
「アッ、ハイ」
「なら、妾も正座のままで……」
「ソルモ……」
「お前ら……!」
なんと結束力の強い従魔達なのだろうか。俺は少し感動を……覚えないな。うん。だって、やらかした後だからね。
……さて、主にガラル一人のせいで決まってしまった決闘。こうなったら最後まで責任を持ってもらうとしよう。
「……話を戻すが、決闘はテイムしたモンスターを含めて3対3。お前達は丁度三人。もう分かるよな?」
「……つまり、責任を持って妾たちで行け、といいたいのじゃろう?」
「そうだ。そして、負けることだけは許さない。故に、お前達に言うことはひとつだけだ」
「ひとツ……?」
「全力で叩き潰せ」
『っ!?』
俺の言葉が想定外だったのか、ガラル達だけでなく、黙って静観していたメリア達も思わず反応していた。
てっきり「穏便にすませろ」とでも言うと思ったのだろうか。
「えっと……ご主人サマ?全力ってのは……」
「文字通り全力だ。ガラル、お前も力を押さえる必要はない。全力でやれ」
「!?」
「ベイシアとソルシネアもだ。戦いにくいなら人化を解いても構わない」
『!?!?』
「ちょっ、ケイン!?人化を解くのは不味いんじゃ……!?」
「……俺だって、あいつの言ってることにイラッてしてるんだ。こいつらは道具じゃない。俺の従魔、俺達の仲間だ。だから、全力で相手をする。全力を以て叩き潰す。二度と、道具なんて言えなくなるように」
「け、ケインさん……?その、すごく怖い顔をしていますよ……?」
自分ではよくわからないが、イルミスがそう見えるならそうなのだろう。
どうやら、自分で思っているよりも俺は怒っているらしい。
とりあえず気持ちを落ち着かせ、改めて三人と向き合う。
「……そういうわけだ。明日、全力でやってこい。全力を以て、俺の従魔として恥じることのない力を見せつけてやれ!」
『はっ!』
三人から、気合いの入った声が返ってくる。
この三人なら、心配ないだろう。
ただまぁ、一つだけ言うとすれば……
(人化解いていいって言ったの、間違ってたかもなぁ……)
ケイン「なぁ……そんなに怖い顔してたのか……?」
メリア「ケインは、いつでもかっこいいよ?」
ケイン「あ、うん。ありがとう。でも聞きたいのはそれじゃなくて……」
イブ「どんなケインさまもイブはすきだよ!」
ケイン「……今聞きたいのはそれじゃないんだけど……」
ソルシネア「あァ……怒ったご主人さマモ……いイッ……!」
ケイン「駄目だこりゃ」




