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202 若きギルド長

「立ってるのもなんだし、そこに座りなよ。えーっと、確かここに折り畳み式の椅子が……あったあった」

「……一応聞くが、なんでそんなものがあるんだ?」

「あぁ……前のギルド長、どうしても忙しい時期があって、椅子を足場がわりにしてたみたいなんだ。それで「なにがあるか分からんから、とりあえず置いとけ!」みたいなことを言われて……」

「……で、使ってるのか?」

「うーん……多分、今日が初めてなんじゃないかな?」



 どこか諦めているような口調で、前ギルド長の真似をしながら説明をしてくる現ギルド長、エクス。

 その顔立ちは若々しく……というより、俺達と対して差が無いように見える。年齢が近いか、老いが遅いのだろうか。



「さて、改めて自己紹介するね。僕はエクス。元冒険者で、今はギルド長をやっている者だ」

「ケイン・アズワードだ。……ところで、あんたは元々冒険者だったのか?」

「うん。だけど、前のギルド長が倒れちゃってね。新しいギルド長を選ぶ……ってなった時に、なぜか僕が選ばれたんだよね……」

「……人望があったとか?」

「どうなんだろ?ギルド長になる前はBランク冒険者だったし、あったにはあったと思うけど……」



 どうやら、元Bランク冒険者のようだ。

 それなら、人望もある方だろう。



「でもなぁ……当時の僕はまだ二十になったばかりだったし、体よく押し付けられた気がしてならないんだけどね……」

「……ん?てことは今何歳なんだ?」

「今年で二十五だね。いやぁ……忙しくしていたら、いつの間にか五年も立ってたよ……」



 二十五って、まだ若い方では?

 というか、二十でBランク冒険者になったということは、それだけ実力もあるということか……



「いやー、にしても十九でAランクになるなんて、君はスゴいね」

「……そんなことはない」

「謙虚だね。でも、悪くない。冒険者はランクが上がれば上がるほど、下の者を蔑む人が増えたりするから……君みたいな、誰にでも同じように接することができる人っていうのは、貴重な存在でもあるからね」



 俺にとっては当たり前だが、他の人はそうではないらしい。……いや、誰にでも同じように接している訳じゃないんだが……



「……ところで、そこのお嬢さん達は、君のパーティーメンバーなんだよね?」

「そうだが?」

「いやぁ、助かったよ。昨日一昨日でかなりの数の依頼をこなしてもらってね。僕たちとしても、困っていたところがあったからさ。できることなら、これからも依頼をこなして欲しいくらいに」

「そうか、役に立てたのなら幸いだ。……だが、その要求は飲めない。遅くても明日にはこの町を出て、ガーナ王国へ向かう予定だからな」

「そっか……残念だけど、君たちの意見を尊重するよ。無理矢理留まらせるってのも、好きじゃないからね」



 エクスは一切食い下がることなく、その身を引いた。こういったところも、ギルド長に選ばれた要因なのかもしれない。



「あぁ、そうだ忘れてた。アリス君、だったかな?」

「……え?わたし?」

「うん。君にBランク昇格の願い届けが来ているけど……どうする?」

「っ!?」



 アリスが、あり得ないものを見たように、大きく目を見開く。

 俺達も、同じくらい驚いていた。


 それもそのはず、今のアリスは冒険者としての活動を停止させられているから。

 だからこそ、一昨日のヒュドラ討伐の際にも、アリスにポイントは一切割り振られていないのだが……


 おそらく、願い届けを出したのはトリーシュだろう。だが、基本的に受理されるハズがない。

 それでもこうして口にしたということは、受理される可能性があるということだろう。

 アリスは、少し考えた末、答えを口にした。



「……断るわ」

「どうしてだい?せっかくのチャンスなのに」

「わたしは今、冒険者としての活動を停止させられている。それなのに、Bランクに推薦されたって嬉しくないもの。第一、自分の力で上がったわけでもないし」

「……そっか、わかった」



 アリスの答えを聞き、エクスは手元にあったベルを鳴らす。

 少しして、部屋の扉が開かれ、俺達を案内してきた受付嬢がやって来た。



「お呼びですか?ギルド長」

「あぁ。アリス君のランクを、Bに上げておいてくれるかい?」

「なっ……!?」

「わかりました。では……」

「まっ、待ちなさい!」



 慌てて静止を促すアリス。

 それもそうだろう。今さっき断ったハズのランクアップを、なぜかすることになったのだから。



「はい?どうされました?」

「わたし、断ったわよね!?なんで上げることになるの!?」

「……もしかして、試したのか?」

「試、す……?」

「その通りだよ」



 俺がそう指摘すると、エクスが肯定する。

 そして、まるで悪びれることがないかのように、落ち着いた顔で語り始めた。



「君たちの中で、アリス君だけが活動停止を貰っていることが気になってね。例えば、他の冒険者を殺した、犯罪に加担した、みたいなことを一人でも起こしたら、()()()()()()()()重い罰が下るハズなんだ。だから、個人的に罰が下っているのはそれ以外でなにかあった、ということになる。だよね?」

「そ、そうだけれど……」

「で、そこまで絞れれば、なにが起こったのかは大体想像がつく。例えば、他の冒険者と喧嘩になった。で、相手側を死なせかけた、とかそんな感じじゃないかな」

「……!」

「もちろん、そこでなにがあったのか僕は知らないんだけど……少なくとも、事情がない限り、アリス君はそんなことをしないんじゃないかなぁ、って思うんだ」



 さすがはギルド長、と言ったところだろうか。

 アリスが活動停止処分を食らった理由を、意図も容易く言い当ててしまった。



「で、少しだけ揺さぶらせてみることにした。この活動停止という罰を受けている中で、ランクアップという飴を垂らしたらどうなるのか、ってね。結果、君は拒否をした。それは、自分の立場をきちんと理解していて、罰ときちんと向き合っている証拠だ。だから、これはそのご褒美、といったところかな」

「えっ……で、でも、Bランクに上がるには試験が……」

「報告書で見たよ。君も、ヒュドラ討伐に参加していたことをね。ケイン君たちがいたとはいえ、あれはCランク冒険者が相手にするには早すぎるモンスターだ。そのヒュドラと戦って、討伐した上で生還しているんだ。試験をしなくても、実力は十分伝わってきているよ」



 そう言われ、アリスはなにも言い返せなくなる。

 ……なんというか、ギルド長らしくない人だな。

 本来、ギルドが化した罰則は、どのギルドであっても覆すことはしない。そこで勝手に覆しては、ギルド全体の信用に関わるのだから。

 だが、エクスはそんなことはお構い無し、と言わんばかりに話を進めている。

 だから、ギルド長らしくはない。けれど、人間らしい。



「あぁでも、罰自体がなくなる訳じゃないよ?あくまでも、ランクを上げるだけ。これまで通り、罰則自体は守ってもらうことになる」

「……もう、なんでもいいわ……」

「そう?なら、よろしく頼んだよ」

「では、失礼いたします」

「……なんか、良かったな」

「……喜べるかと言われたら、複雑だけれどね」

「まぁ、そうだよな」



 素直に喜べるかと言われたら、俺も答えられないだろう。それくらい、無茶苦茶なことであるのだ。

 暫くして、アリスはBランクに昇格した。異例の出来事ではあるが、紛れもない事実である。


 その後も、俺達は少しだけ話をした。

 エクスからは、ガーナ王国について少しばかり話してもらった。逆に俺達からは、戦ってきたモンスターについて話した。

 ガラル達がモンスターであると知った時のエクスの表情は、今でも思い出せる。



「……っと、随分話し込んでしまったね。そろそろ僕も仕事に戻らないと」

「なら、俺達もおいとまするか」

「あ、椅子はそのままでもいいよ。僕が後でやっておくから」

「……いや、やらせっぱなしも悪いからな。これくらいはやっていくさ」

「そう?なら、そこに重ねておいてくれるかな?」

「わかった」



 椅子を畳み、指示された場所に重ねていく。



「それじゃあ、これからも頑張ってね。応援してるよ」

「あぁ。あんたも、頑張りすぎないようにな」

「ははっ、善処させてもらうよ」



 軽く挨拶を交わし、俺達はギルド長室を出て、カウンターへと向かう。

 すると、やけにギルドが静まっていることに気がついた。



「……なんか静かだな。メリア、わかるか?」

「んー……分から、ない。……けど、入り口、に、誰か、いる」

「誰かが入り口を塞いでいる、ってことか……」

「……なんか、面倒なことになってますわね」

「とりあえず、行ってみよう」



 少しして、広間までやって来た。

 そして、その様子を見て顔を少し歪めた。


 メリアが感じた通り、入り口には二人の男女がいた。

 一人は、ローブを纏った少女。見たところ、スキルを使って戦うタイプのようだ。

 ただ、入り口を塞いでいるというよりは、もう一人を抑えるように動いているので、この静けさの加害者であれど、原因ではなさそうである。


 そして、もう一人。

 こちらは、やけに豪華な防具を身に付け、同じく豪華な剣を手にしている青年だ。

 恐らく、彼が原因と見て間違いないだろう。



「……ケイン、ちょっと面倒かも」

「レイラ?なにがあった?」

「足元、何人か倒れてる。大きな怪我はないみたいだけど」

「……つまり、喧嘩か」



 入り口を塞いだうえに、喧嘩。

 なにが原因なのか、さっぱりわからないが、面倒なことには間違いない。

 ここは、一度戻ってエクスに相談するのがいいだろう。そう判断し、引き換えそうとした瞬間


 ……目が合ってしまった。



「あぁ、見つけたぞ!」



 やけに嬉しそうな声を上げる青年。少女の方も、少し安堵していた。

 周りの冒険者達も、こぞって俺達の方を向いてくる。

 そして俺達はというと……



(めんどくせぇ……)



 この一言に、尽きるのだった。

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