194 ランクアップ
二十二章、開幕です。
「……すまない、もう一度頼む」
「はい。この度、ケイン様のポイントが基準値を越えましたので、Aランクへの昇格試験を受けられるようになりました」
エクシティに着いた俺達は、冒険者ギルドでそう告げられた。
……いや、おかしくない?
確かに、旅をしながらも高ランクの依頼はこなしていたし、ポイントは貯まっているだろう。
問題は、受けた依頼の数が、ポイントと全く比例していないということである。というより、急激に上げられているような気がしてならない。
「どうしました?納得していないような顔をしていますが」
「いやまぁ……どうしてこうなったのか、全く思い浮かばなくて……」
「……あっ、もしかしたら、これが原因かもしれませんね」
「これとは?」
「騎士団の訓練相手、という依頼ですね」
「……はい?」
「依頼主はエルトリート王国騎士団長です」
そんな依頼受けた覚えがない。
というより、依頼主がダリアという時点で、嫌な予感しかしない。
「余程感謝されたのでしょうね。Aランク昇格に必要なポイントを、ほぼこの依頼で満たしています」
あんの野郎、やりやがったな!?絶対に王族特権使っただろアイツ!でなきゃこんな無茶苦茶通る訳がねぇ!
……なんて叫んだところで、もう取り返しはつかないんだよなぁ……
「……はぁぁ……とりあえず、試験内容を教えてくれ」
「はい。このエクシティの南東には、ヒュドラが出現する場所があるんです。この町では、そのヒュドラを討伐することが試験の内容となっています」
「ヒュドラ!?それ、大丈夫なのか!?」
「はい。というのも、そのヒュドラが出る場所というのは、ギルドの監視下にある場所でして、こちらから刺激させて呼び出すんです。それに、試験官として、現Aランク冒険者の方にもついていってもらいますので」
「……なるほど」
……驚いた。まさかこの町に、世界でもごく僅かしかいないAランク冒険者がいるとは。
現Aランク冒険者ということは、ヒュドラを倒せるだけの実力があると、認められている冒険者であるということ。
試験官として、最も適した存在であると言えるだろう。
……そして、今後敵対する可能性のある存在でもある。
「それで、どうなさいますか?」
「わかった、試験を受けよう」
「かしこまりました。では、連絡や試験の準備がございますので、暫くお待ちいただけますか?」
「わかった」
そんなわけで、脳筋王女のせいで、本来ならもっとかかるであろう行程を、ほぼすっ飛ばしてAランクへの昇格試験を受けることになってしまった。
正直なところ、俺にはまだ早すぎる気がする。
今でこそ、仲間達がいるから強敵相手でも立ち向かって行けているが、当の俺はどうだろうか。
剣が折れたとはいえ、一度呪い人形に負けかけ、ガラルと戦った時には弱いと言われ、ベイシア相手に仲間を簡単に拉致された。
そんな俺が、本当に強くなっているのだろうか?
そんな不安を抱きながら、待つこと数十分。先程受付に居た職員が、三人の冒険者を連れて俺達の元へとやってきた。
「お待たせしました。こちらが今回試験官とその補佐を勤めますトリーシュさん、ロゼッタさん、バンクさんです」
「オレはトリーシュ。今回の試験官だ。それでこっちが……」
「ロゼッタよ」
「バンクです。よろしくです」
「ケイン・アズワードだ。よろしく頼む」
「はい、よろしくです」
「コイツらはお前と同じBランク冒険者で、ここらじゃ〝疾風の狩人〟って呼ばれている双子のエルフだ。今回はオレの補佐としてついてきてもらう」
バンクと握手を交わしつつ、三人の冒険者をそれぞれ見る。
試験官を勤めるトリーシュは、筋肉質な体つきをしており、まさにパワータイプ、といった感じ。見た目は三十代くらいだろうか。
ロゼッタとバンクは、双子のエルフということもあり、とても良く似ている。手にしている武器からしてロゼッタは剣、バンクは弓使いだろう。
「……ところで、お前のパーティーメンバーはコイツら全員か?」
「そうだが……なにか問題でもあるのか?」
「大いにあるな。この人数だと、ヒュドラ相手に人海戦術でケリがつく。それでは、お前自身の力が計れぬ」
「あと、単純に女の子にモテてるのが羨ましいからだよ。トリーシュさん、すでに五回くらい失恋してるからぁいたぁ!?」
「余計なことを言うな!」
五回の失恋……ま、まぁ、気にしたら怒られそうだから、気にしないでおこう。
だが、トリーシュの見立ては間違っていない。
この人数なら、ヒュドラだろうが全員でかかれば容易く倒せるが、それでは俺の実力を計ることは出来ない。冒険者にとって大切なのは、生きて帰ることなのだから。
「ったく……で、話を戻すが……そうだな、四人だ」
「四人?」
「そうだ。一人でやれ、とは言わない。そのかわり、連れていけるのは四人だけだ」
「つまり、パーティーの中から四人を選べ、そういうことだな?」
「あぁ」
なるほど、そう来たか。
確かに、俺一人でヒュドラを相手にするのは厳しい。俺達のように、大人数で組んでいるなら、尚更そう見えるだろう。
だからこそ、少人数で組ませて、俺を計るつもりなのだろう。個人の実力だけでなく、リーダーとしての実力も見るために。
だからこそ、俺は悩んだ。誰を選び、連れていくのかを。
悩んだ末、俺は共に行く四人を決めた。
「決まったか?」
「あぁ。ガラル、ベイシア、ソルシネア」
(……メリア、でしょうね)
「それとアリスだ」
「……へ?」
「ガラル、ベイシア、ソルシネア、アリスだな?後で変更は出来ないぞ?」
「あぁ、問題な――」
「ちょっ、ちょっと待って!?」
「うぉっ!?なんだよアリス……」
アリスが驚きを露にして肩を掴んできた。その顔には、どうして自分を選んだのか、その疑問が色濃く写っていた。
……多分、メリアを選ぶと思ったんだろうな。
「どうしてわたしなの?他の皆じゃ無くて、どうして……」
「俺が誰を連れていくかを考えた時、真っ先にアリスを連れていくと決めた」
「……え?」
「ヒュドラを相手にする際、一番警戒しなきゃいけないのは毒だ。前にも言ったが、メリアじゃ毒は治せない。だから、手早く攻める必要がある。俺達の中で、それが一番得意なのはアリス、お前だ」
「わたしが……」
実際、ヒュドラを相手にするなら、アリスが一番適任と言える。ヒュドラが厄介なのは毒だけではなく、物理攻撃とスキル攻撃、そのどちらにも耐性があるという点も上げられる。
しかし、ヒュドラは強靭な肉体を持つ反面、一度負った傷を治すことは難しい。つまり、素早く攻撃を浴びせまくれば、どれだけ強靭だろうと出血多量でいずれは倒れる、というわけである。
「主な攻撃は俺とアリスで行う。ガラル達は、俺達の補助を頼む」
「おぅ」「わかったのじゃ」「わかっター」
「残ったお前達は、暫く自由行動にする。依頼を受けてランクを上げてもいいし、買い物をしててもいい。ただし、ハメは外すなよ?」
「……ん、わかっ、た……」
「分かりましたわ」
「主様、ご武運を」
仲間達に見送られ、俺達はギルドを後にする。
さぁ、Aランク昇格試験の始まりだ。




