閑話 勇者と従者
閑話 連続更新一本目
もう少ししたら本編にも出す予定の勇者の様子です。
「ぐあっ!?」
「ふっ、こんなものか」
異界より召喚された勇者、滝沢健也は優越感に浸っていた。
この世界に召喚されてから、まだ1ヶ月も経っていないというのに、すでに彼は騎士団相手でも難なく戦えるほどの実力になっていた。
健也には、他者にはない特別なスキルが一つ存在していた。それは〝急成長〟というものだ。
急成長のスキルはその名の通り、成長速度が異常に早いというもの。事実、健也はたった数日で剣を達人レベルに扱えるようになり、こうして騎士団を負かすほどに強くなっていた。
その感覚は、ただでさえ勇者だと持て囃されている健也を、さらに調子に乗せる結果になっていた。
そんな健也の様子を、窓からゾーハ王とその執事が伺っていた。
「陛下、勇者をどう思いますか?」
「性格に少し難はあるが、このまま行けば、メドゥーサを倒せるほどに強くなることだろう」
「……我々で、御せるでしょうか?」
「……分からぬ。だが、少なくとも、悪いようにはならぬだろう」
二人の心配は、すでにメドゥーサを討伐した後のことに向けられていた。
勇者がメドゥーサを討伐したとなれば、彼は世界から称賛されることになるだろう。勇者を召喚した自分達も、その甘い汁を啜ることができる。
―だが、その後はどうする?
世界平和の象徴とも言える勇者を、ただの一国の王が御し続けることなどできるハズがない。
むしろそんなことをすれば、周りの国からの反感を買いかねない。
どうしようかと頭を悩ませるゾーハだったが、ある妙案を思い付いた。
「……よし、彼に従者を付けよう」
「従者、ですか?」
「そうだ。勇者の従者として、ワシらの手の者を付けるのだ。それなら文句も言われまい」
「ですが、一体誰を?」
「ムーを付ける。最近は、彼のことばかり話しているしな」
「なるほど、ムー様ですか……」
ゾーハの出した人名に、執事も頷かざるを得なかった。
ムーは、ゾーハが三人目の妻との間に成した子供の一人であり、ヘンゲート国きっての癒し手とも名高い少女のことである。
また、ムーはこの世界では稀にしか起こらないという、人間とエルフの混血であり、その容姿は年頃の少女とは思えないほど整っている。
そんなムーだが、ゾーハの言っている通り、彼女は勇者である健也に惚れていた。それはもう、物陰からずっと眺めているくらいには。
元々、健也はスタイルも顔付きも良いほうだったのだが、この世界に来て、強さを手に入れた。その結果、1ヶ月としないうちに、この城で働く者のほとんどから一目置かれる存在になっていた。
「ムーなら断りはしないだろうし、彼にとっても悪いことではないだろう」
「では、陛下」
「うむ、ムーを呼んでくれ。ムーと話した後、彼にも話すことにしよう」
*
「……と言うわけで、今日からそなたに従者として付けることになったワシの娘の一人、ムーだ」
「ムーといいます!勇者さま!」
「ほぅ……」
訓練中、ゾーハに呼び出された健也は、従者候補として紹介されたムーを、品定めでもするかのような目で見た。
そして、その目にかなったのか、彼の口元がつり上がっていた。
「ムーと言ったな?俺の従者として、共に戦おうではないか!世界を救うために!」
「はい!よろしくお願いします!」
こうして、健也は従者を得て、ゾーハは勇者との関係を得た。
そこに、未来の栄光に包まれた己を写して……
*
「では、頼んだぞ。勇者ケンヤよ」
「あぁ、任せておけ」
「行って参ります!」
暫くして、二人はヘンゲート国を旅立った。
彼らの目指す場所は、デュートライゼル跡地。
そこで、メドゥーサの情報をなんとしても手に入れ、討伐する。それこそが、勇者に課された使命であった。
しかし、運命とは残酷なものである。
二人の目指す場所と、彼らの進む道は、奇しくも真逆の位置にあった。
近い将来、勇者は彼らと対峙することになる。
それが、世界にどのような影響を及ぼすことになるのか。
――それを知る者はいない。
二本目も、この後すぐ更新します。




