211 ガーナ王国
あけましておめでとうございます。
今年も、ケイン達共々よろしくお願いいたします。
というわけで、新章開幕です。
命とは、たった一つしかないその人だけのものである。
その命を産み出すのが人であれば、育てるのもまた人。生かすも殺すも人それぞれ。
さて、今回の話は、そんな命に纏わるお話。
不治の病によって余命僅かとなった女性と、その病を治すために奮闘する少女の物語、その結末。
向かう末路はハッピーエンドか、それとも……
*
「……見えてきた」
「あぁ、あれがガーナ王国だ」
エクシティでの騒動からから一週間ほど経った。森を抜け、整備された道を歩き、俺達はガーナ王国へとやってきた。
地図で見る限り、四方を大自然に囲まれており、自然を尊重した国となっているらしい。
「それじゃあ、早速……」
「……待って」
「どうしたんですの……っ!?」
いざガーナ王国へ向かおうとした俺達だったが、メリアが待ったをかけた。
その瞬間、近くにあった木々がざわつき始めた。そして、そのうちの一本から、一人の少女が飛び出してきたのだ。
「みんな、久しぶり!」
「ナーゼ!?」
これまでにも何度か出会ってきたドリアードの少女、ナーゼ。
茶緑色で少し短めの髪と、眼鏡の下には俺と良く似た橙色の瞳。白衣を身に纏い、白衣の下には魔法鞄が巻かれている。
「俺達が来たこと、よく分かったな」
「ボクはドリアードだよ?みんなが近くに来たら教えてくれるよう、草木に頼んでおいたんだ」
「なるほど、そういうことか」
「それじゃあ、約束通りガーナ王国を案内するよ!ついてきてね!」
「あぁ、頼んだ」
ナーゼを先頭に、今度こそガーナ王国へと向かう。門番に止められはしたが、ナーゼがいたこともあり、ほぼ顔パスで通過した。……ありがたいけど、大丈夫なのかそれ?
そして、ガーナ王国へ入った俺達の目に、その街並みの様子が映った。
「ようこそ、ガーナ王国へ!」
中央道路は広く取られ、ちょうど等間隔になるように、左右に木が植えられている。
全体的にレンガや木造の家が多く、自然に寄り添った街並みになっていた。
そして、奥の方には白く大きな城があった。
「さて、どこから行こうかな?」
「なら、先に冒険者ギルドに行かせてほしい。後々行くのも面倒になるからな」
「わかった。じゃあ、ついてきてねー」
ナーゼの案内のもと冒険者ギルドへ向かい、処理を済ませる。
その後はナーゼに任せ、露店、雑貨屋、食事所、宿屋、ガーナ王国にある名所等を案内してもらった。
「――そして、ここがガーナ王国のシンボル、王城だよ!」
「おぉ……」
「……小、さい?」
「……メリア?エルトリートと比べたら駄目だぞ?」
「……あっ、ナーゼ、ごめん……」
「いいよいいよ。ガーナは王国って名付いているけど、元々は王族が密かにやってくる、言わば別荘地みたいな場所だったんだ。何百年か前に引退した王族が住み着いてからは、少しずつ名前が知られて、ついには王国って名付けられたみたいだけどね」
「へぇ……そんな歴史が……」
「まぁ、ボクも少し資料で読んだだけだし、本当の所は分からないけれどね」
ナーゼはそう言ったが、俺には今の話は本当なんだろうな、と確信していた。
と言うのも、先程まで頼んでいたナーゼのガーナ王国観光。色々な場所を巡った割に、予想より早い段階でこの城までの案内が終わったのだ。
そこで、密かに地図スキルで見た結果、そこまで国土が大きくないことが分かったのだ。
仮に王国ならば、もう少し繁栄していてもおかしくないと思っていたが、今の話で腑に落ちた。
「それじゃあ、王城の中に入るけど……少しだけ、気をつけてね」
「気をつける?」
「うん。少しだけ、黙ってついてきてくれると嬉しいかな」
「黙る……?いや、分かった」
「ありがと」
ナーゼの含みのある言葉に困惑したが、ここは素直に従うことにした。
そして、城に入るや否や、その言葉の意味を理解した。
……王城で働く人達が皆、どこか落ち着きのないような表情や感情になっていたのだ。
そういった感覚が鋭いメリアは余計に感じ取ってしまうのか、ピタリと俺の側に張り付いてきていた。
そして、ナーゼは数ある扉のうち、質素な扉の前で立ち止まった。そして少しだけ扉を開けると、覗き込むように首を入れて話し始めた。
「エイエル、連れてきたよ」
「えぇ、どうぞ」
「わかった。じゃあ、行くよ?」
ナーゼが少しだけ開いた扉を開ける。
ナーゼに続き俺達が入ると、そこにはベッドで横たわりながら、体だけ起こした女性がいた。
「初めまして皆さん。エイエル・ガーナと申します」
「初めまして、ケイン・アズワードと申します。旅をしながら、冒険者として活動しています。こっちは、俺の仲間達です」
「ふふっ、そんなかしこまらなくても良いですよ。普段通りで構いませんから」
「そうですか?なら、そうさせてもらう」
「はい、そうしてください。……それにしても、随分と可愛らしい子達ばかりで……モテモテですね」
「……モテモテかどうかはともかく、俺にとっては、全員が家族のようなものだ」
「家族、ですか……なら、大切にしてあげてくださいね?」
「あぁ、勿論だ」
エイエルと名乗った女性が、少し笑みを浮かべる。そんな俺達はと言うと……困惑を通り越して、動揺していた。
なにせ、肌色は白く、体は痩せ干そっており、見るからに動いていないことが分かる。
おまけに、その笑顔も僅かに無理をしているのが分かってしまった。
「……ナーゼ、もしかして」
「……うん。みんなも知ってると思うけど、エイエルはボクの友達で……ボクが助けたい人なんだ」
そういえば、去年色々と補足し忘れていたことが幾つかあるので、それについて今のうちに解説
・ユアの武器は「短刀」としていましたが、形状はカランビットナイフと呼ばれるものです。ただし、今後もナイフではなく短刀と書きますのでご了承ください。 (ちなみに、去年初めてカランビットナイフの存在を知りました。ようは後付け設定です)
・後で追記しておきますが、十四章までのお話、つまり第一節としている部分の話は「失いしもの」という裏タイトルがあります。今後とあるキャラについて語る際の必須ワードなので、覚えておいてください。ちなみに、この第二節にも裏タイトルがあります。
・人族、亜人と分けてはいますが、全体を指す際には、人族亜人問わず人間や人と呼んでいます。ここばかりはどうしようもなかったので、ご容赦ください。
・〝双炎斬〟という名についてですが、「波」という文字が含まれていないのは何故?と聞かれたので答えます。
これまで、波斬のように殆どのスキルにつけられていた「波」という文字ですが、これは「斬撃を飛ばす」スキルということでつけていたものです。
今回の双炎斬につきましては、「直接二刀で斬りつける」スキルということもあり、「波」という文字がつけられていません。




