21 戦略とスキルと
新章突入です!
「…見つけた。あっちの方向から来る。」
「オーケー任せなさい!〝空気弾〟!」
ツィーブルを出て二日。
俺達は新しく旅の仲間に加わったナヴィの実力を見せてもらいながら狩りをしていた。
結論から言えば、ナヴィは後衛として圧倒的な能力をしていた。
元々俺のような人間という種は、魔力をあまり多く持たずに生まれてくることが多い。
そのため人間の冒険者、その殆どが前衛職になっている。
だが、ナヴィは吸血鬼。それゆえ、人間よりも魔力の質も量も桁違いなのだ。なので…
「ふふん。どう?」
「この距離でも一撃か…」
一般的な魔法系スキルでも、相応の魔力を込めれば低ランクモンスター程度、一撃で仕留めてしまう程の威力となる。
それに加え、メリアはとてつもない五感を持っている。
つまり、二人が組めば、殆どの敵を相手が視認するより先に仕留めることができる。
それって、つまり…
「…あれ、俺いる?」
「いやいや、ケインがいてこその戦術だから、ね?」
「…うん。ケインがいるから、思いきった攻撃ができる、から…」
「ははは…」
うん。確かにこの戦法だと、先制攻撃に長けている分、接近されてしまうとかなり弱くなってしまう。
なので、その接近してきた敵を俺が相手をすることで安定した戦いができる…
と考えたのだが、そもそもこれは人間どうしでやるならとてもいい戦術だ。
だが、この二人は人間ではない。メリアはともかく、ナヴィは吸血鬼ゆえに力も人以上にある。
…やっぱり、俺いらなくない?
ちなみにさっきから二人が必死にフォローしてくれている。
嬉しいけど、同時に心が痛むよ…
「…まぁ、落ち込んでても仕方ない、か…」
「それに私は接近戦ニガテ…って、もういいの?」
「あぁ、考えたら余計に落ち込みそうだからな…」
「あ、うん…」
「とりあえず、今の俺達ではできないこともまだまだあるし、少しずつ精進していこう。」
「わかったわ」
「おー」
メリア、もうちょっと言葉に気合いいれよ?
…そんなこんなで夜。
俺達は昼間狩った獲物を調理し、食事をしていた。
今までは、あらかじめ買い込んでおいたもので足りていたため不自由さはあまり無かったが、今後の事を考えると甘えていられない。
そう考えた俺達は、食用にできるモンスターを狩ることにした。
昼間の狩りは、ナヴィを加えた連携の確認の意味も込めていたが。
「にしても便利ね、このスキル。私も持っとけば良かったかしら」
「あぁ、今までなんで会得しておかなかったのか疑問になるくらいだ。まぁ、俺だとこんなに持たないから、宝の持ち腐れになるけどな」
ナヴィが言っているのは、今俺達を囲んでいる「安息」というスキルだ。
このスキルは、その名の通り安全地帯を作ることができるものだ。
中に入れるのは、スキルの使用者と使用者が入っていいと定めた人のみで、外部からの侵入は許さない。
ある意味最強の防御スキルとも言える。
ただし、安息にも弱点はある。消費する魔力量だ。
安息は確実に安心を得られる半面、かなりの魔力を持っていかれる。
常人なら10分もっていい方、魔力の扱いに長けた人や魔力量が多い人が使っても、最長で一時間ほどしか持たない。
だが、俺達を囲んでいる安息は、すでに二時間を越えている。それはなぜか。
答えは簡単。使用者はメリアなのだ。
元々、メリアから戦いに参加したいという話を聞いていた。
だが、俺のように接近戦が上手いわけでもなく、魔力が多いと言っても、スキルを覚えたてで加減を間違えるとどうなるかわからない。
どうしようかと悩んでいたときに、ナヴィの加入があった。
メリアは戦いが得意でない分、索敵能力は誰にも負けない。
その索敵能力を十分に生かすための戦術が、昼間の連携と言える。
だが逆に言えば、メリアがやられると一気に崩れてしまう連携とも言える。
そのため、メリアには防御、そして援護に使えるスキルを覚えて貰うことにした。
少し話を剃らすが、スキルの取得方法は大きく分けて三つある。
一つ目は、行動の中で取得する方法。
剣術や体術といった、それぞれにあった行動をとることで取得できる。
二つ目は、スキルの成長によって得る方法。
スキルは何度も使うことで熟練度が上がり、新たなスキルを覚えることができる。
また、条件を満たすことで得られるスキルもこれに該当する。俺の「火炎波斬」がいい例だ。
そして三つ目、スキルロールを使って覚える方法。
これは主に、二つ目の方法で取得できるスキルの概念を組み込んだスキルロールと呼ばれるものに魔力を流すことで、スキルを取得する方法だ。
使いきり、かつそこそこの値段はするが、欲しいスキルをピンポイントですぐ覚えられるため、冒険者の中では重宝されている。
中には、かなり珍しいレアスキルが組み込まれたスキルロールも存在し、そちらは市販品より圧倒的な値段がつけられている。
今回はその三つ目、スキルロールを使った方法でメリアにスキルを取得してもらった。
ナヴィのおかけで魔力のコントロールはできるようになっているので、徐々に覚えていくのもいいのだが、最低限自分の身を守る術は持たせておきたかったからだ。
今回メリアには先程の安息に加え、俺とナヴィが必要と判断した「回復」と「防壁」を取得させた。
どれも攻撃系スキルではないが、全員で相談して得たスキルなので、メリアも文句は言わなかった。
むしろ「やっと参加できる」って喜んでたけどな…
ちなみに安息はお察しの通りレアスキル。
値段は回復と防壁のスキルロールを足し、それをさらに倍にした値段だった。
かなり高くついたが、俺達の生存率は飛躍的に向上したと言っても過言は無いだろう。
「そういえば、もう一つスキルロール買ってたわよね?使わないの?」
「あー…これのことか?本当はメリアに渡そうと考えていたんだが、メリア自身がこのスキルよりも高性能だからな…」
「だったらそのスキル、ケインが取得したら?このパーティーのリーダーなんだし、そのスキルはケインが持っていた方がいいと思うわ」
「私も、ケインが持っていた方がいいと、思う」
「うーん…じゃあ、そうするか」
俺はスキルロールを広げ、メリア達の前で魔力を流し込んだ。




