192 ケインとナーゼ
「ナーゼお姉ちゃん、このお兄ちゃんだれ?」
「もしかして、お姉ちゃんの彼氏!?」
「かっ……!?ち、違うよ!?」
「悪いが、俺は彼氏じゃない。ナーゼお姉ちゃんの友達のケインだ。よろしくな」
「えっと……ケインお兄ちゃん?」
「おぅ」
子供にからかわれるナーゼ。だが、その顔からは楽しそうな表情が見てとれる。
……それにしても、子供の数が多い。ざっと見た感じでも、二十人はいる。歳はイブと同じか、それより幼いくらいだろう。
「なーんだ、彼氏じゃないのかー」
「……なんで残念そうなのかな?」
「そっ、それより、お兄ちゃんも遊ぼうよ!」
「……誤魔化したよね?」
少し膨れっ面になるナーゼだが、子供達は見て見ぬふり。というより、全力で誤魔化していた。
と、そこで子供達がメリア達を見つけた。否、見つかってしまった。
「お姉ちゃんたちはー?」
「お、おね……!?」
「お姉ちゃん達はね、ケインお兄ちゃんの仲間よ」
「そうなんだ!ねぇ、お姉ちゃんたちも、一緒に遊ぼ!」
「いいわよ。一緒に遊びましょうか」
「わーい!」
子供達が、メリア達の手を引き走り出す。勿論、それは俺達もであり、ナーゼ共々、子供達の波に飲まれていった。
*
「ふぅ……」
「お疲れさま、ケイン君」
「あぁ、ナーゼか」
子供達の相手から離れ、少し遠くのベンチに座っていた俺の隣に、同じく子供達から離れたナーゼが腰掛けた。
そういえば、ナーゼと二人きりになるのは、これが初めてだ。前は状況が状況だったが、今ならゆっくりと話ができるだろう。
「ナーゼ、少し話せないか?」
「奇遇だね、ボクも話がしたかったんだ」
どうやら、ナーゼも考えていたことは同じだったらしい。
お互いに少し苦笑しつつ、話始めた。
「ナーゼはどうしてこの町に?」
「特別深い意味はないよ。偶然この町に来たら、偶々この孤児院の事を知って……薬を扱う薬師として、見過ごせなくなっただけ」
「そうか……前から聞きたかったんだが、どうして薬師になったんだ?」
「……ケイン君、ボク達精霊族って、どうやって産まれてくると思う?」
「どうって……結婚して子供をつくる、じゃないのか?」
「うーん……それだけじゃ、満点回答にはならないかな」
ナーゼの顔が、少しだけ曇る。
その曇りの原因は、すぐに明らかとなった。
「……確かに、ケイン君の言う通り、結婚して身籠ることもできるよ。でもそれは、この世界に生きる全ての精霊族の中でも、ほんの一握りしかいないんだ」
「……どういうことだ?」
「ボク達精霊族は、自然と共にある。だから、精霊族は勝手に産まれる。誰が何をするわけでもなく、突然に」
「……ってことは、ナーゼは自然に産まれた精霊ってことか?」
「そういうこと。ある日突然、ボクはドリアードとしてこの世界に産まれた。なんの前触れもなく、突然に」
少しだけ呆けたような表情を見せるナーゼ。
だが、その瞳は、少しだけ霞んで見えた。
「……ボクは、どうすればいいのか分からなかった。突然産み出されて、突然この世界で生きることになって。産まれてすぐのボクには、どうすればいいのかなんて、分かるわけがなかった」
「……それは」
「今なら、仕方のないことだって分かるよ。でも、昔のボクはそうじゃなかった。ただ一人、孤独な森の中で産まれて、右も左も分からなくて……ボクは、この世界を呪った。ボクを一人にしたこの世界を。……でも、ボクは出会ったんだ」
「前に言っていた、王族の友達か?」
「うん。森の中、一人でいたボクに、彼女が……エイエルが声を掛けてくれたんだ」
*
「……だ、だれ……?」
「わたし?わたしはエイエル。あなたは?」
「ボ、ボク、は……その……」
「もしかして、名前がないの?」
「う、うん……」
「だったら、わたしが名前をつけてあげる!」
「ふぇ……?」
「そうねぇ……ナーゼ、っていうのはどう?」
「ナー、ゼ……」
「そう!ねぇ、ナーゼ。もしよかったら、わたしと一緒に遊びましょ?あわよくば、友達になってくれないかな?」
「友、達……?」
「そう!ねっ?いいでしょ?」
*
「その時の、エイエルは明るかった。一人ぼっちだったボクにとって、エイエルはとても眩しい存在だった。一緒にいたら、ボクは寂しくないって思えたんだ」
「……だから、友達になった」
「うん。その後、エイエルが王族だって知ってびっくりしたけど、エイエルとは友達でいられた。ドリアードであるボクを、一人の友達として見てくれた。それが、どれだけ嬉しかったことか。……でも、ある日知ったんだ。エイエルが重い病気を患っていることを」
「えっと……」
そこまで聞き馴染みのない名前だからか、中々思い出せない。一応、記憶力はいい方のハズなんだが。
「ペルクテリア。産まれた時に発症する、治すのは不可能とまで呼ばれていた病気」
「そうだったな。……だが、聞く限り、昔は遊べるほどに元気だったんだろ?そんなに重い病気なら、動くのは難しいと思うんだが」
「ペルクテリアって、大人になるにつれて動けなくなっていくんだ。だから、小さい頃は機敏に動けていたとしても、体が大きくなるにつれて、少しずつ動けなくなっていく。そして最後に……」
「……死んでしまう、か?」
「……うん。でも、まだ間に合う。ドリアードの秘薬さえ作れれば、ペルクテリアを治すことができる」
グッと拳を握るナーゼ。その顔には、少し前までの暗いような表情はなく、かわりに覚悟が宿っていた。
「なら、早く揃えないとな」
「うん。あと少し、あと少しなんだ」
「俺達にできることがあったら、なんでも言ってくれ。ここまで聞かされて、見過ごせるほど鬼畜じゃないつもりだからな」
「うん、ありがとね!」
はにかむナーゼの顔は、とても眩しい。
だからこそ、俺は悩んだ。ここまで話してくれたナーゼに、隠し事を続けるべきなのかを。
だが、話せばそこから拡散する可能性がある。特に、ナーゼは王族と繋がっている。それは、ナーゼもメドゥーサの件を知っている可能性が高いということでもあった。
「じゃあさ、君達のことも教えてよ。どうして旅をしてるのか、とかさ」
ナーゼが、禁断の質問をしてくる。
ここで答えなければ、身の安全は確保できる。しかし、かわりにナーゼの信頼を奪ってしまうかもしれない。
かといって、話せば全てが終わってしまうかもしれない。
悩んだ末、俺が出した結論は……
子供達と遊び中……
「はぁぁっ!もう我慢ならんのじゃぁぁ!」
「うひゃぁ!?だっ、誰っ!?」
「ちっこくて眼鏡で可愛いのじゃあ!」
「ちょっ、ほんと、なっ……」
「……ガラル」
「あいよ」
「むっ!?なにや……つ……」
「おら、ガキに見せられねぇようなことしてんじゃねぇぞ?」
「い、いや、これは……」
「逝くぞー」
「やっ、やめ……やめるのじゃぁぁぁ!?」
*
おまけのキャラ詳細③
ガラル
種族:鬼人
性別:女
年齢:不明
所持スキル:人化、???
ベイシア
種族:アラクネ
性別:女
年齢:不明
所持スキル:人化、糸生成、???
ソルシネア
種族:ハーピー
性別:女
年齢:不明
所持スキル:人化、言語理解、風切断、???
コダマ
種族:エレメンタルフォックス (?)
性別:雌
年齢:不明
所持スキル:???、???、???、???




