214 月下乱舞 その2
昨日ポケモン映画見てきました。
普通に泣いた。
わりと最近の話ではあるが、前にも似たような状況に首を突っ込んだことがある。
その時は、ドラゴンによって凶暴化したモンスターの大群が襲ってきた。その中には、ゴブリンキングやオークキングのような上位モンスターもいた。
だが、今回は違う。襲いかかってくるモンスターは、どれも低級モンスター。しかし、その量は前回とは非にならないほど。
ひっきりなしに現れる大群。それに加え、今回は夜明けギリギリまで戦い続けなければならない。
ハッキリ言えば、無理だ。
人は何時間も戦い続けることなどできない。
だがそれでも……
「ガラル!」
「おう!任せとけ!オラオラオラァ!」
「イルミス!お願いするわ!」
「はい!〝竜の息吹〟!」
戦い始めて、どのくらい経ったのだろうか。
体感では何時間と戦ったように感じても、実際は数分しか経っていないのかも知れない。
前線にいる俺達は、それぞれが助けに入れる距離を保ちながら、各個撃破していた。
中でも、イルミスとガラルはドラゴンと鬼人ということもあり、余りある力をもって、一度に大量のモンスターを撃破していた。
だが、どれだけ倒そうとも、モンスターは次々と沸いてくる。近くにモンスターの発生源があるのではないか、と疑うほどに。
「ユア!そっちはどうなった!?」
「正直、厳しいかと」
「わかった……お前ら!少しの間任せたぞ!」
「「「了解 (です)!」」」
その場を三人に任せ、ユアと共にとある場所まで向かう。それは、前線から前進した所にある、少しばかり傾斜のある崖のような場所。
今日の昼前、地図でこの場所を確認した際に「ここを封鎖すれば少しは数を抑えられるのでは?」と思い至った。
ただし、塞げたとしてもこの量が相手ではほぼ意味がないに等しい。だが、僅かでも数が抑えられるならやるに越したことはない。
「ユア、俺はどうすればいい?」
「まずモンスターをある程度一ヶ所に集めます。主様は集まったモンスターを火炎波斬で纏めて倒してください。そうしたら、空いた場所を即座に封鎖します」
「わかった、タイミングは任せる!」
ユアと同時に、モンスターの頭上に飛び出す。
モンスター達が突然のことに動揺を見せている間に、俺達は一気にモンスターを殲滅していった。
それを見てようやく危機感を覚えたのか、動揺していたモンスター達も襲いかかってきた。が、むしろ好都合だった。
「今です!」
「了解!〝火炎波斬〟!」
炎の斬撃が、モンスター達を焼き斬る。
モンスター達の体が燃え広がり、後続のモンスター達の足が止まった。その瞬間、ユアが崖の上から大量の岩を落とした。ゴロゴロと音を立て、大量の岩が積み重なり壁となっていく。
「……よし、これでいいか」
「はい、ありがとうございます」
「よし、早く戻るぞ」
「はい」
崖を封鎖し、モンスターの流れを絶った俺達は、アリス達の元へと戻る。
まだまだ、月は昇ったばかり。
*
「〝空気弾〟!」
「〝水刃〟!」
「〝爆炎〟!」
「降り注げ雷神の豪雨!雷神拡散弾!」
シュセンコスモス前で戦うナヴィ達は、思っていたよりも流れてくるモンスター達に苦戦しつつも、一体たりとも通すことなく殲滅していた。
イブの超火力や、リザイアの広範囲攻撃も勿論だが、最も貢献しているのは、以外にもベイシアであった。
「ゴギャッ!?」
「足元注意、じゃの」
ベイシアはここら一帯に、蜘蛛糸によるトラップを仕掛けていた。
蜘蛛の巣は粘着性のある横糸と、蜘蛛自身が通る為の粘着性のない縦糸。この二つの糸を使って作られる。
アラクネであるベイシアも、同じように糸を使い分けることができ、それらを使ったトラップによってモンスターの足を止めているのだ。
ただし、イブのスキルは炎系のスキルが大半であるため、せっかくのトラップが燃えてしまう点には注意しなくてはならない。
「ふむ、まだ余裕そうじゃの」
「魔力はガリガリ削られてるけれどねっ……!」
「だが、ここを守れなければジ・エンド。ならば、死ぬ気でやらねばならん!」
「ですが、この量はキツいですわ……!」
「全く……このような数、一体どこから沸いてきておるのじゃ……?」
奇しくもケインと同じ疑問を抱くベイシア。しかし、その疑問を解決できるほどの余裕は無く、再び戦場へと戻っていく。
少しだけ、月明かりが隠れたことに気付くことなく。
*
「ぐぅっ!?」
「はっ!」
一瞬モンスターに押し込まれた兵士だったが、飛来してきた矢がモンスターに刺さると、突如として痙攣を起こし始めた。
「麻痺させたよ!今のうちに!」
「あぁ、助かった!おらぁっ!」
「レイラ君、さっきの人は!?」
「ばっちり回収しといたよ」
支援部隊であるレイラとナーゼは、ケイン達ではなく、ガーナ王国の兵士達のサポートに回っていた。
というのも、個々が強い不抜の旅人と比べると、兵士達は動きも拙く、まだまだと言わざるを得ない状態だった。
それを見越して、レイラ達は兵士達側で戦うことにしたのだ。
「……にしても、本当に凄いね。ケイン君って」
「どうしたの急に?」
「ケイン君の側にいる子達って、皆我が強い子が多かったり、得意不得意がハッキリしてる子達ばかりでしょ?なのに、しっかりと全員を纏められてる。それだけじゃない。ボクみたいに、仲間じゃない他の誰かもしっかりと導いてくれる。普通、そんなことできないよ」
「うーん……ケインだから、としか言えないかなぁ」
「あはは、そうだね。ケイン君だからできることなのかも知れないね」
ほんの僅かな間、二人はそんな会話をした。
緊張感は忘れず、けれどその会話で、お互いの気持ちを知ることができた。
「それじゃあ、また後で!」
「うん。ボクも頑張らないと……待ってて、エイエル!」
戦いは終わらない。夜明けが来るまで。
僅かに曇りつつある夜空に、誰も気付くことのないまま。




