表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/413

193 ようやく掴んだ可能性

「……これは、他言無用で頼みたい」

「え?う、うん……」



 俺の発言に、ナーゼが困惑をあらわにする。

 なにせその言葉は、人に話せないような隠し事があるということなのだから。



「俺達の旅をしている理由だが……まぁ、実のところ、ほぼ無いに等しい。……一人のことを除いて」

「えっと……メリア君、かな?」

「あぁ」



 俺の鼓動が、少しだけ早まる。

 ここまで話した以上、もう後戻りも撤回もできない。

 ―俺は、ほんの少しだけ、ナーゼに打ち明けることにした。



「メリアは、見た目こそ普通の少女に見えるが、実際は違う。メリアの体は、次第にモンスターになっていく呪いに蝕まれているんだ」

「モンスターに……!?」

「あぁ。俺が初めてメリアと出会った時、すでにメリアは、モンスターとしての特徴が現れていた。本来なら、その場で倒すか、ギルドに報告するのが正解なんだろうが……俺は、それができなかった」

「……どうして?」

「……同じだったからさ。俺とメリアは、大切なものを失っていた。家族という、他の何にも変えることのできない、大切なものを」

「ケインも家族を?」



 家族を失った。

 その言葉に、ナーゼが強く反応する。

 俺はそれを話すかどうか悩んだが、話すべきだと思い、口を開いた。



「……少しだけ話を逸らすが、俺は辺境貴族の産まれだ。父と母、それに兄と妹がいる。それと、アリスも同じ村の出身だ」

「じゃあ、アリス君と君は、幼馴染みってことになるのかな?」

「あぁ。そして、兄はアリスに好意を抱いていた。だが、アリスは俺の側にいた。だから、自分がアリスと結ばれる為に、俺が邪魔だったんだろうな。俺に無実の罪を押し付け、排除しようとしてきた」

「なっ……!?」

「他に誰も見ていない場所で犯行を行い、俺が知らせるよりも早く、父の元へ向かった。アリスを介抱し終え、俺が家に戻った時にはもう、誰も味方になんてなってくれなかった。そして俺は、兄の思惑通り、故郷から離れた森の中に捨てられた……そんな過去があるんだ」



 ナーゼの顔が、僅かに歪む。

 家族の元に産まれなかったナーゼにとって、俺の過去は、酷いものだと感じただろう。

 俺にとっても、すでにケリは付けているが、割り切れない過去である。あまり、人に話したいと思えることではない。

 ―だから、少しだけ、無理矢理笑った。



「……だから、メリアの話を聞いた時、俺は冒険者であることを忘れた。目の前にいたメリアに、過去の自分を重ねてしまった。そうなったら、もう、見捨てることなんて、できなくなった」

「……その出会いが、今の君たちに繋がるんだね」

「メリアだけじゃない。ナヴィやレイラ、ウィル達も、それぞれ失ったものがある。それを、取り戻したいとは思わない。けれど、諦めたくもない。だから旅をしている。例えそれが、世界にとって、最悪な結果になったとしても」

「……そっか」



 話を聞き終えたナーゼは、どう思ったのだろうか。

 それを聞くのが、とても恐かった。


 ナーゼとは、それ以降話すことなく、一日が終わった。



 *



「し、シア!ちょっと待ってよー」

「だーめ!」



 翌日、すっかり元気になった少女が、外でおいかけっこをしていた。

 微笑ましい光景を、俺達とナーゼは見守っていた。



「本当に、ありがとうございました。ナーゼさん」

「いいのいいの。元気になったなら、薬師としては嬉しい限りだよ」

「お姉ちゃん、ありがとー!」



 元気いっぱいの子供達。

 そんな子供達に囲まれて、ナーゼは少し嬉しそうに微笑んでいた。



「それじゃあ、ボクは行くよ」

「俺達もな」

「ナーゼさん、それに、旅の方々も。ありがとうございました!またいつか、子供達に会いに来てくださいね」

『お兄ちゃん!お姉ちゃん!ばいばーい!』



 子供達に見送られ、孤児院を後にする俺達。

 だが、そこには少しだけ、居心地の悪い雰囲気が漂っていた。


 一応、昨日ナーゼに少しだけ話したことは、メリア達に伝えてある。そのせいか、メリア達は少しだけ、ナーゼを警戒しているようだった。

 そして、町から離れたところで、ようやくナーゼが口を開いた。



「ふふっ、心配しなくていいよ」

「ナーゼ?」

「君たちは、ボクが上に話すんじゃないか……って警戒しているだろうけど、ボクはそんなことしないよ」

「……それは、どうしてかしら?」

「ボクは薬師だ。医療に携わる以上、患者の秘密は守らないとね」

「それは……」

「それに、ボク個人としても、恩人のことを誰彼構わず話したいとは思わないからね」

「……信じていいんだな?」

「なに?喋ってほしいの?」

「……いや、信じるぞ。ナーゼ」



 口言葉だけで信用できるかと言われたら、出来ないと答えるだろう。

 だが、ナーゼを信じてみようと思った。

 友人である、ナーゼを。



「それじゃ、ボクはそろそろ行くよ」

「そういえば、ナーゼはどこに住んでるんだ?」

「ガーナ王国。ここから北東に行った先にあるエクシティって言う町から、さらに北東に行った場所にある国だよ」

「ふむ……なら、俺達もガーナ王国へ向かってみるよ」

「ほんと!?なら、ガーナ王国に着いたら、ボクが案内してあげるよ!」



 嬉しそうに言葉を弾ませるナーゼ。

 俺個人としても、ナーゼの暮らす場所が気になっていた。もし進む方角にあるなら行きたいと思っていたが、どうやら本当に進む方角にあったらしい。



「それじゃあ、その時は頼んだ」

「うん!楽しみにしてるよ!」



 挨拶を交わし、ナーゼは森の中へと消えていく。一時の別れだが、今度は――



「っと、大事なことを忘れてた」

「……どうした?」



 森に入っていこうとしたナーゼが、唐突に足を止め、こちらへ戻ってくる。

 言葉から、なにか忘れ物でもしたのだろうか?



「ケイン、ボク達精霊族の産まれについて覚えてるよね?」

「あ、あぁ。自然に産まれる、ってやつだろ?」

「そうそう。昨日その話をして、眠りに付く前に、思い出したことがあるんだ」

「思い出したこと?」

「ボク達精霊族の始まりは、始原の精霊って呼ばれている、二人の精霊から始まった。一人は、呪いを司る精霊パンドラ。もう一人は、浄化を司る精霊アテナ」

「……っ!」

「ボクじゃ、メリア君の呪いは祓えない。けれど、呪いと浄化を司る二人なら、もしかしたら祓えるかもしれない。メリア君の呪いを」



 ……やっとだ。ようやく、メリアの呪いを解く可能性が見つかった。

 それは、唐突に与えられた情報。だから、俺は思わずナーゼの手を取っていた。



「ふぇっ!?」

「ナーゼ、ありがとう!やっと……やっと……!」

「うっ、うん!わかった!わかったから……手、手を……」

「っ!?す、すまん!」

「……もぅ、びっくりしたじゃないか」

「……すまん」

「まぁ、いいけどね。それだけ、大切に思ってるってことでしょ?なら、素直に喜びなよ。ね?」

「あぁ」



 旅をして、どの町でも見つからなかった、呪いを解呪する方法。

 呪いの精霊パンドラ。浄化の精霊アテナ。

 もし、この二人を見つけることが出来たら……そう考えたら、喜ばずにはいられないだろう。


 必ず、見つけよう。メリアの為に。

 安心して暮らせる、未来の為に。



 *



「……大切に思ってる……メリアを……」

「アリスさま?」

「……わたしだって、ケインをどれだけ思っているのか、知っているくせに……」

これにて二十一章「大切な命の為に」編完結です。

次回二十二章も、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ