20 ナヴィとの旅立ち
「ん~!この串焼き美味しいわね~」
「こっち、の…えーと…なん、とか、焼き、も、美味、しい、よ」
「オーク肉のハーブ焼き、だっけ?どれどれ…むぉ!美味しいわ…!お礼にこっち串焼き、分けてあげるわ」
「やった…むぐっ、美味、しい…」
今俺達は、町の出店を巡っている最中だ。
ナヴィを仲間として迎え入れた後、市長と話し合った結果、俺達が町を離れた後に城が解放されたことを住民に知らせる事になった。
これは、ナヴィがあの城から離れたとはいえ、俺達と共に行動する関係上、まだこの町に居ることには変わらない。それどころか、町のど真ん中に居る事になるからである。
なので、俺達が町を離れたら、ということになった。
それと、実はひっそりと出していたらしいナヴィ討伐の依頼を取り下げた事と、その依頼の報酬を渡された。
討伐していないのに良いのか、と聞くと「問題ない」と言われたので、ありがたく受け取っておいた。
まぁ、隣でナヴィがちょっと不満げな顔をしていたのだが。
そんなわけで、町から出るまでの間何をしようかと迷っていると、メリアとナヴィが揃って町へ行きたいと言うので、出店巡りに行くことにした。
そして、気付いたことがある。
…メリアもナヴィも、俺より食べるんじゃないかな?
一瞬金欠になるかもしれない。と考えたが、さっき貰った報酬がかなりの額だったのを思い出した。
なので、二人には食べ過ぎない事を条件に、好きに回ってもらうことにした。
ちなみに、ナヴィは吸血鬼なので翼がある。
たとえ無害と言っていても、吸血鬼に脅えている住民達はどうしようかと思ったが、どうやらナヴィには翼を隠す術があるらしく、その術で翼を隠した。
これなら、ナヴィが吸血鬼だとはバレないだろう。
さてと、それじゃあ俺も楽しみますか。
「ふぅ…楽しかったわね~」
「うん。いっぱい、食べれた」
「あぁ、メリアは少し食べ過ぎだ。もう少し自重してくれ」
「うぐっ…ごめん…」
「まぁまぁ、そんな怒らないの」
夜、俺達は宿にいた。
出店巡りを終えた後、宿に戻った俺達は、新しく加わったナヴィの部屋を別に取ろうとしたが、ナヴィ本人からのほぼ一方的な要望によって、相部屋になった。
すでにメリアと相部屋なので、良いのかと聞くと、
「問題ないよ。むしろそっちの方が安くなるよ。それにしても、若いって良いねぇ~頑張っておいで!」
と言われ、あっさりと許可を得た。というか頑張るって、何を?
「それで、いつこの町を出るのかしら?」
「明日の朝だな。必要なものはすでに買い込んだし。ナヴィこそ、なにか必要なものはないか?それと、荷物は?」
「問題ないわ。私には収納のスキルがあるからね。城に置いてあった私物とか作物とかは、全部持ってきてあるのよ」
「収納、便利だね」
「でしょう!?」
「でも、まだ魔法鞄の方が容量あるよね」
「うっ」
スキル「収納」
その名の通り、物体を異空間に収納できるスキルだ。
魔法鞄と違い、空間そのものを取り出し口にするため、魔法鞄より使い勝手が良いと見られがちだが、実際はかなり違う。
収納スキルと魔法鞄の決定的な違い、それは容量である。
魔法鞄はある程度の容量が入るようになっており、一番安い物でも一戸建ての家くらいは入る。
対する収納スキルは、部屋一個分程度しかない。
ただし、これは最低限の話。本人の持つ魔力量が多くなるにつれ、容量が大きくなっていく。
ナヴィの場合、吸血鬼ゆえに元から莫大な魔力量を誇っているため、低品質は愚か上品質の魔法鞄をも凌ぐほどの容量となっている。
…まぁ、メリアの言う通り、俺達の魔法鞄の方が、容量が大きいのだが。
ナヴィで敵わないって、どうなってんだ魔法鞄…
「ま、まぁいいわ。それで?どこに行くとか決めてあるの?」
「いいや、決めてない。赴くまま、旅をするつもりだからな」
「だったら、西の方へ行ってみない?私もまだそっち側は行ってないから興味があるのよ」
「西か…じゃあ、そうしようか。メリアもそれでいいか?」
「いいよ。楽しみ」
決まったな。俺達の次に目指すのは西だ。
まだ行ったことのない場所と考えると、少しワクワクがとまらない。
だが、明日は早い。そう気持ちを切り替えて寝ようとしたところで、気づいてしまった。
部屋に二つしかないベッドを、それぞれが占領していることに。
「…なぁ…お前ら一緒のベッドにしてくれないか?」
「「…え?なんで?」」
えぇー…
「それじゃあ、お世話になりました」
「おう、またこいよ」
朝、早くに起きた俺達は宿を引き払い、このツィーブルを出た。
町を出る際、入った時には居なかったはずの門番に止められたが、市長の使いだった。
ナヴィが町から離れた事を確認するためだけにわざわざ雇用したらしい。
この町も、いつかはナヴィが普通に歩けるようになるのだろうか。
そう考えながら、俺達は先へと進んでいった。
「ねぇ、まだ翼を出しちゃダメなのかしら?」
「頼むからもうちょっとだけ我慢してくれ。」




