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172 傲慢の従魔

 ケイン達が王都から出て、二日が経った朝。

 ようやく動けるようになったアブゾンは、不安に押し潰されそうな顔で、門の外に立っていた。

 そんなアブゾンの元へ、カイルが訪ねてきた。



「アブゾン、無茶しちゃいけないよ?」

「ギルド長……」

「心配なのはわかるけどね?君だって重傷なんだ。本当なら、じっとしていなきゃいけないような傷なんだ。君の家族だって、心配していたよ」

「あいつらには悪いと思ってるさ。だからって、落ち着いてなんか、いられねぇよ……!」



 カイルは困り果てていた。カイルは、アブゾンが対面したという者の強さを、言葉でしか知らない。故に、ここまで畏怖するアブゾンの心情を、完全に理解することができていなかった。



「その相手というのは、それほどまでに強かったのかい?」

「あぁ……一方的な戦いしかできなかった。一方的に攻められて、一方的にいたぶられるだけだった。俺は、運良く見逃して貰えたが……あいつらも見逃されるかはわからねぇ……」

「……信じるしかないよ。生きて、戻ってくることを……さ」

「あ、あぁ……っ!?」



 そう言い残し、カイルが王都へ戻ろうとした、その時だった。遠くから、人影らしきものが、こちらへ向かってくるのが見えた。

 勿論、それがケイン達だという保証はない。だが、確信はあった。



「戻って、きた……!?」

「えっ?」

「あいつら……生きて、戻ってきた……!」

「え、えーっと……まだここからじゃ、わからないと思うんだけど……」

「いや、あれは間違いねぇ…間違いねぇよ!」

「わ、わかった。わかったから落ち着いて」



 とは言え、カイルも困惑していた。

 話を聞く限り、相手は相当な実力の持ち主。それも、Bランク冒険者相手に、一方的な戦いをするほどには。

 そんな敵を相手に生き残ったとあれば、気になるのも無理はなかった。


 やがて、人影が近づくにつれ、その姿がハッキリと見えてくる。

 そして、彼らは二人の元へとたどり着いた。



「……よぉ」

「おまえら……生き残ったんだな……!」

「勝手に殺すんじゃねぇよ……」

「わ、悪い……」

「にしても、あんたも待ってたのか?」

「いいや、私はたまたまだが……にしても、よく戻ってきてくれた。後で、詳しく話を聞かせてもらえるかい?」

「あぁ……っと、先にやることが……」

「やること……っ!?」



 ケインの言葉に首を傾げたアブゾンだったが、その視界に、見覚えのある存在がいることに気がついた。

 ()()()()()()()()()()()が、その顔を見間違えるはずもなく、次第に顔が青ざめていく。



「ん?おぉ!貴様、あんときの!」

「な、ななっ、なん…!?」

「アブゾン、知り合いかい?」

「おい…!どういうことだ…!?」

「いやぁ、その……」

「なんでここにコイツが……俺を襲ってきたヤツがいる!?」

「襲った…?まさかっ!?」



 アブゾンの叫びを聞いて、カイルはようやく事の重大さを理解した。

 それは、近くに居た門番も同じようで、その手に武器を取ったり、上へと報告したりしようとしていた。



「ハッハッハッ!心配するこたぁねぇよ。オレはもう、自由にケンカできねぇからな」

「……それは?」



 鬼人が、アブゾンに向けて左手の甲を見せる。そこには、アブゾンはおろか、カイルも見たことのない紋様が浮かんでいた。



「オレはご主人サマ……ケインの従魔になったからな」

「「……はぁ!?」」

「まっ、そういう訳だ!ハッハッハッ!」

「……ケイン君。そのあたり、詳しく聞かせてもらえるよね?」

「……わかってる」



 *



 王都へ帰ってくるや否や、散々な目にあった。いや、必然だった。

 それもそのはず、討伐へ向かったはずの俺達が、その討伐対象を従魔にして帰ってきたのだから。

 ちなみに、騎士団には結局報告された。仕方ないとは思うので、そこは素直に従った。まぁ、テイムされていたと報告されたことに、こいつは納得していなかったが。


 そんなこともあり、現在俺達は、ギルドの一室で、今回のことについて話をしていた。

 話をするにつれ、アブゾンだけでなく、カイルも頭を抱えていた。



「はぁ……話はわかった。わかったんだが……」

「り、理解が……」

「……だろうな」



 気持ちはよくわかる。倒したら気に入られて、自ら従魔になりたいと言い出すとは思わないだろう。

 戦いにしか興味がないと知っているなら尚更。



「……そもそも、本当に鬼人なのかい?」

「おう……ほらよっ!」

「なっ!?」



 鬼人の周囲を魔力が包み、少女の姿から、元の鬼人の姿へと変化する。とはいえ、少女の姿と鬼人の姿では、見た目は額の角以外変化はない。

 しかし、放たれる魔力と威圧感は、全く違うものへと変化。その感触を覚えていたアブゾンは、体を震わせていた。



「……おい」

「わーってるよご主人サマ」



 俺がじっと睨むと、やれやれといった感じで人化を発動し、少女の姿へと戻る。額の角は消え、魔力や威圧感が抑えられた。



「な、なるほど……確かに、これは……」

「まっ、そういうことだ」

「だっ、だが暴れないという保証はどこにも……」

「んじゃ、見せてや――」

「やめろ」

「ぐっ!?」



 アブゾンに向かって、拳を突き出そうとする鬼人に、言葉を一つ口にする。

 その瞬間、金縛りにでもあったように、鬼人の体が硬直し、動かなくなった。



「……っと、こんな感じにな」

「……あのなぁ、俺はあんまり命令を使いたくないんだが?」

「わかってるわかってる」

「はぁ……」

「な、なんか疲れているようだね」

「……色々とな」



 これからのことを考えれば、こいつを仲間にできたことは、とても大きなこと。

 だが、それと同じくらい、心配事も大きかった。



「……っと忘れるところだった。いいんだよな?」

「おう。オレには、もう必要ねぇもんだからな」

「うん?話が見えないんだが……」

「こいつを買い取って貰いたい」

「魔石?いったいなにの……」

「『鬼人(こいつ)』の魔石だ」

「「なっ!?」」



 再び、アブゾンとカイルの声がハモる。

 それもそのはず、魔石は本来、モンスターが消失した際に残されるもの。だが、当の本人はここにいる。だが、魔石もここにある。訳がわからなくなるのも無理はない。



「オレはご主人サマと契約した。そんとき知ったのさ。魔石(コイツ)は必要ねぇってな」



 従魔契約が成立した瞬間のこと。

 イルミスの言う通り、成立した瞬間に突然苦しみだした鬼人。そうして暫く傍観していると、鬼人の胸元辺りから、魔石が飛び出してきたのだ。



「ソイツは確かにオレのもんだが、オレの一部じゃなくなってる。使うも壊すも、自由にすればいい」

「と、いうわけだ」

「わ、わかった……報酬と共に、魔石の金額も渡すよう言っておく。ただ、暫く時間は使わせてもらうぞ?」

「あぁ、構わない」



 これで、話すべきことは話終えた。正直、早く宿に戻って休みたい。

 というか、部屋を新しく借り直すべきだろうか。



「それじゃ、これで終わりだな」

「あ、あぁ。鬼人の件についてはこちらでも……」

「……つーか、さっきからテメェ、オレのことを鬼人呼ばわりしやがって……オレには、ご主人サマから与えられた名前があるってのによぉ」

「な、名前…?」



 鬼人が、アブゾンとカイルの方を向き直す。

 そして、ニヤリと笑いながら、その名を叫ぶ。



「ガラル。オレの名前はガラルだ!よーく覚えておきな!」



 こうして、鬼人――ガラルによる事件は、俺の従魔になる、という結果で決着がついた。

 だが、それは彼らの興味を惹くことになる。


 そう。王国騎士団という、この国を守るための組織の興味を……




 *




「……以上が、ギルド長からの報告です」

「ソーサラーの塔を二日で攻略……それに、鬼人を手懐けた冒険者……面白い」



 王国騎士団団長は、不敵な笑みを浮かべながら、立ち上がる。報告にあった冒険者――ケインという者を、見定めるために。



「行くぞ、ケイン・アズワードという者の元へ!直々に、わら……我が見定めるとしよう!その者の力を!」



 ケイン達の苦難は、まだ終わらない。

これにて十七章「鬼人狂乱」編は完結です。

次回十八章も、よろしくお願いします。



-補足-


ユア「ガラルについてですが、某ゲームとは全く関係ありません。この小説を書き始めた時点で、ガラルというキャラクターは作成済みであり、関係性があるわけでもありません。ご理解の方を、よろしくお願いします」

ナヴィ「えっ……どうしたの?急に……」

ユア「さぁ?私は、渡された紙に書かれた内容を読んだだけで……おや?そもそもこの紙は、一体誰から……まぁ、リザイア辺りの仕業でしょう」


リザイア「……我も知らないのだが?」

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