表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/413

閑話 ツィーブル

 オレの名はドガル。

 このツィーブルの町で市長をやっている。


 この町は今、活気の裏にある恐怖心というものに脅かされていた。


 それもその筈、このツィーブルの大切な遺産である城を、ヴァンパイアに乗っ取られた。それだけに留まらず、そこに訪れた我々に牙をむいてきたのだ。

 そして、襲われて帰ってきた我々の姿を見て、「私たちでは勝てない」「いつ襲われるかも分からない」「外から来るのは恐ろしいヤツかもしれない」と、思考がだんだんと悪化していった。

 そのため町の人々は、日夜問わず外からの来訪者に脅える日々を送ることとなった。

 オレも、外から来たものでは分からない、日に日に悪くなっていく住民の気持ちに感化され、だんだんと不安で悩まされるようになった。



 そんなある日だった。


 オレは、趣味兼住民達の様子を見るためにやっている、月に数回の出店を開いていた。

 見るからに分かる、住民達の作り笑い。

 かくいうオレも、不安でいっぱいになった頭を圧し殺して笑顔を作っていた。


 そんなとき、オレの店の前に一人の少女がやって来た。

 緑髪の少女は、オレが焼いていた串焼きをジッと眺め、今にも垂れそうな涎を飲み込んでいた。

 どうしたものかと思っていたら、恐らく仲間であろう少年がやって来た。

 …どうやら、オレの店から出る匂いにつられてやって来たらしい。

 商人としては嬉しいが、やはり少し恐怖を感じてしまっているのが分かってしまう…

 そんなことを思っていると、少女の方から話を振ってきた。


「おじさんは、この町の人?それとも、違う町の人?」


 最初、オレはこの質問の意味を理解することができなかった。

 だから、「この町の人だ」と答えた。

 そして、オレは質問の意味を知った。


「…ねぇ、あな、たたち、は、何、を恐、れて、いる、の?」


 戦慄が走った。

 恐怖心を悟られたのだ。この少女に。

 しかも、町全体に広がっている恐怖心をも悟られていた。

 オレは、どうすればいいのだろうか…



 結局オレはあの二人、ケインとメリアに、絶対に口外しない事を条件に、この町の事情を話すことにした。

 己の正体をあかし、町の事情を全て話した。

 勿論、口外はしないよう取り決めたが…やはり信用してよいものなのだろうか…人は良さそうなのだがな…



 前言撤回。この二人、とんでもないことをしてくれた。

 口外するなんて生ぬるい。なんとあのヴァンパイアに直接会ってきたのだ。

 だが、彼らから聞かされたのは意外なものだった。


 あのヴァンパイア、かなり温厚な性格だったらしい。

 我々に襲いかかってきたのも、ただの勘違いから来たものだという。

 …しかし、本当にそうなのだろうか。

 実は、会ってきてなど居ない。オレ達を騙しているのでは。

 そんな考えが頭を巡っていると、突然


「っ、伏せろ!」

「え?」


 とっさの事ですぐに動くことができず、オレは謎の衝撃波のようなものを受け、壁まで弾き飛ばされた。

 何事かとそちらを見ると…



 ヴァンパイアが居た。



 見間違えるはずもない。あの城に居座ったヴァンパイアがそこに居た。

 オレは、動けなかった。

 やはり、あの二人は嘘をついていたんだ。

 オレを油断させて、襲わせるように仕向けたんだ。


 そう、思っていた。



「私あの城出て、ケイン達についていく事にしたから」



 …はい?


 今なんと?

 え、城を出ていく?

 それに、この二人についていく?

 オレの頭の中が、ハテナで埋め尽くされていく。

 そんなオレを余所に、彼らの方はあのヴァンパイアを連れていくことに決めたようだ。

 まぁ、とりあえず、


「…オレ、ここにいる意味あるのか…?」





 結局のところ、あのヴァンパイアは…いや、もうそんな呼び方は止めよう。

 あの吸血鬼はケインとメリア、あの二人についていくことになった。

 近々大きく張り出そうとしていた吸血鬼の討伐依頼も取り下げ、彼らに報酬金を渡した。

 我々の不安の芽を、こんな形であれ解決してくれたのだ。オレには支払う義務がある。

 そして、彼らからの提案で、彼らがこの町を出た時。その時になったら、吸血鬼が城から居なくなったことを表沙汰にすることになった。

 当然だな。もう居なくなるとはいえ、彼らの出発の準備が整うまでは、この町に居るわけだから。



 そして翌日、彼らは旅立っていった。

 それは、オレ達にとっては朗報であり、同時に申し訳なさを感じることであった。


 もう、人々の作り笑いは見たくない。

 まだ余波は残るであろうが、時間がたてば、本当の笑顔でいっぱいになるだろう。



 その時には彼らを…ケインとメリア、ナヴィを、この町の本当の姿で歓迎したいものだ。

これにて「運命の門出」編は終わりです。

次回より、新章突入します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ