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209 決別の焔

決着

「おいおい……どうなってんだありゃ……」

「さっきまで優勢だったのに、なんで押されてんだよ……!」



 ケインと自称勇者の戦いを見ていた冒険者達が、次々と焦ったような声で呟きはじめる。

 それもそのはず、先程までケインが優勢だったというのに、突如として自称勇者が一方的に攻撃を開始したのだ。その突然の変わりように、驚くのも無理はなかった。



「クソッ、このままじゃ……」

「……なるほど、そう言うことね」



 そんな中、冷静に戦いを見ていたナヴィが、なにかに気がついたように小さく呟いた。



「あ?あんた、なにか分かったのか?」

「えぇ。あの勇者を名乗った男、今成長したのよ」

「成長?バカな、そんな短時間で……」

「この広間に来る前、ケインはあいつの攻撃を躱していた。けど、ここに来てからは?」

「……躱してねぇ」

「恐らく、その時点で〝剣を振る速度〟が成長したんでしょうね。そして今〝剣で与えるダメージ〟が成長した」

「はぁ!?なんじゃそら!?」

「……ガラル、貴方なら分かるんじゃないかしら?」

「あぁ、オレから見ても、あの野郎自身に変化があったようにしか見えねぇ。それも一瞬だ」

「……だとすれば、恐らくスキルの影響ね。条件は分からないけれど、異常な速度で成長するスキルを持っている可能性が高いわ」



 ナヴィの推理は当たっている。

 勇者である健也は、〝急成長〟のスキルを持っている。その名の通り、所持者が急速に成長するスキルであり、どれだけ平凡な人であろうと、あっという間に超人と化せるスキルなのだ。

 故に、誰も健也に勝てない。故に、誰も健也を止められない。

 このスキルこそが、健也を勇者に仕立て上げたと言っても過言ではなかった。



「……それが本当なら、アイツが勝てる訳がないじゃねぇか!」

「確かに、急速に成長するやつを相手にするのは無謀だ。わざわざ負け戦を挑むようなもんだしな」

「だったら――」

「――だが、今戦ってんのはオレのご主人サマだ。ご主人サマが、あの程度の相手に負ける訳がねぇ。テメェらもそうだろ?」

「そうね、ケインが負けるわけないわ」

「……だい、じょ、うぶ。ケイ、ン、は、勝つ」

「ケインさまー!がんばれー!」



 冒険者達は少しばかり戦慄した。

 今の話を聞くだけで、ケインが化け物を相手にしていることはよく分かった。

 だというのに、ケインの仲間達は、ケインが勝つことを一切疑っていなかったのだ。


 だからこそ、彼らはケインを見た。

 仲間のために、一人で戦う彼の姿を。



 *



「うらぁっ!」

「ぐぅっ……!」



 男の重い一撃が、再び襲い掛かる。

 突如として男の力が増した途端、それまで優勢だったハズの攻防は、一瞬にして男の方へと傾き、今や一方的な展開となっていた。

 幸い、致命傷になる攻撃は受けていないものの、ただの一撃ですら重い。自己修復があるとはいえ、天華と創烈、どちらかだけで受けるのは避けたいほどだ。



「はっ、最初の威勢はどうした?」

「はぁっ……はぁっ……」

「その刀も、結局は見かけ倒し。俺の聖剣には遠く及ばないなまくらってことだ」

「……」

「て言うかむしろ、それは俺が使った方がいい武器だよな?その方が、そいつらも嬉しいだろうしな!」

「勝手に、決めてんじゃ、ねぇ……!」

「はぁ?モブキャラの癖にまだたてつこうっての?いい加減諦めなよ。あれだろ?最初俺より強かったからって調子に乗ってたんだろ?ざぁーんねん!俺は勇者で主人公!お前はモブキャラ!主人公の前では、モブキャラは負ける運命なんだよ!」



 その瞬間、俺の頭は怒りの感情で満ちた。

 それは、俺達にとって最も聞き捨てならない言葉の一つ。


 メリアは、世界を滅ぼす存在になる。そうなる運命にある。

 だが、メリアにそんな運命を背負わせてはならない。そう思わせてしまうほど、メリアは優しい心を持っていた。

 だからこそ、俺はその運命を変えてやりたいと願っている。仲間として、恋人として、家族として。


 だから、定められた運命なんて言葉は許せない。許してはならない。

 それを認めたら、俺達は前へ進めない。

 それを黙視したら、俺達は必ず後悔する。

 だから、俺は――



「運命……そんな言葉で、お前は自分の全てを正当化するんだな」

「正当化?何を言っている。これは決められたこと。主人公である俺が、負けることはないという運命なんだよ!」

「嗚呼そうかよ……本当に、理解できない」

「理解できない?なにを今さら。俺とお前では、住む世界が――」

「違うだろうな。絶望を知らないままのうのうと生きてきたお前に、俺達の苦しみは理解できない。俺達の思いも、覚悟も理解できない!」



 無意識に、魔力が溢れる。

 その全てが両手に集まり、天華と創烈が紅く染まる。そしてそれは、轟々と燃える焔となる。

 それを見た男の顔が、僅かに歪む。だが、すぐに持ち直すと、再び余裕そうに笑みを浮かべる。



「はっ、ははっ!モブキャラの癖に、妄言は一丁前だな!」

「そうやって、お前は目の前の現実(こと)から逃げている」

「……っ!?」

「自分の都合の悪いことから逃げて、全て他人に押し付けて……そうやって逃げて、お前は自分を正当化する」

「お、お前!主人公に向かって、そんな減らず口を叩いたらどうな――」

「嗚呼、もうそれも聞き飽きた。お前は敵だ。少なくとも俺達にとってはなっ!」



 俺は駆け出す。

 男は一瞬怯んだが、すぐに聖剣を持ち直し、同じように駆け出してきた。



「「これで、終わりだっ!」」



 聖剣が光を放つ。

 天華と創烈が燃え上がる。

 男が聖剣を振り上げ、俺が交差させるように二本を振り下ろす。


 そして、ぶつかり合った瞬間、魔力が爆発を起こした。大地が割れ、空気が震え、突風が巻き起こる。

 その場にいた誰もが、まともに立っていられないほどの衝撃が、そこから放たれた。



「ぅらあぁぁぁぁぁ!!」

「なっ――」



 俺は叫び声を上げた。その瞬間、焔はさらに燃え上がる。

 そして――



 *



 爆発が終わり、閃光と煙が徐々に晴れていく。

 その場にいた誰もが、結末がどうなったのかわからない。


 だが、唯一一人だけ、その結末に気がついた者がいた。



「けほっ……ど、どうなったんですの……?」

「……だい、じょう、ぶ」



 メリアが見つめる先の煙が晴れる。

 そこに立っていたのは、一人だけ。



「ケイン、は、負け、ない。でしょ?」



 ケインの近くには、地面に突き刺さった聖剣。

 そして、ケインから見て正面の壁際。そこに、無様に転がっている男の姿があった。

今年中に後一本行けるか怪しい……ので先出しで言っておきます。


皆様、良いお年を!

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