表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/413

184 Surprise Birthday その3

「お、帰ってきたね」



 宿に着いた俺達を、トーランが出迎えてくれる。それはいつものことだったが、今日は少し違っていた。



「……なぁ、どうしたんだ?あれ……」

「あぁ、スティッシャかい?まぁ、気にしないでおくれ。浮かれてるだけだからさ」

「は、はぁ……」

「にしても、あんたは愛されてるんだねぇ」

「はい?」

「大切にしてやりなよ?応援してるからさ」

「え?あ、はい……?」

「では、主様(マスター)……失礼します」

「……へ?ユア、何をっ!?」



 ユアが耳元でそう囁いた瞬間、何かを目元に巻き付けられ、視界が暗闇に包まれる。慌てて視界を取り戻そうとするが、左右から腕を捕まれる。



「……駄目」

「大人しくしてくださいまし」

「メリア!?ウィルも、何を……!」

「いいからいいから。ほら、行くぞご主人サマ」

「え、ちょっ、まっ……」



 視界も、行動も奪ったまま、どこかへと移動を始めたメリア達。俺にはどうすることもできず、なすがまま連れていかれる。

 階段らしきものを登らされ、扉の開閉らしき音を聞き、そこでようやく二人が離れた。



「えっと……?」

「……目隠し、外していいよ」

「わ、分かった……」



 言われるがまま、目隠しを外すが、なぜか部屋は真っ暗闇。

 しかし、次の瞬間、部屋に明かりが灯され……



『ケイン!お誕生日おめでとう!』



 揃った声で、全員が出迎えてくれた。

 そこは、俺達が借りている部屋では無かったが、煌びやかな飾り付けが施されており、中央のテーブルには、豪華な料理が並んでいた。



「……え?誕生、日……?」

「はい。ケインさんの、ですよ?」

「へっ?……あっ」



 ……そうだった。今日は、俺の誕生日だった。

 多分、教えたのはアリスだろう。



「ケインさま!こっちこっち!」

「え?あ、あぁ」



 イブに手を引かれ、俺は中央の椅子に座らされる。そして、俺が座ったのを確認した後、メリア達も席に着いた。



「では、宴と行こうでは……」

「待った。……先に聞かせて欲しい。どうしてこんなことをしたのかを」

「言ったであろう?これは、ケインの生誕を祝う宴であると」

「先日、ダリアさんと話していた際に「もうすぐ十九になる」とおっしゃっていましたよね?ですから、もしや誕生日が近いのではと思い、アリスさんに聞いた所、それが今日であると教えて貰いました」

「だから、昨日のうちに家主に話をつけて、この部屋と厨房を借りたの。メリア達には、準備ができるまでの時間稼ぎをお願いしたってわけ」

「そういうこと。ほら、始めるわよ」



 アリスが言葉を締めた瞬間、レイラが念力(サイコキネシス)でコップに飲み物を注いでいく。

 そして、全員分が注がれた後、各々コップを手に取ると、その視線を俺へと向けた。まるで、俺からの言葉を待っているかのように。

 そんなメリア達を見て、俺は少しだけ微笑み、俺もコップを手に取った。



「……俺は、この三年間、生きるのに必死だった。それは、今でも変わらない。けれど、今の俺には、こうして祝ってくれる仲間がいる。大切な日を、共に過ごせる大切な仲間が」

「……ケイン」

「これから先、どんな未来が待っているかなんて分からない。けれど、俺は……俺達は、前に進み続けよう。例え、全てを敵にしても。例え、誰からも理解されなくても。俺達が、俺達であるために」

「……えぇ」

「でも、今日だけは楽しもう。この日を!皆が祝ってくれる、今日を!乾杯!」

『乾杯!』



 部屋に、ガラスがぶつかり合う音が響く。

 並べられた料理は、どれも美味しく、俺達の顔には笑顔があった。

 途中、ダリアが乱入してきたり、トーランとスティッシャから少し高めのデザートを貰ったりと、騒がしく、けれど、楽しい時間を過ごした。


 その日は、俺の十九回目の誕生日。

 ありふれた日々の中の、たった一度の祝いの日。

 けれど、その日は俺にとって、一番の思い出になるだろう。

 そんな確信が、俺にはあった。



 *



「もう、行くんだな?」

「あぁ」

「……そうか」



 翌日の朝、俺達は門の前にいた。

 今日、俺達は王都を発つ。そんなことを聞いていたのか、俺達の出迎えに、ダリアが来ていた。



「約束、覚えているな?」

「あぁ」

「待っていろ。すぐにとはいかないが、必ずこのエルトリート王国の名に恥じぬ騎士団にして見せよう!そして、必ずケインの元へと向かう。例え地獄でも、天国でも、異世界であっても!」

「……ははっ、少し重いな。それは」

「そうか?妾は本気だ」



 冗談のようで、本気のダリア。

 そんなダリアの思いは純粋なもので、拒絶できるようなものではない。

 だから、少しだけ、笑って返した。



「……それじゃあ」

「あぁ、また」



 俺達は、ダリアに別れを告げ、エルトリート王国を後にした。

 ここから再び、俺達の旅が始まる。

 新たな仲間と約束と共に、世界を欺く旅が。



 *



「……行ってしまったね、姉さん」

「……ランデルか」

「いい人達だったね、彼らは」

「あぁ……全くだ。我の恋心を、こうも容易く弄ぶとは」

「……それは、関係ないんじゃ無いかな?」

「ふふっ、冗談だ。さあ、我らも戻るとしよう」

「そうだね……っと」

「む?これは……」



 突然、ランデルの目の前に、白いものが舞い降りてきた。

 それをダリアが掴む。その正体は、白い羽であった。



「自由、か……」

「姉さん?」

「いつか我も、自由な世界を見れるだろうか。愛しき彼と共に」

「……できるよ、姉さんなら。きっと」

「……だといいな」



 ダリアが、白い羽から手を放す。

 その羽は風に流れ、空高く舞い上がっていった。

これにて十九章「祝福の生誕祭」、そして、四章に渡ってお送りしてきたエルトリート王国編は完結となります。

次回、二十章もよろしくお願いします。



おまけ ダリア乱入前の会話


ダリア「失礼する!」

トーラン「いらっしゃ……って、お、王女さ」

ダリア「おっと、それは言わないでくれると助かる」

トーラン「し、失礼しました……それで、どういったご用件で……?」

ダリア「なに、ケインの誕生日を祝いに来たのだ。お忍びでな」

トーラン「そ、そうなのですか……」

ダリア「というわけで、案内して貰っても構わないか?」

トーラン「はっ、はい!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ