169 龍と鬼の激闘
鬼人とイルミス。両者共に拳を握ると、同時に駆け出し、互いの拳をぶつけ合う。その衝撃は凄まじく、離れにいたウィル達にすら届いていた。
そして、互いに一歩下がると、寸分狂わず同じタイミングで回し蹴り。再び衝撃波が俺達を襲うと、今度は真っ向からの殴り合いが始まった。
しかし、イルミスは肉弾戦に慣れておらず、終始押されていた。そのかわり、ドラゴン故の耐久力とパワーを生かし、攻撃を受けつつも一撃を叩き込む戦法を取っていた。
対する鬼人は、元々力の強い種であるため、ただの拳ですら、常人なら沈むような一撃になる。
イルミスに対しても、素早く連続で拳を突き出して攻撃。イルミスとは真逆とも言える戦い方で、イルミスを追い詰めていく。
しかし、鬼人もイルミスの攻撃を何度も受けており、一概にどちらが有利とは言えない状況が続いていた。
「ははっ!いいね、最高だ!」
「ぐっ…!」
「んじゃあ、こいつならどうだ!?」
鬼人が、イルミスの攻撃をかわし、イルミスの背後へと飛ぶ。その先にある、地面に刺さったままの金棒を手に取ると、そのままイルミスに向かって駆け出し、振り下ろした。
しかし、イルミスは避けようとせず、右手を前に出すと、そのまま金棒を受け止めた。
「今です!」
「あ?テメェなにを――」
「〝砂塵弾〟!」
「なにっ!?」
イルミスが金棒を受け止めた瞬間、ナヴィが鬼人に向かって大量の砂塵弾を放つ。
鬼人は金棒で振り払おうとするも、金棒はイルミスに掴まれており、振るうにも間に合わない。
そのため、仕方なく金棒から手を離し、拳を突き出し、その衝撃波で防ごうとする。
「今よ!」
「〝暴風〟」
「なっ、ぐあっ!?」
そこに今度は、ユアの暴風が炸裂。砂塵弾の砂を巻き込み、大きな砂嵐となって、鬼人に襲いかかる。
この一連の行動は、実は最初に攻撃をかわしたところから始まっていた。
最初に大きく回避した時、ユアがナヴィの気配を遮断。ナヴィは、ケイン達が戦っている間、ひたすらに砂塵弾を貯めていたのだ。
全ては、この時のために。
とはいえ、ナヴィはこの戦法をあまり取りたいとは思っていなかった。
鬼人のような戦闘狂だから、という訳ではなく、単に「ケイン達が戦っているのに、自分だけ戦わずにいるなんて嫌だ」という思いがあるからである。
それに加え、今回はアリスが一撃で沈められ、ケインも体に多大な付加を掛けてしまった。
それを見ていることしかできなかったのは、ナヴィにとって最悪なことだっただろう。
「……さて、これで終わってくれるならいいんだけど……まぁ、無理でしょうね」
「……そのようですね」
「ぅうぇっ、ゲホッ、ペッ!」
砂嵐が止み、現れたのは無数の掠り傷を負いつつも、平然としている鬼人。どうやら口の中に砂が入ったのか、必死になって吐き出していた。
「ア゛ークソが!目もいてぇし口も気持ちわりぃし体も地味にいてぇ!まぁ、んなこたぁどうだっていいんだけどなぁ!?ペッ!」
「……どうみてもきにしてるよね?あれ」
「行くぜオラァ!」
イブの言葉を思いっきり無視すると、そのまま地面を蹴ってイルミスへと殴りかかる。
イルミスも金棒を手から放すと、拳を構え、激突する直前で下がった。
「なにっ!?」
「〝爆炎〟!」「〝空気弾〟!」
「ちぃっ!」
「充填7」
「あがっ!?」
「はぁっ!」
「ごはっ!?」
鬼人の拳が空を切る。それに合わせるように、ナヴィとイブのスキルが、鬼人を襲う。
鬼人はなんとか空中に逃げるが、先回りしていたリザイアの雷弾を背後に喰らう。
そして、追撃と言わんばかりに、イルミスの蹴りが、鬼人を地面に叩きつけた。
流れるような連携攻撃。実は、これにもカラクリがある。
とは言え、そのカラクリは単純なもので、ケインの気配を、ユアが消しているだけである。しかし、気配を消すことはできても、声を荒げてしまえば意味がない。
だが、直前の砂嵐によって、鬼人の耳は、一時的に聞こえづらくなっていた。イブの言葉を鬼人が無視したのは、単に聞こえていなかっただけである。
そして、鬼人が聞き取れない、けれど、出来る限りの声で、指示を飛ばしていたのだ。
ナヴィ達は、立ち上がった砂埃を見つめる。
いくら攻撃を決めたところで、倒せていなければ意味がない。油断することなく、戦う構えを取っていた。
やがて、砂埃が晴れた。そこには、立ち上がり、ナヴィ達を睨む鬼人の姿があった。
「ふ、ふふふ……あーはっはっは!」
「……やはり、まだ立つか」
「嗚呼……嗚呼……!これだ!これだよ!オレが求めていたのは!」
「……っ!?」
「この痛み!死が近づく感覚!最高だ!最高だぜテメェらぁ!」
「なんっ、ですの…!?この感じ…!?」
「もっとだ!もっともっと死合おうじゃねえか!どちらの命が果てるまでなぁ!」
「なっ、ぁがっ!?」
「ナヴィ!?」
鬼人が、およそ人では出せぬ速さで駆ける。一瞬にして距離を詰めると、そのままナヴィを殴り飛ばした。
「オラァ!」
「イブっ!あぐっぁ!?」
「ぐゃぁ!?」
今度は、イブに向かって蹴りを放つ。イブへの直撃は、ウィルが庇ったものの、二人纏めて蹴り飛ばされ、地面に何度も叩き付けられる。
「あっ、うぐぁ…!」
「げほっ、ぅえっ…!」
「ぉあっ、はぐぁ…!」
「みなさん!」
「よそ見している場合かぁ!?」
「くぅ…!」
鬼人が、今度はイルミスに狙いを定める。
先程までとは比べ物にならないような拳の雨が、執拗にイルミスを襲う。いくらドラゴンであるイルミスとは言え、流石に耐えることは難しく、反撃すらできずにいた。
「充填――」
「オラァ!」
「きゃあっ!?」
「なっ!?」
「隙アリィ!」
「「がっ!?」」
リザイアが背後を取り、攻撃しようとしたが、突如リザイアの方へ、イルミスが投げ飛ばされた。リザイアは慌てて攻撃を止めるが、その隙をついた鬼人が、二人纏めて地面に叩き付けた。
「ホラホラどうしたぁ!さっきまでの威勢が消えてるぞ!?」
「うっ……ぐぅぅっ……!」
「けっ、ここまでかぁ?――じゃあ、とっととくたば――」
「〝波斬〟!」「〝飛槍〟!」
イルミスにとどめを刺そうとした鬼人に向かって、斬撃と魔力の槍が襲いかかる。
鬼人はそれらを後ろに飛ぶことで回避する。
「ったく、勝手に終わらせようとしないで欲しいわね」
「全くだ……ピンチには、かわりないけどな」
「……はっ、その身体でやるつもりか?」
「そんなの、当たり前だろ?」
「「まだ、(俺)(わたし)達がいる。簡単にはやられねぇぞ?」」




