212 エイエル・ガーナ
新年早々色厳選してました。
会話多めなので、少し読みづらいかもしれません。
エイエル・ガーナ。ナーゼが必死になって助けようとしている人。
目の前にいる彼女は見るからに弱っており、いつ倒れてもおかしくないような状態だった。
「あぁ、そうでした。ケインさん、この度はナーゼが大変お世話になったようですね。友人として、心からお礼申し上げます」
「あ、いや、そんなかしこまれても……」
「ふふっ、好意は素直に受け取っておくものですよ?」
「え、あ、はい……」
「素直でよろしい」
……なんだろう、見て分かるくらい病弱なのに、何故か逆らえる気がしない。いや、勿論逆らうべきことには全力で逆らうが。
なんと表現するのが正しいのか分からないが、彼女と話していると、毒気を抜かれたような感じになる。
ただ、このまま彼女のペースに飲まれる訳にもいかないので、ナーゼに話題を振ることにした。
「そういやナーゼ、薬の方はどうなんだ?」
「ばっちり!……って言いたいんだけど、実はあと一つだけ足りないんだ」
「あと一つ?」
「シュセンコスモスっていう花なんだけど、実はこの国の近くに群生地があるんだ」
「へぇ……じゃあ、どうして取りに行かないんだ?」
「それは――」
「わたしから説明します」
ナーゼの言葉を遮るように、エイエルが割り込んできた。
ナーゼは少し驚いたようだが、すぐにエイエルに任せることにした。
「シュセンコスモスは、みなさんが取ってきてくれた結晶蝶が好むガーベルレンゲ同様、変わった性質を持つ花なんです」
「変わった性質?」
「はい。まず、シュセンコスモスは月明かりによって育ち、日によって枯れます。そのため、シュセンコスモスが咲いていられる時間は日の出も加味すれば三十分もありません」
「なっ、それだけしかないのか……!?」
日の入りから日の出までを八時間とすると、シュセンコスモスが開花するまでに七時間半、花開いていられるのが三十分、日に当てられた時点で枯れていく、ということになる。
しかも、日によってはその時間が変動する。いつまで咲いていて、いつ枯れるのか想像ができないということだ。
「さらに言うと、シュセンコスモスはある一定の周期でしか育ちません。なので、ここ数年は咲いているとの情報すらないのです。そして、これが最も問題なのですが……ゴホッ!」
「エイエル!ほら、無理しないで……」
「ご、ごめんね。ナーゼ……」
「全く……じゃあ、ボクから説明するよ。シュセンコスモスは子孫を残すために、とある方法を取るんだ。それは、成長する段階でとあるフェロモンを分泌することなんだけど……」
「フェロモン?それがどうかしたのか?」
「そのフェロモンには、モンスターを呼び寄せる効果があるんだ。それも、異常な数をね」
「なっ……!?」
「シュセンコスモスは、普通の花みたいに胞子を飛ばしたり、花粉を運んだりしてもらって子孫を増やすわけじゃないんだ。シュセンコスモス自身をモンスターに踏み荒らしてもらって、その際についた液で子孫を残すんだ」
「……なるほどね。つまり、秘薬を作るには開花したシュセンコスモスが必要。けれど、開花する前にモンスター達に踏み荒らされ、その時が来たころには、無事な花は残されていない……そういうわけね?」
「うん、そのとおりだよ。一応、シュセンコスモスは開花した後に摘めば、日が出ても枯れることはない、ってのは救いなんだけれどね」
ナーゼが話した内容は、想像よりも過酷なものだった。
最後の材料となるシュセンコスモス。その花を手に入れるためには、モンスターからその花を守らなければならない。
しかし、話を聞く限り、一輪でも相当な数が寄ってくる。それに加え、先程ナーゼが言っていたように、この近くにあるシュセンコスモスは群生している。つまり、呼び寄せる数も尋常ではないということだ。
「それで、肝心の開花はいつなんですの?」
「……実は、明日なんだ」
「……へ?」
「ボクが少し調べたんだけど、ちょうど明日、シュセンコスモスが成長する周期に入ることが分かったんだ。植物達にも聞いたし、間違いないないと思うよ」
「……それは、他の奴らは知っているのか?」
「一応、お城の人たちには伝えてあるよ。ただ、町の方には伝えてないんだ」
「どうして?ほかのぼうけんしゃのちからをかりないの?」
「借りたいのは山々だけど……全員が全員、この町に思い入れがあるとは限らない。それに、シュセンコスモス開花まで戦い続けなきゃいけない。そんな面倒事に、冒険者たちが食い付いてくると思う?」
「……いや、ないだろうな」
冒険者とて、命は大事。
たかだか花を守るために、命を掛けてまで戦おうとはしないだろう。
それに、町で暮らす人々に不安を抱かせなさたくない、という思惑もあるのだろう。
「……ただまぁ、食い付く冒険者がここにいるんだけどな」
「……ふぇ?」
「ここまで聞いて、はいそうですか、って投げ出すわけないだろ?俺達も手を貸す。いいよな?」
「……ん、やる」
「仕方ありませんわね」
「ふっ、我が力を求めるなら、乗ってやろうではないか……!」
「つまり、全部ブッ潰せばいいんだろ?」
「まぁ、妾はご主人に従うまでじゃな」
「みんな……ありがとう!」
ナーゼが歓喜のあまり、僅かに涙を浮かべる。
メリア達もやる気のようだ。
「それじゃあ、その時が来たら連絡するよ」
「わかった」
「……それでは、この王城にお泊まりください。宿からでは、迅速に動けないでしょうし」
「……その提案はありがたいが、俺達はよそ者。あまりこの場にいない方が……」
「問題ありませんよ。ナーゼ、わたしが許可したと伝えておいてくれますか?」
「わかった!じゃあ、案内するね」
ナーゼが部屋を出ようとする。俺達もそれについていこうとした時、エイエルに声を掛けられた。
「ごめんなさい、ケインさん。後で少し話せないでしょうか?」
「後で?今じゃ駄目なのか?」
「……はい。できれば、夜中にお願いしたいのですが」
「……わかった」
なにやら深刻そうな顔をしているエイエル。
友人であるナーゼも、その内容が分からないようで、不思議そうな顔をしていた。
*
「……どうでしたか?泊まり心地は?」
「……なんというか、場違い感が凄かった。あぁでも、風呂はゆっくりとできたな。メリア達もゆったりできたみたいだしな」
「それはよかったです」
深夜、言われた通り、エイエルの部屋へとやって来た。月明かりに照らされ、白い肌も相まって、言い方は悪いが不気味に見えた。
「……それで、話ってなんだ?わざわざ全員がいない時を選んだ。他の誰にも聞かれたくない話なんだろ?」
「……はい」
そして、エイエルは俺に話し始めた。
日はすでに変わっている。今日、命を掛けた戦いが幕を明ける。




