02 ギルド長
ケインが先を行く受付嬢の後を歩いていると、不意に受付嬢が一つの扉の前で止まった。
恐らく、ここがギルド長の部屋なのだろう。
「ギルド長。ケインさんをお連れ致しました」
受付嬢が扉の前で、中にいるであろうギルド長に確認を取ると、少し慌てたような物音がした後、扉の向こうから少し小さな声で「どうぞー」と声がした。
「それではケインさん。中へお入りくださいませ」
「はい。ありがとうございます」
ケインは受付嬢と軽い会釈をし、受付嬢と別れた。
ここから先は、ケイン一人でギルド長と対面しなくてはならない。
ギルド長は、人前に殆ど出てこない。
実際ケインも、三年間冒険者をやって来ていたが、ギルド長を見かけた事は一度もない。
ギルド内では、ギルド長は人混みが苦手だの、人前に出られない程の怪我をしているだの、ギルド長が人前に出ない理由を噂という形で話し合っていることもあるほどだ。
そんなギルド長と対面する。
ケインは小さく息をはき、意を決して扉を叩き、その扉を開いた。
「失礼します」
目に見えるは、資料に囲まれた部屋。
とはいえ、人が自由に動けないような状態というわけではなく、単に一時的にそこに置いてある。といった方が正しいと思える。
手前には背の低い木製の机と、向き合うように並べられたソファー。そしてその奥にある机の奥に…
「やぁケイン君。はじめまして」
ギルド長が、立っていた。
「まぁ、とりあえずそこに座りたまえ」
「は、はい」
ギルド長に誘導されるがまま、ケインは目の前のソファーに座った。
ケインは目の前に居るギルド長を見た。
整った顔、キリッとした目、少し後ろを伸ばした髪。
まごうことなきイケメンである。
決してケインも顔立ちが悪いとは言えない。むしろ良い方だ。
だが、目の前に居るギルド長はそんなレベルではない。
町の中で歩けば、その場の誰もが目を奪われ、声をかけられる事だろう。
男のケインですらそう思えるのだから間違いないだろう。
そんなケインの表情を察したのか、ギルド長は、フッと笑みを浮かべながら、
「ちなみに言っておくが、私は女だよ」
「えっ!?」
「やっぱりそうなるよね…」
「す、すみません…」
「いや、謝る必要は無いさ。私だって、半分は好きでこの格好をしてるんだからさ」
…どうやら、ギルド長は女性だったらしい。
ギルド長の話によると、まず他のギルド長は全員男性であるため、女性だからと舐められないように男装をしているそうだ。
というのが表向きの理由で、本当の理由は、ギルド長の素顔を知らせないためであるからだそうだ。
これは後にギルド長から聞いた話だが、元々潜入捜査や密偵、暗殺を生業とする家系の生まれらしく、今こそその業界から足を洗ってはいるものの、未だ恨まれていない。というわけでは無いため、保険として変装しているそうだ。
ちなみに、これまでケインとは何度か町中で会っていたらしい。
…全く気づかなかった…
「んー…ケイン君。私について色々考えてくれるのは良いんだけど、そろそろ本題に移っても良いかな?」
「あっ、申し訳ありません」
いけない。考えるのに夢中になってしまっていたようだ。
「それで、話というのは…?」
「簡単なことさ。ケイン君に調査をお願いしたいんだよ。」