215 月下乱舞 その3
あの後、無事にアリス達と合流した俺とユアは、再び戦いに身を投じていた。
崖を封鎖したおかげで多少は数は収まりを見せたものの、依然として大群が押し寄せてくる。
また、長時間の戦闘で、一分一秒が何時間の出来事に思えるような錯覚まで現れ始めた。
「っはぁ……はぁっ……」
「おいご主人サマ、大丈夫か!?」
「問題ない……だが、大分キツいな……」
「だろうな。オレらと違って、ご主人サマはあちこち移動してるしなっ!」
「主様、失礼します」
「ユア?なにをぉっ!?」
確かに、俺はアリス達よりも動いているため、体力の消耗が想像以上に激しい。このままの状態で戦うのは危険だろう。
そんな時、ユアに肩を強制的に借りさせられ、そのまま俺は木の上へと連れ去られていった。
「主様は暫く休んでください。今倒れられてはいけませんので」
「……わかった」
「では」
どうやら、少しの間戦線離脱を余儀なくされたようだ。ここで文句を言うわけにもいかないので、大人しく休むことにした。
だが、タダで休むわけにはいかない。せっかく視野が高い場所に居るのだ。指示くらいは出しても問題ないだろう。
「イルミス!右からゴブリンの群れが来るぞ!」
「っ!わかりました!」
「ガラル!オークが増えてきている!対処を頼む!」
「おぅよ!任せとけ!」
視野が広くなったおかげか相手の動きを読みやすくなり、早めに指示を出すことができる。
ただ、やはりというか、自分が戦わずに他人に任せることに罪悪感を感じてしまう。しかし、今はそれを気にしても意味がないので後回しにすることにした。
時間にすれば十分もないくらいだろうか。
暫く体を休ませたことで、なんとか体力が戻ってきた。なので、戦場に戻ろうと思ったその時、空の方が騒がしいことに気がついた。
「……ん?なんか騒がしいな……って、ソルシネア!?」
「アッ、ご主人さマ!ヘルプ!」
見上げると、ソルシネアがモンスターに群がられていた。
一応補足しておくが、ハーピーはCランクに置いておくには強力すぎるモンスターである。
怒らせると手がつけられなくなるかわりに、普段が温厚なのでCランク扱いされているが、その実力は、下手をすればBランク以上とまで言われている。
だが、その実力は個々というよりも、群れで行動するからこそのものでもある。
事実、群れで行動しないハーピーはほとんど居らず、そのハーピーも、大抵は群れを追い出された個体である。
ちなみに、ソルシネアも群れから追い出された個体である。理由はまぁ……うん。言わなくても分かる。
「ヘルプって言われても、空じゃどうしようも……」
「なら、私が行きま――」
「まってユア。わたしが行くわ」
「アリス様?しかし……」
「大丈夫よ、見てなさい!」
ユアを制止させたアリスが、地面を蹴り跳躍する。しかし、どれだけ強く跳躍したところで、人が飛べる高さには限界がある。
アリスも同じように、すぐに失速を始めた。しかし、アリスは不敵に笑みを浮かべると、その言葉を口にした。
「〝空歩〟!」
「なっ……!?」
叫ぶと同時、アリスが勢いよく空中を蹴り、さらに高く飛び上がった。そして再び勢いが落ち始めると、再び空中を蹴り上がる。
そしてそのまま、ソルシネアに群がっていたモンスターを一掃した。
「アリス、ありがトー!」
「お礼は良いわ。それより、貴方は貴方の仕事をしなさい!」
「わかっタ!任せテ!」
ソルシネアは飛び上がると、再び空からの偵察に戻っていった。
……そういえば、ソルシネアならあれでも喜んでいそうなものだが、今回はただうざったく感じていたようだった。
どうしてなのかは……うん。知らない方がいいな。
それにしても、アリスが使った空歩というスキル。俺が知る限り、アリスはそんなスキルを持っていなかったし、そもそも空歩自体が存在していなかった気がする。
「……よっと」
「アリス、今のスキルは一体……」
「空歩のこと?んー……まぁ、愛の力ってことで」
「……はい?」
「それより、体力戻ったんでしょ?今やるべきことは分かってるんじゃない?」
「……まぁそれもそうか」
詮索は後回しにし、俺も再び前線に復帰した。
しかし、何時間、何分、何秒経ったのか、考えている余裕は無かった。
さすがのガラルにも疲れが見え始めており、全体的にも気力が失われかけてきた。
だが、誰一人として弱音を吐くことはなかった。
この場にいる全員は、エイエルを助けたいと願っているのだから。
そして、その時は訪れようとしていた。――が望んだ未来が。
新スキル:空歩
空中を蹴るスキル。魔力消費が激しいぶん、空中での立体機動ができるようになる。レベルによって魔力消費軽減や機能性が向上。
分かりづらい人はスカイ◯ォークとかグラス◯ッパーとかを想像すればいいと思う。




