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181 ケインのエゴ

「ん、うぅぅ…」

「姉さん!良かった……」

「ランデル…?ここは……」

「姉さんの部屋だよ。最近はあんまり帰って無かったでしょ?」

「……そう、だったな。父上と母上は?」

「仕事に戻ったよ。元々、無理をして時間を作ってたからね」

「……そう、か」



 目を覚ましたダリアは、ランデルから目を離し、反対側に居た者たちに目を向ける。



「……それで、ケインよ。貴様が治してくれたのか?」

「俺じゃなくてメリアがな」

「そうか……すまないな」

「別、に、これく、らい、大丈、夫……」



 俺達がダリアの部屋に居るのは、決闘で倒れたダリアを治療する為に他ならない。

 とはいえ、大人数で入る訳にもいかないので、当事者である俺とガラル、回復(ヒール)の使えるメリアの三人だけがこの部屋に入ってきている。

 ……まぁ、部屋の外から聞き耳を立てているのは感心しないが。



「ふっ、はははっ……」

「……姉さん?」

「妾は、負けたのだな……」

「……」

「わかっておる。ケインのことは諦める。……本当は、諦めたく、ないのだがな……」



 俺が決闘で勝った場合、ダリアは俺を諦めると言っていた。それをうやむやにしようとせず、守ろうとするダリア。

 その顔には、騎士団長としての威厳も、王女としての優雅さもない。ただ、失恋した少女の顔があった。


 ただ、当の本人……つまり俺は、少々複雑な顔をしていた。

 確かに、決闘自体は俺の勝ちで終わった。

 だがそれは、ガラルが乱入して勝ち取ったものであり、俺が勝ち取ったものではない。

 はたしてそれを、俺は誇れるのだろうか。


 あの時、ガラルが言った言葉は間違っていない。

 ガラルは俺の従魔であり、ある意味所有物とも言える。だから、ダリアが外から武器を手にしたことが認められているように、ガラルを外から持ってくること自体を咎めることは難しいだろう。

 しかし、あれは俺の意思を介していない。強者との戦いを求めるガラルの本能が起こした、一種の暴走とも言える。


 俺はもう一度、ダリアの顔を見る。

 ……ったく、本当に甘いな、俺は。



「……別に、諦めなくていいだろ」

「……ケイン?」

「確かに、決闘自体は俺の勝ちで終わった。だが、結果を見れば分かる。あれは、俺が勝ち取った勝利じゃない。()()()()()()()()()()ものだ」

「ご、ご主人、サマ?」

「事実、俺が戦っていた時、俺は終始押されていた。ガラルとの戦いの疲れがあったとはいえ、それは言い訳でしかない。それと同じだ。俺は、勝負に勝って、試合に負けている」

「え、えっと……」



 明らかに、ダリアが困惑している。いや、ダリアだけでなく、メリア達も。

 だが、これは俺個人の問題だ。仲間が乱入して手に入れた勝利を素直に喜べるほど、やはり俺は図太くないのだ。



「だから、強くしろ。この国を。ダリアの部下を、一人残らず。そしていつか、ダリアが必要なくなるほど、騎士団が強くなったなら……結婚くらい、考えてやる」

『ケイン!?』

「っ!真か!」



 俺の言葉が予想外だったようで、ダリアはともかく、外で聞き耳を立てていたナヴィ達もなだれ込むように部屋に入り込んできた。

 まぁ、当然の反応だろう。



「……言っておくが、俺は初めに言った通り、この国に縛られる気も無いし、優先する気もない。ダリアが、王族の地位を捨ててでも、って思うなら、だがな」

「ケイン……どういうつもりなのかしら?」

「……まぁ、あの試合には色々思うところがあっただけだ。俺の力不足を感じた、それだけのことだ」



 結局のところ、これが自分のエゴである。

 仲間の力を借りることを悪いことだとは思っていない。だが、借りすぎるのも良しとしない。

 故に、仲間に守られただけの自分を、認めることができない。

 ただ、それだけなのだ。



「……とにかく、そういう訳だから、別に諦」



 そこまで言いかけた言葉が、不意に止まった。

 なにも手にしていなかった右手を、ダリアが素早く両手で包むように握ってきたからだ。



「騎士団を強くすれば、結婚してくれるのか!?」

「え?あ、あぁ……あと、地位も捨てたらな……?」

「約束だぞ!?約束だからな!?」

「お、おぉ」

「ふ、ふふふ……そうと決まれば、早速鍛えねばならぬな!」

「ちょっ、姉さん!?」



 ダリアは唐突にベッドから飛び上がると、一目散に部屋の外へと飛び出していった。ランデルも、慌ててダリアの後を追っていく。

 結果、この部屋には、俺達だけが取り残されることになった。



「……ケイン、あれで良かったんですの?」

「……まぁ、早まった感じはあるが……これで良いんだ」

「あぁいえ、そうではなくて……敵を強くするようなことをして、良かったんですの?」

「なら、俺達も今より強くなれば良い。……それに、下手に諦められて敵対するよりは、こうしておいた方が良いと思った。それだけだ」



 ダリア・ソル・エルトリート。未だ底の知れない実力を持つ者。

 そんな彼女が、俺達の真実を知った時、どんな行動を起こすのか。


 ……それは、未来しか知らないことである。



「はぁ……どっと疲れた……暫くは休暇にでもするか……」

「あ、じゃあ、私と一緒に買い物行こ……?」

「ん?なにか欲しいものでも?」

「うん、そんなとこ」

「分かった。んじゃあ、明日にでも……」

「あ、いや……できれば、明後日で……」

「うん?分かった。明後日だな」

「なら、オレもついてっていいか?」

「でしたら、私も」

「分かった。メリアもそれでいいか?」

「うん、大丈夫」



 と、言うわけで、メリアとガラル、ウィルと明後日買い物へ出かけることになった。


 ――その裏で、ナヴィ達がなにかを企んでいることを、俺は知るよしもない。

これにて十八章「交わる恋と忠義の刃」編完結です。

次回から閑話を数話挟んだ後、十九章になります。

よろしくお願いします。

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