187 逃走と追跡
ポケモンが楽しすぎて、書くのを忘れてた。
目の前で、嬉しそうに鳴くハーピー。
唐突に現れた存在に、誰もがその動きを止めていた。
「お前、どうして……って、それよりも!」
「ぴゅい?」
「力を貸してくれ!仲間が捕らわれて――」
「ぴゅう……ぴ?」
「隙ありすぎじゃ」
「びゅぐっ!?」
「ハーピー!?」
颯爽と現れて、アリスを助けてくれたハーピー、即座に捕まってるんだが!?
これじゃあ、なんの解決にもなってない!
「ん?」「きゃっ!?」
「っ、しまっ……」
などと慌てている間に、ガラルとイルミスが糸に捕らわれる。
この二人まで失ったら、勝ち目が――
「ふんっ!」
「はっ!」
……などと思っていた時期が、俺にもあったよ。
イルミスはわかる。体の一部を、ドラゴンに戻して糸を切ったからな。
だがガラル。なぜ力を入れただけで、その糸から抜け出せるんだ?というか、糸が弾けたぞ?
ほら見ろ。アラクネも少しあんぐりしてるじゃねぇか。いやもう、マジでどんな筋肉してるんだよお前。
「くっ、まあよい。極上の雌を六人も手に入れられたのじゃ。ひとまず退散するとするかの」
「っ!?待てっ!」
「では、さらばじゃ!」
アラクネはそう言いうと、メリア達を素早く引き寄せ、森の中へと消えていってしまった。
「ユア!」
「……申し訳ありません、すぐに追えません」
「なんでだっ!……って」
「はい。してやられました」
ユアに行方を追わせようとしたが、ユアから不可能だと告げられる。
仲間を連れ去られた怒りから、強く当たってしまったが、ユアの足元を見て、少しだけ落ち着きを取り戻した。
ユアの足元、というより、ここら一体の地面に、いつの間にか、小さなクモの巣が張り巡らされていた。
運の悪いことに、ユアが着地した場所にもクモの巣があったようで、ユアはそこで動けなくなっていたようだ。
「……すまない、取り乱した」
「いえ、そうなるのも仕方ありません」
「とりあえず、それを剥がしましょう」
「ありがとうございます、イルミス様」
「そーらよっと!」
「ふぅ……助かったわ」
「コダマ、大丈夫?」
「くぅ……」
イルミスが、ユアの足に付いた糸を軽く焼き溶かし、アリスに巻き付いた糸は、ガラルが軽く引きちぎった。
……だが、はっきりいって最悪な状況からなにも変わっていない。
残されたのは、俺とレイラ、ユア、アリス、イルミス、ガラルの六人。コダマはレイラに預けていたため無事だったが、戦うことはできないので戦力にはできない。
それに、普段なら生物の気配を探知できるメリアがいるのだが、今回はおらず、同じように警戒の役割であるユアやレイラも、見逃してしまえば追うに追えなくなってしまう。
つまり、メリア達を追う手段を失ってしまったのである。
「くそっ!どうすれば……どうすればいいんだ!」
*
「くっ!抜け出せぬ!」
「無駄じゃ、妾の糸は容易く抜け出せはせぬ」
アラクネに捕まり、どこかへと連れていかれているメリア達。
そんな中、ナヴィが、一人冷静な顔をしていた。そして、とある人物を捕まえ、小声で話しかけた。
「……少しいいかしら?」
「ナヴィさま?」
「イブ、今スキルは使えるかしら?」
「えっと……つかえるけど……」
「私が「目を瞑りなさい」って言ったら、思いっきり〝灯り〟を使って欲しいの」
「え?でもそれじゃあ……」
「大丈夫、私を信じて」
「う、うん。わかった」
ナヴィに言われ、よく分からないまま灯りの準備にかかるイブ。
その様子を見ていたウィルとリザイアは、なにか策があるのではと構え、二人の話が聞こえていたメリアは、その時が来るのを待っていた。
「いつでもいけるよ!」
「全員、目を瞑りなさい!」
「〝灯り〟!」
「っ!?なにを……!?」
「ぴゅいぃぃぃ!?」
その瞬間、一帯が光に包まれる。
その光は、暗い森の中で圧倒的な存在感を放ち、影に包まれた森を白く染め上げた。
だが、そんな光も長くは続かない。アラクネが、新たな糸をイブに巻き付けたからだ。
「むぐっ!?」
「余計なことをしおって……!」
口を塞がれ、慌てるイブ。
そんなイブとは対照的に、ナヴィは祈るような表情を浮かべていた。
(これで痕跡が残る……頼んだわよ、ケイン!)
*
「うおっ!?あの光は……」
「っ、もしかしてイブの……レイラ!」
「ん、任せて!」
メリア達の行方を印す手掛かりが残されていないか、と捜索していた俺達。そんな矢先、急に強い光が、とある方角から発せられた。
その光がイブが原因ではないかと睨んだ俺達は、レイラの念力でその光の方角へと進む。
しかし、少しして光は止んでしまった。
「あっ、消えちゃった……」
「とりあえず、そちらへ向かいましょう。手掛かりがあるかもしれません」
そこにメリア達がいると信じ、光が放たれていた方角へと進むが、そこには獣一匹すらいない。
恐らく、先程の光で逃げてしまったのだろう。
そんな森の様子に不安を覚えた俺だったが、その目に、とあるものが映りこんだ。
「っ!?これは……!」
「どうした?ご主人サマ?」
「……間違いない、これはイブの魔力……」
「イブさんの魔力、ですか?確かに、先程の光はイブさんのものだとは思いますが……」
「……いや、そうか!」
俺は急いで魔力眼を発動させる。
すると、目には見えない魔力の残滓が、とある方向へと続いているのが見えた。
「こっちだ!こっちにイブ達がいる!」
「どうして分かるの?」
「灯りのスキルは、魔力をもってその形を維持させる。だから、灯りを使っている間は、常に魔力が外部に漏れている状態になるんだ」
「でも、使うのを止めちゃえば、止まっちゃうでしょ?」
「普通ならな。だけど、イブの場合は違う。イブの魔力量は、俺達……いや、この世界でも類を見ないほど膨大で強力だ。制御しきれず、自身の体が傷つくほどに。そんな魔力を大量に放出して、そう簡単に静まると思うか?」
「っ、そっか!魔力なら、魔力眼で見れる!」
「そういうことだ!レイラ、俺の指示通りに動いてくれ!」
「わかった!」
再びレイラに身を任せ、残された魔力を魔力眼を用いて辿っていく。
今度こそ、この先にはメリア達がいると信じて。




