183 Surprise Birthday その2
「あ、いた……」
「んもぅ、勝手に動かれたら困りますわ」
「あー……悪かった」
「ところで、ガラルはどうしたんですの?」
「あいつなら、今あそこにいる」
俺を探していたらしいメリア達と合流し、全員である一点を見つめる。先ほどガラルが駆け込んでいった試着室である。
駆け込んでからそれなりに時間は経っているのだが、一向に出てくる気配がなかった。
ただ、それはどうやら二人を待っていた為だったようで、二人が来て少しした時、閉めていた試着室のカーテンが捲られた。
「待たせたな!」
「ガラル……お前……」
「うん、カッコいい……かも?」
「なんで疑問系なんですの……?まぁでも、似合ってますわよ」
羽織る上着は白を主体とし、膝まで長く、所々に黒と金のラインが施されている。
上着自体、前が止まらない仕様になっており、そこから見えるのは、健康的なガラルの腹筋。胸元は黒いバンドのような、胸元だけを隠すデザインのものを着用。
下に履いているズボンは白く、腰回りと足首辺りを除けば少しブカブカで、黒と金のベルトによって固定されている。
白、黒、金のみで構成されたその装いは、シンプルでありながら、ガラルらしい荒々しさを強く表していた。
「で?ご主人サマはどうなんだ?」
「あぁ、似合ってる」
「だろ!?だよな!これがいいよな!」
「……ガラル、分かったから落ち着け。あんまり騒ぐと、それ買う前に追い出されるぞ」
「あー、わりぃ」
「とりあえず、ガラルはそれでいいとして、二人の方はどうなんだ?」
「こっちも、いいの、あった」
「自慢の出来ですわ!」
「そうか。なら、楽しみにしておく。……ところで、ガラル」
「なんだ?」
「……下着はちゃんと着けてるよな?」
「安心しろって、ちゃんと履いてるよ。ったく、こまけぇなぁ」
恥を忍んで聞いたが、ちゃんと着けているようで安心した。
というのも、鬼人であるガラルには、服を着る以前に、下着を着ける習慣すらなかった。
結局、ガラルの気に入る服が見つかるまでの間、胸元はサラシで隠し、下はショートパンツを履いて貰っていた。
下着に関しては、メリア達に任せた。男が加わって良い内容ではない。
ただ、どうしても心配だったので聞いておきたかっただけである。それ以外に意味はない。
「……まぁ、とりあえず目的は果たしたし、それを買ったら宿に戻……」
「そういや、そろそろメシの時間じゃねえか?どっかで食って行かねぇか?」
「それは良いですわね」
「……賛、成」
「……えっと?勝手に決められても困……」
「賛、成、多数」
「たまには、少人数も良いではないですの?」
「そういうこった、諦めてメシに行こうぜ?ご主人サマ」
「……はぁ、分かったよ」
このまま何を言ったとしても、三人を動かせないと判断した俺は、素直に従うことにした。
……にしても、三人が口を合わせているような気もしたが……いや、気のせいか。
「……危なかったですわ」
「油断するなよ?ギリギリまで宿から引き剥がさねぇと、お粗末なもんになっちまうからな」
「……がんばろー」
*
「イブ、そっちはどう?」
「ばっちりだよ!」
「なら、そっちの方もお願いするわ。レイラ、これをあそこに取り付けてくれるかしら?」
「ほい、任されたー!」
「ふぅ……こっちはなんとか終わりそうね。後は、三人がどれだけ時間を稼げるかだけど……」
「心配しなくても良いんじゃないかな?」
「うんうん、だいじょうぶだよ!」
「……だと良いんだけど」
*
「……なぁ、一つ聞いても良いか?」
「なんだ?ご主人サマ?」
「……買い物だけの予定だったよな?どうして、こんな次々と予定が出来るんだ?」
「そりゃあ、休日?ってやつなんだから、楽しまなきゃ損ってやつだろ?」
「だとしても、俺を含めて四人だけでってのはおかしいだろ」
あの後、食事を終えた俺達は、町を歩き回っては店に入り、店を出ては町を歩き回るを繰り返していた。
ここまで露骨だと、流石に怪しさを感じ得ない。
理由は分からないが、三人とも俺を宿から遠ざけているような感じがするのだ。
「……そもそも、服屋自体、宿からそこそこ距離がある場所にある建物だ。それ自体は別に怪しくは無いが、その後は露骨に宿から遠い店に出入りを繰り返していた。それはどうしてだ?」
「それは……」
「……三人とも、俺に何を隠してる?」
「……はぁ」
「……流石、に、限界」
「ですわね……」
三人が口を揃える。やはり、何か隠し事があったようだ。
「それで、何を隠そうとしていたんだ?」
「それぁ、オレらの口からは言えねぇな」
「ですわね、黙秘しますわ」
「宿、に、戻、れば、分かる……ちょうど、迎え、も、来た、し」
「迎え?」
「私のことです。主様」
「うぉっ!?……って、ユアか……ん?なんでユアがここに?」
「今は黙秘させていただきます」
「お前もか……ちゃんと説明してくれるんだろうな?」
「はい。……メリア様、ウィル様、ガラル様。時間稼ぎ、お疲れ様でした」
「……ん」
「どういたしまして、ですわ」
「おぅ」
「……時間稼ぎって……」
なにがなんだかさっぱり分からない。
ただ、その答えは宿にあるようだ。
……正直、少しだけ怖くて……同じくらい、ワクワクしている。
ガラルの服装は「特効服」ってやつです。
あのデザイン、良いですよね。




