18 吸血鬼の苦悩
今回は会話メインの回になります。
「え…血が苦手って、どういう…」
「どうもこうも、そのまんまの意味よ。私、血の味ものすごく苦手なの」
「じゃあ、ここに来た町の人を襲ったのっていうのは…」
「あー…それはお互いの勘違いね。最初ここに来たとき、私が勝手に「ここは廃城だから、誰も来ないわね、」って思ってた。で、いざ住んでたらたまたま町の人とばったり会っちゃって、びっくりして…」
「で、双方敵が来たと認識して、ぶつかったと」
「そういうことね。まぁ、知らなかったとはいえ、流石に悪いことしたとは思ってるわ」
…どうやらこの吸血鬼、町の人達が怯えるような存在ではなく、むしろとても好感が持てる存在である。
そのことに安堵しつつ、一つ目の本題を切り出した。
「実は、お前に会いに来た理由が二つあるんだ。メリア」
「…むぐ?」
「ほら、話がしたかったんじゃないの?」
「話?私に?」
「んぐっ…ふう、ごちそう、さま」
「え?あ、うん」
「それで、話ってのは」
あ、そのまま行くのね。
「本当は、どうして町の人を襲ったのかを聞きたかったのだけど、さっきの会話で大体は分かったよ。だから、別の質問。さっき見つけたこの野菜、あなたが作ったもの?」
「えぇ、それはまさしく私の作ったものよ」
「これ、すごくおいしい。でも、なんで野菜なんか作ってるの?」
「あら、ありがと…って、食べたの!?」
「俺は止めたんだが…ごめん」
「いや、別に良いわ。それで、作ってる理由かしら?」
「うん」
「単純よ。さっきも言った通り、私は血が苦手。でも私達吸血鬼は、血を飲まないと魔力や体力の回復が遅くなってしまう。だから、少しでも回復力を高めるものを作ろうとしたのよ」
「それが、あの庭にあった野菜、と?」
俺がそう聞き返すと、彼女はニコリと笑った。
「正解。あの野菜は、私が家出する前から作ってあったのだけど、育てさせてもらうことができなかったの。だから味は後に回してたんだけど…外に出てからは、味を向上させることができるようになったの」
「体力の回復…だからなのかな。さっき食べたとき、からだが軽くなった気がするんだ」
「ふふふ…そこに気がつくとは!その通り、私の作った野菜達は、どれも普通の野菜とは比べ物にならないくらいおいしいだけでなく!疲労や病気の回復力を高める効果があるのよ!」
なんと。この野菜にはそんな効果があったのか。
見た目は一般的な野菜と変わらないが、ものすごく革命的なものだぞこれは…
「すごい…のかな?でも、頑張って作ったのは分かるよ」
「ふふ、ありがと」
「うん。私の方はもういいよ。あとは…」
「俺の…というより、ツィーブルの人達の為の要件だな。」
「それって、もしかして…」
「…あぁ、お察しの通りだとは思うがこの城…というより、この辺りから離れてほしい」
「…断る、と言ったら?」
「どうもしない。俺達は、お前の現状を知った。だから、無理矢理なんて事はしない。ただ、町の人達がいつまでも怯えて居るのは、見ていられないけどね」
「………」
彼女は暫く黙りこんだ後、ふと顔を上げ、
「…ここは、私がようやく見つけた場所。離れるなんて、そう簡単にできないわ」
「…そうか」
やはり、そう簡単には動かないよな。
俺達も、無理強いをさせてまで追い出そうとは思っていない。
「…悪かったな」
「へ?何が…?」
「いや、せっかくの居場所から、出ていけ。なんて言っちゃってさ」
「そんなの、気にすることないわ。元々は私が悪いのだし」
「だとしても、だ」
俺達は、彼女の入れてくれたお茶を飲んだあと、そのまま宿に戻ろうとした。
「あ、ちょっと待ってくれないかしら?」
「ん?」
「貴方達だけ何かを得て帰るってのは、少しどうかと思ってね」
「んー。なにか欲しいものでも?できるかぎりは渡せても、無理なものは無理と言うぞ?」
「そんな盗賊紛いのものじゃないわ。血をこの瓶に入れて欲しいのよ」
「…?血、苦手じゃないの?」
「もちろん苦手よ…でも、最近溜めてあった血が無くなってきていて、野菜を食べてるだけでは回復したりなくなってきているのよ…」
彼女いわく、最初に襲ったときに少し取っていた分が底を付きそうになり、困っていたとの事。
俺達は二言で返事をし、小瓶2本にそれぞれの血を入れて渡した。
「はい。これでいいかな?」
「えぇ、これで少なくとも1ヶ月は持つわ」
「…1ヶ月後は?」
「分からないわ。でも、無理矢理襲おうだとは、これっぽっちも思ってないもの」
「そうか…そういや、名乗ってなかったな。俺はケイン」
「私は、メリア」
「私はナヴィ。それじゃあね」
*
…行っちゃったわね。
ケインにメリア。あの二人、町の奴等とは違って、私をちゃんと見てくれた。
ただそれだけなのに、こんなに嬉しく感じるのね。
それに、血も分けてくれた。
いつかまた、ここに来てくれるかしらね…
…
なんか、寂しくなっちゃったな。
ふと、渡された二人の血が入った小瓶を見つめる。
「…あれ、この血って確かメリアの…」
あの子は、確かに人間…よね?
でも、これは…
私は興味本位で、メリアの方の血を舐めた。
「…!?嘘、これって…!」
すぐに私は、研究室に戻った。
メリアの血を調べ、そして確信した。
「あの子、色々と訳ありみたいね…」
誰かに話すつもりはないけど、あの二人、とんでもない秘密を抱えているのね。
なんでか分からないけど、あの二人のことが気になって仕方ないわ…
「…あ、」
…そうね。
それも、いいかも。
私は、すぐに支度を始めた。




