216 シュセンコスモス
次話が長いので、今回は少し短め
気力、体力、魔力、集中力……全員が持つそれらは、長時間に及ぶ戦闘により限界を超えていた。
何人かの兵士達は死んではいないものの、すでに脱落しており、今はメリアとユアの範囲回復による治療を受けている最中である。
前線で戦っていた俺達もすでに後退しており、今はベイシアの糸で動きを封じながら、少しずつ倒していく方法を取っている。
「っはっ……はぁっ……ほんっと、なんなんだこの数は……!」
「ふむ……さすがの妾でも分からんのじゃ。してご主人よ、まだ休まんのか?」
「すでに一回休んでるぞ……」
「しかし、それは激しい動きをして、無理矢理休まされたものじゃろう?二度三度と休んだところで、バチは当たらんと思うのじゃが?」
「それを言うなら、お前だって一度も休んでいないだろ?ちょっとは休んだらどうだ?」
「む、痛いところを付いてくるの……まぁ、ご主人がそう言うならば、妾は止めはせぬ。じゃが、本当に無茶だけはするでないぞ?」
「あぁ、分かってる」
ベイシアにはああ言ったものの、実際は限界なんて等の昔に越えている。今はただ、残っている気力だけで戦っているようなものだ。
事実、俺達の大半もすでに魔力切れや体力の限界を迎えてしまっている。今動いているのも、回復に徹しているメリア、魔力切れや疲労の概念がないレイラ、素の魔力量の多いイブ、ドラゴンであるイルミス、従魔のガラルとベイシアのみである。
とは言え、イブは魔力こそあれど、気力や集中力に関しては限界を迎えている。イルミスやベイシアも、半ば無理して戦っている。
もはや、全員倒れるのは時間の問題だと思われたその時、待ち望んだ時がやってきた。
「……っ!来た!」
「ナーゼ……?まさかっ!?」
「うん!シュセンコスモスの……開花だよっ!」
ナーゼが宣言すると同時、いつの間にか伸びていた花の蕾が、ゆっくりと開き始めた。
最初は一輪だけだった花も、すぐに十、百、千と増えていく。
「これが、シュセンコスモス……」
「すごい、ですわね……」
「えぇ……」
その圧巻の光景に、俺達は目を奪われる。兵士達も同じようで、戦いの最中であることを忘れそうになっていた。
「……よし、これだけあれば十分かな。ケイン君!」
「っ、あぁ分かってる。レイラ!ユア!傷が酷い奴を優先に、迅速に避難させてくれ!ベイシア!もう少しだけ頼む!」
「あい任されたのじゃ!」
「お前達も、早く逃げ――うぉっ!?」
ナヴィ達に退避を促そうとしたその時、急に体が捕まれたように引き上げられる。そのままなぜか、ガラルの肩に乗せられた。
「えっと……ガラル、何をして……」
「今一番疲弊してんのはご主人サマだろ。担がれるくらい我慢してな!」
「え、いやこれまぁまぁ恥ずか――」
「おらぁ!テメェらもさっさと行くぞ!」
「わ、分かってますわ!」
「イブさん、乗ってください」
「あ、ありがと……イルミス、お姉、ちゃん……」
「おっ、お姉……!?」
「すぅ……すぅ……」
「ね、寝てしまいましたか……」
「……いいなぁ」
ガラルに担がれたまま、戦線を離脱する。ベイシアも頃合いを見て退避を開始した。
その瞬間、それまで押さえつけられていたモンスター達が一斉にシュセンコスモス目掛けて走ってきた。花は次々と踏み潰され、食べられ、花の蜜を至るところに撒き散らす。
綺麗に咲き誇ったシュセンコスモスは、あっという間にモンスター達で埋め尽くされていった。
「……これで、いいんだよな?」
「うん。こればっかりは、ボクたちにはどうすることもできない。だって、彼ら自身が望んだことなんだから」
「そうだな……ところでガラル?そろそろ下ろしてくれるか?」
「ん?あぁわりぃな」
「いやまぁ、助かったけどな……」
ガラルに担がれたままではあまりにも格好悪いので、早々に下ろしてもらう。ただ、ガラルに担がれなければ逃げきれなかったかも知れないので、そこは感謝している。
「……それが最後の材料だったな」
「うん。これでやっと、薬が作れる……!」
ナーゼの表情が、今まで見たこともないような真剣なものへと変わる。ようやく、友を救えるところまでたどり着いたのだ。
後は、薬が間に合うかどうかだけだ。
「それじゃあ、早く戻ろう!……って、皆は……」
「オレ達のことはいい、早く行きな!お前さん達、ナーゼ嬢ちゃんのこと頼んだぞ!」
「あぁ、任された」
ナーゼを先頭に、俺達は城へ向かって走り出す。ここまで来たら、後は時間との勝負。
空は、少しずつ赤みを帯びている。
「……ベイシア、あのドM回収しておいてくれ」
「分かっておる、っと」
「あひゅンッ!?」




