200 運命の歯車
本編200話!(少しだけ際どい描写があります)
「どこまで、行くの……?」
「……もう少し先だ」
二人を連れ歩くこと数分、俺達は町外れにある小高い丘までやって来ていた。
すでに周りは暗く、月明かりだけが俺達を照らしており、他にはなにもない。
そして、丘を登りきった先に、その光景は広がっていた。
「「うわぁ……!」」
「もう少し早く来ていたら、もっと綺麗だったけどな」
目の前に現れたのは、まだ残っている明かりで照らされたエクシティの町。色とりどりの光が、宝石のように輝いていた。
ギルドから宿へと戻る道中、地図を見ていた俺は、この場所を見つけた。
この場所は、夜景が綺麗に見える観光名所のようなのだが、あまり目立っていないらしい。
だが、むしろその方が都合がよかった。これから俺がしようとしていることは、人前でやるには恥ずかしいことだから。
鼓動が早まり、息が詰まる。
だけど、伝えなくては。
俺は、深く深呼吸をして、二人と向き合う。
「……メリア、アリス」
「……なぁに?」
「俺は、卑怯なやつだ。二人の気持ちを知っていながら、言い訳を作って逃げていた。二人の気持ちを分かっていて、答えを返さずにいた」
「ケイン……?」
「……だけど、もう逃げるのはやめた。ちゃんと向き合っていくことにした」
俺の顔を、じっと二人が見つめてくる。俺が話すのを待っているかのように。
俺は、先にメリアに顔を向けた。
「……メリア。初めて出会った時、俺は、お前の居場所になると言った。最初こそ、メリアが落ち着ける場所になれればいいな、って思ってた。……けれど、いつの間にか、俺もメリアがいるから安心出来るようになった。メリアがいない未来が、酷く寂しいと感じるようになってしまった」
「……ケイ、ン」
「……メリア、お前が好きだ。誰にも渡したくないほどに。お前の未来がどうであれ、俺は必ず側にいる。もしお前が呪いに飲まれたとしても、必ず助けに行く。だから、俺と付き合ってくれ」
「うん……!うん……!」
メリアの目から、涙がポロポロと溢れてくる。
けれど、笑顔を見せてくれた。眩しいくらいに、嬉しそうな笑顔を。
俺も、笑顔を返すと、今度はアリスの方を見る。
アリスはメリアの嬉しそうな顔を見ていたが、俺の視線に気がつくと、こちらをじっと見つめ返してきた。
「アリス、覚えてるか?初めて出会った日のこと。お前、いきなり結婚しようだなんて言ってきたんだぞ?」
「えぇ、覚えてるわ。今もそう思ってるしね」
「あ、あぁ……でも、嬉しかった。告白と呼ぶにはあまりにも先走り過ぎていた気はするけど、紛れもなく、あれが初めて貰った告白だった。……だからこそ、ちゃんと答えたい」
「……うん、聞かせて。ケインの答えを」
「俺は、側にいてくれるお前に惹かれていた。子供の時から、今もずっと。お前がいてくれたから、今の俺がある。だから、これからも俺の側にいて欲しい」
「……もちろん!」
「あっ!ずるい……!」
感極まったのか、アリスが嬉し涙を流しながら、笑顔で抱きついてきた。それを見たメリアも、同じく抱きついてくる。
俺は抱きついてきた二人を抱き締めた。
今、俺の腕の中に、確かな温もりを感じる。この温もりを手放さないよう、しっかりと抱き抱えた。
どのくらいそうしていただろうか。
気づいた時には、少しずつ町明かりが消えて来ていた。
「……帰るか。皆の元へ」
「……うん」
「そうね」
少しだけ、名残惜しそうに頷く二人。けれど、二人の手はいつの間にか、俺の手を握っていた。
それが嬉しく、同時に少し恥ずかしい。けれど、とても暖かい。
そして、この手を離さないよう、しっかりと握り返して、俺達は宿へ戻っていった。
*
「戻ったぞ」
「三人とも、お帰りなさい」
「……ただいま」
宿に戻ると、ナヴィ達が出迎えてくれた。
イブとイルミスが居ないところを見るに、イルミスはイブを寝かしつけてくれているのだろう。
などと思っていると、リザイアがこちらを見てニヤニヤとし出した。
「ん?……ほぉう、なるほどな……」
「な、なによ……」
「クックック……いや、そういうことかと思っただけだ」
……さすがに、リザイアにはバレたらしい。
さすがはサキュバス、と言うべきだろうか。
「リザイアは、なにがあったか分かるの?」
「それは言えぬな。ところでナヴィ」
「なにかしら?」
「部屋替えを希望する。構わぬか?」
「え?えぇ、構わないけど……どうしたの?」
「なに、ただの気まぐれだ。気にすることはない」
「うーん……まぁ、詮索しないでおくわ」
リザイアが部屋替えを希望し、そのまま通った。
そして、俺達に宛がわれたのは、三人用の部屋だった。
それぞれが部屋に戻っていく中、リザイアが俺の肩に手を乗せる。
「ふっ、おめでとう、と言っておこう」
「……ありがとうな」
「なに、我は性エネルギーをより集めたいだけだ」
「……とか言い訳して、黙秘してくれたんだろ?」
「うぐっ……で、ではまた明日っ!」
顔を真っ赤にして、逃げるように部屋に入り込んだリザイアを見送って、俺達も部屋に入る。
そして、寝間着に着替え、ベットに潜り込んだ。
……二人とも、なぜか俺のベットに。
「……お前らなぁ……」
「いいじゃない。今日くらい」
「……嫌?」
「そんなわけないだろ?」
少し肩を竦めながら、俺もベットに入り込む。
すると、二人が俺の側に寄り添う形で抱きついてきた。
「……ケイン、大好き」
「わたしも、大好きよ」
「……あぁ、俺もだ」
俺達は抱き合うようにして、お互いの熱を感じながらそのまま眠りにつく。
手にいれたものを、溢さないように。無くさないように。失わないように。
ただこの幸せを、感じながら……
*
……同時刻、別の宿では、生々しい音が部屋中に響いていた。
体温と、愛液と、喘ぎ声が部屋を埋める。
「ふぁっ、あっ、ああぁっ!」
「くぁっ……はぁ……はぁ……」
「気持ち、よかったです……」
「……あぁ、俺もだ」
裸の男女は見つめ合い、キスを交わす。
やがて熱も収まったところで、女の方が口を開いた。
「……そういえば、この町で新しくAランクの冒険者になった方がいるらしいですよ?」
「ふぅん……」
「気にならないのですか?」
「そいつも気にはなるが、俺は昼間見つけた集団の方が気になっている」
「……あぁ、あの人達ですか」
今日この町に来た二人は、宿に来るまでの道中、とある集団を見つけていた。
多数の種族が集まった、それも、美少女だらけの集団。
……紛れもなく、メリア達のことだ。
「あれほどまでの美少女達を、放っておく訳にはいかないだろう?俺の側にいれば、彼女達も嬉しいだろう。それとも、俺の側に他の女がいるのは嫌か?」
「……いいえ、貴方の魅力に惹かれぬ者はいませんから」
「ならば、明日にでも声をかけるとしよう」
「はい、勇者さま……」
雲が横切り、月明かりに勇者―滝沢健也の顔が照らされる。
―Aランク冒険者でありながら、世界を敵に回してまで、一人の愛する少女を守ろうとしている青年、ケイン・アズワード。
―世界を滅ぼす呪いを受け、世界から敵視されている少女、メリア。
―デュートライゼル滅亡の原因であるメドゥーサ討伐の為に、異界より呼ばれし勇者、滝沢健也。
今この町に、世界の運命を背負った存在が、全て揃った。
―悲しみと死闘の宿命が。
―逃れられぬ運命と苦しみが。
―栄光と絶望の怨嗟が。
世界終幕の歯車が今、動き出す。
これにて二十二章「愛しき君がいる世界」編完結となります。
元々、メリアに関しては、もう少し前に付き合うことになる予定でした……が、気づけばアリスと同時になっていました。
まぁでも、幸せそうなのでいいんですけどね。このまま平和が続くといいのに……(フラグ)
そして、ようやく本編に勇者が登場します。
そんな二十三章、よろしくお願いします。




