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189 強欲と色欲

『我、汝と契約を結ぶ』


『汝は、我の盾となり矛となり、その命果てるまで、我の一部として力を振るえ』


『故に汝の魂に、この名を刻む』


『汝の名は――ベイシア』



 魔力を込め、言葉を刻む。

 刹那、俺の魔力がアラクネを捉え、アラクネの魔力と混合しようと試みる。

 もしここで、アラクネが名前を受け取らなければ、契約は失敗に終わるが……



「ベイシア……その名、確かに受け取った」



 アラクネが名前を受け取ったことで、魔力が混ざりあい、確かな繋がりが生まれる。ガラルとの契約の時にも感じた、魔力の繋がりが。

 そして、名前を受け取ったということは……



「……ぐっ!?あっ、ぐぅあぁっ!?」



 アラクネが、胸を押さえるように苦しみ出す。

 従魔契約が成立した際、従魔となったモンスターの魔石は体外に排出される。その時、従魔には多大な負荷がかかってしまう。

 そのことを、俺達はあえて伝えなかった。この痛みをケジメにして、新しい道を歩ませるために。

 暫くして、アラクネの胸元から禍々しくも見える紫色の魔石が飛び出した。これで、契約完了だ。



「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

「大丈夫か?」

「うっ、うぅ……大丈夫、ですのじゃ」



 未だ苦しそうにしているアラクネを支えようとしたが……上半身が裸なので止めておいた。

 いやうん、単に女性陣からどんな目で見られるか知りたくなかっただけだ。他意はない。



「ふっ……これが契約……悪くないのじゃ」

「それじゃあ、これからよろしくな」

「うむ。このベイシア、ご主人様に全てを捧げようぞ」

「……そんな畏まらなくてもいいんだけどな」

「これは、ただのケジメなのじゃ」

「……そうか」



 アラクネ改め、ベイシアが、妖艶な笑みを浮かべる。その笑顔は、どんな男でも一瞬で虜にしてしまうような、危険な笑顔であった。

 ……まぁ、裸のせいで台無しではあるのだが。



「……メリア、ベイシアの回復を頼む。それとナヴィ、ベイシアに適当なの着せといてくれ」

「……ん、りょーかい」

「わかったわ」

「……ふむん、服を着なくてはならぬのか?ならば、お主が妾に着せ――」

「あっ、そうだ。俺の従魔になった以上、メリア達にセクハラしたらお仕置きだからな?」

「……はい」

「ほら、これでいいかしら?」

「むぅ……他に無いのか?」

「次の町に着いたら新調してやるから、今は我慢してくれ」

「……しょうがないのじゃ」



 ナヴィがベイシアに服を渡す。

 ベイシアのセンスには合わないのか、あまり乗り気ではなかったのだが、渋々着てくれた。



「うぅむ……」

「どうしたの?」

「いや……やはり、この服は合わぬな、と」

「そうかなぁ?」

「まぁ、文句を言える立場でもないし、今は我慢するのじゃ」



 これは、次の町に着いたら、先にベイシアの服を選んだ方がよさそうだ。

 そんなことを考えながら、出発の準備を進める。



「さて、それじゃ行くか」

「そうね、行きましょう」

「よろしく頼むぞ、お主らよ」

「おう!」



 準備も整い、これからまた、旅が始まる。新たな仲間、ベイシアを加えて。

 次の町では、一体なにが……


 ……そういえば、なにか忘れているような……



「ぴっ!?ぴゅぴゅあ!ぴゅいぃぃ!?」



 ……あ、ハーピーの存在忘れてた。



 *



「ぴ、ぴゅうぃぃ……」

「……すまん」



 慌てて元ベイシアの巣に戻った俺達は、即座にハーピーを救出した。

 ナヴィ達の攻撃で吹っ飛んでいたこともあり、完全に頭から抜けていた。アリスを助けてくれたというのに、なんたる失態。



「……それで、どうしてこんなところにいるんだ?群れ……いや、仲間は?」

「ぴゅい?ぴゅぴゅい、ぴゅ、ぴゅいぴゅ」

「……なんて?」

「ふむ、なるほどのぉ……」

「ん?ベイシア、今の言葉分かるのか?」

「うむ。妾はモンスターじゃぞ?それくらい分かるのじゃ」

「……一応聞くが、ガラルは?」

「さっぱりわからん!」



 潔く告げるガラル。

 まぁうん、期待はしてなかったけど。



「……多分、ベイシアにしかわからないんだと思う。とりあえず、翻訳頼む」

「ふむ、承知した」

「ぴゅ、ぴゅいぴゅあぴ、ぴゅぴゅいあ、ぴゅいぴゅう、ぴゅあいあ」

「どうやらこのハーピー、元々群れから追い出されていたらしいのじゃ」

「ぴゅあ、ぴゅいぴゅ、ぴゅーぴゅあ、ぴゅいあぴゅ、ぴゅいあう、ぴゅあぴゅい」

「それで、宛もなくさ迷っていた先で、ご主人様に出会った。怪我を治してくれたこと、優しくしてくれたことが嬉しくて、こっそり空からついてきた……と言うことらしいのじゃ」

「……え?もしかして、あの時から?ずっと?」

「ぴゅい!」



 ……頷いたよ、このハーピー。

 え?じゃあ、このハーピー、俺達の後をずっと付けていたの?色んな意味で恐ろしくない?



「ぴゅあ!ぴゅあぴゅい、ぴゅあぅ、ぴゅぴゅうぃぴゅ、ぴゅあぅぴゅ!」

「ふむ……どうやらこのハーピー、妾と同じことをしてほしい、と言っておるのじゃが」

「ベイシアと?……ってことは、俺の従魔になりたいってことか?」

「ぴゅい!」



 また頷いた。

 まぁ、アリスを助けてくれた恩もあるし、ハーピー自身がそれを望んでいるなら、構わないが……



「いいんじゃない?従魔にしても」

「うん、いいと、思う」



 どうやら、メリア達は肯定的らしい。

 改めて、ハーピーの方を見る。その目は、期待に満ち溢れていた。

 名前は……そうだな、これで行こう。



「……わかった。それじゃあ、行くぞ?」

「ぴゅい!」



 俺は、ハーピーに向かって手を広げる。

 そして、再び魔力を込めて、言葉を紡ぐ。



『我、汝と契約を結ぶ』


『汝は、我の盾となり矛となり、その命果てるまで、我の一部として力を振るえ』


『故に汝の魂に、この名を刻む』


『汝の名は――ソルシネア』


「ぴゅい!」



 一切の迷いもなく、ハーピーは返事を返す。その瞬間、再び魔力が混ざり合う感触がした。



「ぴゅっ!?ぴゅあぁぁぁぁぁぁ!?」



 そして、ベイシア同様、ハーピーも胸元を押さえて苦しみだ……ん?



「ぴゅあぁっ!ぴゅあぁぁぁぁぁぁ!」



 ……あれ、苦しんで無くない?むしろ喜んでない?

 えっと……ドユコト?



「ぴゅっ、ぴゅあぁぁぁぁぁぁ!」



 そうこうしているうちに、水色の魔力がハーピーの胸元から飛び出してきた。これで、契約完了……なんだよな?



「えっと……大丈夫、か?」

「ン……だいじょーブ」

「っ!?おまっ、喋っ……!?」

「……エ?……アッ!ほんとダ!喋れル!」



 目を輝かせながら、その場で喜ぶハーピー――もとい、ソルシネア。

 だが、どうしていきなり言葉が話せるように……



「イルミス、なにか知らないか?」

「……い、いいえ。そもそもの話になりますが、ガラルさんが人化を覚えたこと自体も、過去には一度もないことですので……」

「ふむ?人化なら、妾も使えるようになっておるのじゃ」

「……え?」

「ご主人よ、人の姿の方がええかの?」

「……出来れば。今みたいに、俺達以外に誰もいなけりゃ別にいいけど」

「わかったのじゃ」



 ……どうやら、イルミスでもわからないことらしい。

 そもそも、従魔契約自体がよくわかっていないものらしいし、失われた技術でもあるため、今となっては真意は不明である。

 もしかしたら、ガラル達にそんな変化が起きたのは、モンスターとしてのランクが高いからなのかもしれない。



「ご主人さマ!お願いがあるでス!」

「えっと……お願い?」

「はイ!」



 キラキラした目を向けるソルシネア。

 ……なんだろう、ものすっごく嫌な予感が……



「ワタシを、思いっきり虐めてくださイ!」

「……はい?」

「殴ってくださイ!蹴ってくださイ!踏みつけてくださイ!」

「ちょっ、ちょっと待っ……」

「さァ!ワタシに、ご主人さマの愛をくださイ!虐めテ!ボロボロにしテ!ワタシに快楽ヲー!」

「ひっ、ひぃ!?」



 ヤバイ!こいつドMだっ!

 しかも、傷つくことに快感を覚えるタイプだ!

 このままでは、色々とマズイ……だったら!



「アッ、待っテ!ご主人さマー!」

「誰が待つか!」

「あアッ!その目もいイッ!でもやっぱリ、この体二、ご主人さマの愛ヲー!」

「ひぃぃぃ!?」



 ダメだコイツ!なにやっても感じてる!?

 とりあえず逃げる!落ち着くまでとにかく逃げる!


 ……どうして俺の従魔は、一癖も二癖も強いのだろうか。

 戦闘狂(ガラル)同性愛者(ベイシア)ドM(ソルシネア)……

 ……もしかして、今後も従魔が増えるとしたら……


 ……いや、考えるのは止めよう。でないと、色々ともたないから。

 とりあえず今は、ソルシネアから逃げることだけ考えよう。



「待っテー!ご主人さマー!」

「だっ、誰が喜んで虐めるかぁぁぁぁぁ!」

「傲慢」のガラル

「強欲」のベイシア

「色欲」のソルシネア

……もう察しがついた方もいるのでは?ということで、先に言っておきます。


ケインの従魔は「七つの大罪」をモチーフにして考えてあります。なので、ケインの従魔はあと四体……ということになります。

登場を楽しみにしていてください。


……では改めて、二十章「絡み紡ぐ糸と羽」編完結です。

次回二十一章もよろしくお願いします。

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