178 両者覚醒、そして……
「なっ……!?あれってアリなの!?」
ダリアが大剣に持ち変えたことに、思わず疑問をぶつけるレイラ。
それもそのはず、その大剣はダリアの背後―つまり、騎士団の誰かが投げ入れたものであり、自分の所有物しか使えない、というルールに反しているのだ。
メリア達も、それが分からず、同じような疑問を顔に浮かべていた。
その答えは、近くにいた団員の口から明かされることとなった。
「問題ない。あの大剣は正真正銘、団長の武器だからな」
「……つまり、自分の所有物であれば、外部から使用しても構わないと?」
「そうなるな」
「それズルじゃん!」
「とはいえ、団長が使うのはあの二つだけだ。これ以上はないぞ?」
「だからって……」
メリア達の視線が、二人の方へと向けられる。
そこには、赤い大剣を振り回すダリアと、それを辛うじて捌いているケインの姿があった。
決闘である以上、メリア達は手出しできない。それが分かっているからこそ、納得できず、歯痒い想いをしながら見ていることしかできなかった。
……ただ一人を除いて。
*
「オラオラどぉしたぁ!?」
「ぐぅっ……!?」
ケインは、ダリアの変貌にペースを乱され、思うような攻撃ができずにいた。
先程までの攻撃を静と表すならば、今のダリアの攻撃は轟。あまりの変わりように、戸惑うのも無理はなかった。
そう、ダリアには二つの戦い方がある。
一つは、青を主体とした細剣―エンプレスによる、精確に攻撃を当てていくもの。
ダリアは団長であり王女という立場にある関係である。そのため、少しでも優雅に振る舞えるよう、ダリアが作り出したスタイルと言える。
そしてもう一つは、赤に染まった大剣―イグニスによる、荒々しい攻撃を繰り出すもの。
これこそが、ダリア本来のスタイルである。
しかし、その戦いっぷりは、王女という肩書きから程遠く、国としても、あまり見せたくないものだった。
そのため、ダリアは渋々、細剣を使った戦い方を生み出したのだ。
「そぉら、もいっちょぉ!」
「舐っ、めるな!」
「うぉっ!?っと……やるな!」
「……」
ダリアが大きく振り下ろした隙をつき、ケインが跳躍。そのまま肩へと攻撃を仕掛けたものの、ダリアは僅かに体をずらし、腕に小さな怪我を負うに留まった。
ケインの咄嗟の反撃に、思わず笑みを浮かべるダリア。対するケインは、顔にはあまり出していないが、内心かなり焦っていた。
というのも、ダリアがイグニスを握ってから、ケインはまともに攻撃を仕掛けられていない。
荒々しい攻撃に翻弄されているのもあるが、それ以上に、隙と言うものを先程以上に感じられない、という理由があった。
暴れる生物に、迂闊に近づくのが危険であるのと同様に、下手に近づけば、イグニスの餌食になる。かといって、近づかなければ攻撃できない。まさに、八方塞がりに近い状態だった。
「……だったら!」
「おっ?来るか!」
ケインは天華を握りしめると、そのままダリア目掛けて走り出した。ダリアも、真正面から受けてたつ構えを取る。
そして、天華とイグニスが勢いよくぶつかりあった瞬間、ダリアの死角から、別の刃が姿を現し、そのままダリアへと襲いかかった。
「っ!うぐっ……!」
ダリアは、突然のことに反応が遅れてしまい、後ろへ下がるタイミングを逃した。それが災いし、腹部に大きなダメージを負うことになった。
「ふふっ、はははっ……なるほど、もう一太刀、あったのか……!」
「ふぅ……まだあんまり、慣れていないんだが……やるしかないか」
ケインの右手には天華が、左手には創烈が握られている。
―二刀流。それこそが、ケインの新たな戦術であり、秘策でもあった。
しかし、ケインも言っていた通り、未だにケインは刀の重さに慣れきっていない。それゆえ、未完成の技でもある。
「……行くぞっ!」
「来いっ!」
ケインが地面を蹴り、一気に距離を埋める。そして、引き抜くように創烈を振り上げる。対するダリアも、イグニスを振り下ろす。
創烈とイグニスがぶつかり、強い衝撃がケインを襲う。しかし、ケインはそのまま創烈を振り上げきり、イグニスを押し返す。
その隙をつくように、天華が突き出され、ダリアの脇腹を襲う。
「ぐぅっ……!?」
「まだまだぁ!」
「ふっ、そうこなくてはっ!」
ダリアに強い痛みが襲いかかるが、気にする様子もなく、すぐさま攻撃に転換。ケインも、それに答えるように、連続して攻撃を繰り出す。
まだ慣れていないとはいえ、ケインの二刀流は、ダリアの荒れ狂う攻撃に、負けず劣らずの攻撃を放つ。
しかし、それでも……
「くっ……!」
「あっはっは!いいぞ!もっともっと戦おうではないか!」
やはり、ダリアには僅かに届かない。
せめて、上手く二刀流が扱えていれば。せめて、もっと自分に力があれば。
そんな「せめて」が、ケインを無意識のうちに焦らせる。
「くそっ……!」
「どうした?もっと来るがいい!」
ケインが、ダリアから距離を離す。自らの焦りを感じているのか、その顔には、僅かに苦しそうな表情が張り付いていた。
「ふっ、来ないのなら、こちらから――っ!?」
ダリアがイグニスを構え、ケインへ詰め寄ろうとする。その瞬間、二人の間に赤い何かが割り込んできた。
それは、ゆらりと立ち上がると、ケインの方を見た。
「わりぃな、ご主人サマ。我慢の限界だったわ」
「……ガラル!?」
「ほう……貴様が……」
「オレは強いヤツを見ると、戦わずにはいられねぇタチでね。ご主人サマのおかげで落ち着いてぁいるんだが……それでもすぐにゃ、変われねぇってこった」
そう言って、乱入者――ガラルが金棒を手に、ダリアに向かってニヤリとした笑いを向けた。
「ってことで、ここからはオレが相手だ。文句はねぇよなぁ?団長さん?」




