206 曰くモブvs主人公 その1
少し現実が忙しい……でも書く
ギルド裏、大広間。
普段なら大して人の集まらないこの場所に、今は沢山の人が集まっていた。
「はっ、モブキャラのくせに、俺に歯向かうとはいい度胸だ。誉めてやる」
「……」
「だが、結果など決まっている。この俺の勝利以外あり得ないのだからな」
「はぁぁぁぁぁぁ……」
自信満々に勝利を宣言する男に対し、俺は盛大にため息をついた。
正直、気分以外は目の前の敵を倒す気でいる。しかし、いざ目の前にすると、気分の方はめんどくさいとしか考えられなくなった。
どこからそんな余裕が産まれるのか分からないが、勇者を名乗る以上、なにかしらを隠し持っている可能性がある。それに気を付けなければならない。
そんな俺達の間に、エクスがやってくる。
ちなみに、ルールは決闘の時と同様、相手を戦闘不能にさせるか降参を貰うまで。
前に決闘を行ったテドラでは、武器に非殺傷の加護をつけていたが、この街ではこの大広間自体に非殺傷の加護が成されているらしい。
なので、この大広間にいる限り、誰一人として犯罪を犯せないというわけだ。
「それじゃあ、準備はいいかな?」
「あぁ、問題ないな!」
「……いつでも」
「それじゃあ……始めっ!」
エクスはそう宣言した後、すぐにその場から身を引いた。あまりにも無駄の無い動きに、少々感心してしまう。
「よそ見とは、いい度胸だなっ!」
男が駆け出し剣を振り上げる。それを俺は、抜刀した天華で受け止める。
別によそ見をしていた訳ではないが、事実でもあるので訂正はしない。というか、めんどい。
さて、改めて戦いに意識を戻す。
男が使うのは両刃の剣。天華と創烈を手にする前に使っていたタイプの武器だ。
一般的な剣は扱いやすさが売りとなっており、故に初心者からベテランまで、幅広く使われる武器でもある。
だが、男が持っている剣は、一般的な剣とは程遠いものであろう。
見た目が派手なのはそうだが、なによりも違うのは、剣自体に魔力が流れていること。魔力眼があるからこそ見抜けたが、普通なら気づけないだろう。
「はっ、受け止めたことは誉めてやる。だがっ!」
「……っ!」
「俺の剣は聖剣!そこらのなまくらとは訳が違うんだよ!」
剣に魔力が込められ、その余波で僅かに吹き飛ばされる。事実、男の持つ剣は魔力を込めた瞬間、聖剣の名に恥じないような威圧感を放ち始めた。
大広間に集まった冒険者達も、魔力に当てられ少しざわつき始める。冒険者としての本能が、あの剣が危険なものであると感じ取ったのだろう。
確かに、魔力が込められた今の聖剣とやりあうのは面倒だ。だが……
「今、なまくらと言ったか……?」
「あぁ、言った。この聖剣の前では、どんな武器だろうとゴミ同然なのだからな!」
「そうか……その言葉、後悔するなよ?」
俺は天華を構え、力強く地面を蹴る。
歩数にして僅か三歩。その三歩で一気に距離を詰めると、俺は天華に魔力を流し込み、ただ力任せに振り上げた。
勿論、男は聖剣で受け止める。魔力の流れている聖剣が押し負けるハズが無いのだから。
天華でなければ、の話だが。
「なあっ!?」
天華と聖剣がぶつかった瞬間、先程の余波がちっぽけに思えるほどの衝撃波が冒険者達を襲う。
その衝撃波を目の前で食らった男は、その場から一気に弾き飛ばされる。無様に地面を転がり、土埃を巻き上げる。
「かはっ!なっ、なにが……!?」
「……悪いが、俺の天華はなまくらじゃない。一人の職人が、情熱と、命と、己の全てを込めて作り上げたもんだ。たかだか聖剣ごときを手にしただけで調子に乗るなよ?」
「聖剣ごとき、だと……!?ふざけるなっ!」
あえて挑発してみたが、やはりと言うか、予想通りの反応が帰ってくる。
対して魔力を込めなかったとはいえ、聖剣が折れていないところを見るに、その耐久性は確かなようだ。流石は聖剣。
……しかし、今ぶつかり合って確信したことがもう一つある。それは、アイツは聖剣を使いこなせていないということ。
本人の腕だけの話でない。聖剣自体、まだ全力を出し切れていないのだ。
そして聖剣を握り締め、再び男が切りかかってくる。俺も、再度天華で受け止める。
つばぜり合い、衝撃波が飛ぶ。
戦いはまだ、始まったばかり。
*
「ケイ、ン……」
「……大丈夫。ケインなら勝てる」
「信じましょう。わたしたちのリーダーを」
メリア達は、目の前で繰り広げられる戦いを、じっと見つめていた。
勇者、そして聖剣に全く臆すことなく、天華を振るい続けるケイン。それがどれほど大変なことか、魔力や衝撃波によって、嫌と言うほどに伝わってくる。
と、メリアの魔法鞄がもぞもぞと動きだし、そこからコダマがひょっこりと顔を出した。
「く、くぁ……」
「……あ、起き、ちゃった?」
「く……うぁっ!?」
その直後、再び魔力の衝撃波。寝ぼけていたコダマを、一瞬で目覚めさせた。
「……今、ケイン、戦ってる。私、たちの、為、に」
「くぅ……く?」
「……コダマ?」
コダマが、ケインのいる方向を向いた瞬間、コダマが驚いたような鳴き声を出した。
メリアが呼び掛けるも、コダマは視界を前に向けたまま動かない。
ケインと戦っている男を、その小さな瞳に写したまま。




