170 弱き青年の覚悟
四日連続で更新してますが、私は元気です
「行くぞアリス!」
「えぇ!」
「はっ、そんなボロボロの状態で、なにができ……チィッ!?」
俺とアリスを見て、軽蔑するような目を見せた鬼人だったが、一瞬で距離を詰められたことに気がつき、慌てて後方へと下がった。
「くそっ、だが!」
「まっだまだぁ!」
「くっ、おせぇんだよ!」
初撃を外した俺達も、すぐに体勢を整え、鬼人に追撃を仕掛ける。しかし、鬼人はすぐさま反応し、俺達の武器に掴みかかろうとした。
「「〝制限解除〟!」」
「ぐぁっ!?」
鬼人の手が、俺達の武器に迫り来る瞬間、俺とアリスが制限解除を発動。振り下ろし、突き出す速度を早め、掴まれるより先に鬼人へ牙を向いた。
「っ、らぁっ!」
「ぐぅっ……でもっ!」
「なにっ!?」
鬼人は、自分に突き刺さった槍を掴むと、そのままアリスごと空中へ放り投げた。しかし、アリスはすぐに空中で静止。一回転すると、そのまま槍を振り下ろした。
「ぐっ……どうなってやがる!」
「教える気はないわ!はぁっ!」
「はっ、だがその程度で――」
「はぁっ!」
「っぐぁっ!?」
宙に浮いたまま、アリスが攻撃を仕掛ける。それに気をとられた鬼人の横腹を、俺の天華の一閃が襲う。
入りが甘かったものの、それでも、確実に出血量は増えている。
アリスが宙に浮いている理由。それは、レイラがアリスを、念力で動かしているからである。
というのも、アリスの体は、満足に動かせられる程回復しきっていない。そのため、レイラの念力を用いて、無理矢理に動かしているのだ。
しかし、無理矢理動かしているため、制限解除の使用は控える必要がある。ここぞ、という時以外で使えば、今度こそ、体への負担が限界を越えてしまう。
「こんっ、のやろめっ!」
「ふっ!」
「逃がすか――ぁ!?」
鬼人の攻撃を、ジャンプすることでかわした俺を追おうと、鬼人が踏み込もうとする。
その瞬間、地面が下がった。
―かつて、ロッドグリズリー討伐の際に使った、メリアの防壁による地面の擬装。
鬼人がそれに気づいた時にはすでに遅く、踏み込めたのは、足が伸びきる少し前だった。そのため、ジャンプもまともにすることができず、空中という場所で、体勢を大きく崩してしまう。
そんなチャンスを、逃すような俺達ではない。
「〝火炎波斬〟!」「〝飛槍〟!」
「グァァァァ!?」
制限解除を発動した、最大火力の攻撃を、鬼人に放つ。
いくら鬼人とはいえ、空中で、しかも体勢が崩れていては防ぐ手段はなく、そのまま直撃。ものすごい速度で、地面へと叩きつけられた。
「……どう思う?」
「手応えはあるわ……でも――がはっ!?」
「アリ――ぐぅっ!?」
地面に降りた俺達。しかし、直後に鬼人が俺とアリスに殴りかかってきた。なんとか防御できた俺とは対照的に、アリスは反応が遅れてしまい、もろに喰らってしまった。
「がはっ、くっ……!」
「……ちっ」
なんとか堪えた俺だが、それを見た鬼人が、俺に向かって舌打ちをした。
まるで、倒れなかったことが気に食わないとでも言いたいように。それを体で現すが如く、鬼人が俺に殴りかかってきた。
「なぜだ!どうして倒れねぇ!」
「な、なにが…!」
「決まってんだろ!テメェが弱ぇからだよ!」
「っぐぅっ!?」
「竜人の女みたいな力もねぇ!魔族のガキみたいな魔力もねぇ!」
「がっ、ぐぁっ…!」
「ケイン!?」
拳が、ひっきりなしに俺を攻める。速度こそなくなっていたが、それでも力量が下がる訳ではない。
次第に、受け止めきれなくなっていく。
「テメェからはなにも感じねぇ!強い力も、強い魔力も、なにもかも!」
「あっ、がはっ、ぐぉぁっ!」
「ケ……イン……!」
殴られ、蹴られ、激痛が身体中を走る。
それでも、俺は……
「弱ぇ癖に出しゃばって!誰かの力を借りなきゃ、なんにもできねぇ癖に!」
「ぉがっ……!」
「なのに……なんで倒れねぇ!なにがテメェを支えてやがる!?」
何度も拳を打ちこまれ、俺は、恐らく満身創痍なのだろう。それでも立ち上がる俺を見て、鬼人の表情に、僅かに恐怖が写っていた。
だが、それを見ていられるほど、俺に余裕は無かった。
どこが痛くて、どこが苦しいのか。すでに、よく分かっていない。しかし、立ち上がらなければならない。それだけが、頭の中に沸き上がっていた。
「はぁっ、はぁっ……そう、だ。俺は、弱い。仲間を、守ると言って、いつも、仲間に助けられて……だがな…!」
俺は、鬼人を睨み付ける。睨まれた鬼人は、一瞬だけたが、怯んだようにも見えた。
「例え今は弱くても、必ず仲間を守ると決めた!仲間が虐げられようと、必ず側にいてやると決めた!例え、お前みたいな強者が相手だろうと!例え、世界が相手だろうと!俺は、命をかけてでも戦い抜くと、そう決めてんだよ!」
「……っ!」
畳み掛けるような俺の言葉に、鬼人が思わず一歩下がる。その無意識の行動は、鬼人も想定外だったのか、苦虫を噛んだような表情を見せる。
そして、地面に転がっていた金棒を拾い上げると、俺に向かって構えた。憤怒の顔と共に。
「もういい……テメェは、ここで死ぬんだよ!」
鬼人が駆ける。金棒を振り下ろし、俺にトドメを刺す為に。
俺は、天華を構える。
――チャンスは、たった一度きり。失敗すれば、俺は――死ぬ。
鬼人が、金棒を振り下ろす。俺は金棒を、天華で受け止めた。
――第一プロセス、クリア
俺の体に、これまでにないほど強い衝撃が襲ってくる。体からも、ミシッという音が聞こえてくる。
そして、そのタイミングで俺は体を翻し、体の左側へ、金棒を受け流した。
――第二プロセス、クリア
鬼人は、勢いよく振りかぶった影響で、そのまま勢いに乗せられ、前のめりになって倒れ込む。
それは、たった一瞬のこと。鬼人が反撃できないその一瞬を、俺は待っていた。
だが、今の天華では、届かない。だから、俺はもう一つの刃――創烈を左手に取る。
――第三プロセス、クリア
創烈に魔力が溢れる。受けた痛みを、自分の弱さを、自分の覚悟を。全てを乗せた創烈を、鬼人に振るう。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
そして、俺の全てを込めた反撃が、鬼人の胸を切り裂いた。




