184 Surprise Birthday その3
「お、帰ってきたね」
宿に着いた俺達を、トーランが出迎えてくれる。それはいつものことだったが、今日は少し違っていた。
「……なぁ、どうしたんだ?あれ……」
「あぁ、スティッシャかい?まぁ、気にしないでおくれ。浮かれてるだけだからさ」
「は、はぁ……」
「にしても、あんたは愛されてるんだねぇ」
「はい?」
「大切にしてやりなよ?応援してるからさ」
「え?あ、はい……?」
「では、主様……失礼します」
「……へ?ユア、何をっ!?」
ユアが耳元でそう囁いた瞬間、何かを目元に巻き付けられ、視界が暗闇に包まれる。慌てて視界を取り戻そうとするが、左右から腕を捕まれる。
「……駄目」
「大人しくしてくださいまし」
「メリア!?ウィルも、何を……!」
「いいからいいから。ほら、行くぞご主人サマ」
「え、ちょっ、まっ……」
視界も、行動も奪ったまま、どこかへと移動を始めたメリア達。俺にはどうすることもできず、なすがまま連れていかれる。
階段らしきものを登らされ、扉の開閉らしき音を聞き、そこでようやく二人が離れた。
「えっと……?」
「……目隠し、外していいよ」
「わ、分かった……」
言われるがまま、目隠しを外すが、なぜか部屋は真っ暗闇。
しかし、次の瞬間、部屋に明かりが灯され……
『ケイン!お誕生日おめでとう!』
揃った声で、全員が出迎えてくれた。
そこは、俺達が借りている部屋では無かったが、煌びやかな飾り付けが施されており、中央のテーブルには、豪華な料理が並んでいた。
「……え?誕生、日……?」
「はい。ケインさんの、ですよ?」
「へっ?……あっ」
……そうだった。今日は、俺の誕生日だった。
多分、教えたのはアリスだろう。
「ケインさま!こっちこっち!」
「え?あ、あぁ」
イブに手を引かれ、俺は中央の椅子に座らされる。そして、俺が座ったのを確認した後、メリア達も席に着いた。
「では、宴と行こうでは……」
「待った。……先に聞かせて欲しい。どうしてこんなことをしたのかを」
「言ったであろう?これは、ケインの生誕を祝う宴であると」
「先日、ダリアさんと話していた際に「もうすぐ十九になる」とおっしゃっていましたよね?ですから、もしや誕生日が近いのではと思い、アリスさんに聞いた所、それが今日であると教えて貰いました」
「だから、昨日のうちに家主に話をつけて、この部屋と厨房を借りたの。メリア達には、準備ができるまでの時間稼ぎをお願いしたってわけ」
「そういうこと。ほら、始めるわよ」
アリスが言葉を締めた瞬間、レイラが念力でコップに飲み物を注いでいく。
そして、全員分が注がれた後、各々コップを手に取ると、その視線を俺へと向けた。まるで、俺からの言葉を待っているかのように。
そんなメリア達を見て、俺は少しだけ微笑み、俺もコップを手に取った。
「……俺は、この三年間、生きるのに必死だった。それは、今でも変わらない。けれど、今の俺には、こうして祝ってくれる仲間がいる。大切な日を、共に過ごせる大切な仲間が」
「……ケイン」
「これから先、どんな未来が待っているかなんて分からない。けれど、俺は……俺達は、前に進み続けよう。例え、全てを敵にしても。例え、誰からも理解されなくても。俺達が、俺達であるために」
「……えぇ」
「でも、今日だけは楽しもう。この日を!皆が祝ってくれる、今日を!乾杯!」
『乾杯!』
部屋に、ガラスがぶつかり合う音が響く。
並べられた料理は、どれも美味しく、俺達の顔には笑顔があった。
途中、ダリアが乱入してきたり、トーランとスティッシャから少し高めのデザートを貰ったりと、騒がしく、けれど、楽しい時間を過ごした。
その日は、俺の十九回目の誕生日。
ありふれた日々の中の、たった一度の祝いの日。
けれど、その日は俺にとって、一番の思い出になるだろう。
そんな確信が、俺にはあった。
*
「もう、行くんだな?」
「あぁ」
「……そうか」
翌日の朝、俺達は門の前にいた。
今日、俺達は王都を発つ。そんなことを聞いていたのか、俺達の出迎えに、ダリアが来ていた。
「約束、覚えているな?」
「あぁ」
「待っていろ。すぐにとはいかないが、必ずこのエルトリート王国の名に恥じぬ騎士団にして見せよう!そして、必ずケインの元へと向かう。例え地獄でも、天国でも、異世界であっても!」
「……ははっ、少し重いな。それは」
「そうか?妾は本気だ」
冗談のようで、本気のダリア。
そんなダリアの思いは純粋なもので、拒絶できるようなものではない。
だから、少しだけ、笑って返した。
「……それじゃあ」
「あぁ、また」
俺達は、ダリアに別れを告げ、エルトリート王国を後にした。
ここから再び、俺達の旅が始まる。
新たな仲間と約束と共に、世界を欺く旅が。
*
「……行ってしまったね、姉さん」
「……ランデルか」
「いい人達だったね、彼らは」
「あぁ……全くだ。我の恋心を、こうも容易く弄ぶとは」
「……それは、関係ないんじゃ無いかな?」
「ふふっ、冗談だ。さあ、我らも戻るとしよう」
「そうだね……っと」
「む?これは……」
突然、ランデルの目の前に、白いものが舞い降りてきた。
それをダリアが掴む。その正体は、白い羽であった。
「自由、か……」
「姉さん?」
「いつか我も、自由な世界を見れるだろうか。愛しき彼と共に」
「……できるよ、姉さんなら。きっと」
「……だといいな」
ダリアが、白い羽から手を放す。
その羽は風に流れ、空高く舞い上がっていった。
これにて十九章「祝福の生誕祭」、そして、四章に渡ってお送りしてきたエルトリート王国編は完結となります。
次回、二十章もよろしくお願いします。
おまけ ダリア乱入前の会話
ダリア「失礼する!」
トーラン「いらっしゃ……って、お、王女さ」
ダリア「おっと、それは言わないでくれると助かる」
トーラン「し、失礼しました……それで、どういったご用件で……?」
ダリア「なに、ケインの誕生日を祝いに来たのだ。お忍びでな」
トーラン「そ、そうなのですか……」
ダリア「というわけで、案内して貰っても構わないか?」
トーラン「はっ、はい!」




