17 吸血鬼に会いに行こう。
「…よし、誰にも見つかってないな。宿の方は?」
「だいじょーぶだよ。バレてない」
「なら、急ぐぞ」
「りょーかい」
俺達は夜、宿をこっそりと抜け出して城へと向かっていた。
このツィーブルという町、昔はこの時間でも賑やかさが残っていたのだが、今はヴァンパイアに襲われるかもしれない、という恐怖症により、夜の九時を過ぎると街灯すら付かなくなる。
それを知った俺達は、宿主が寝静まるタイミングを見計らって宿を抜け出すことにした。
そのため抜け出しやすく、かつ戻りやすい位置にある宿の部屋を選んでおいた。
そのおかげで、誰にも悟られる事なく城へ向かう事ができた。
「にしても、改めてみるとでかいな…」
「うん。大きいね、これ」
だいぶ近づいたのもあるが、丘で見たときよりもずっと迫力のある城だ。
さすがは町全体で守り続けただけのことはある。
そうこうしているうちに城の門…があったであろう場所にたどり着いた。
「よし、じゃあ乗り込むぞ…って、メリア?」
「…ケイン、ちょっと来て」
「なんだ?メリア…って、なんだコレ?野菜?」
「野菜だね。しかも、おいしい…」
「うーん…見たことの無い野菜だなぁ…って、食べたのか!?」
「だいじょーぶ。落ちてたのだから」
「そう言う問題じゃ…というか、なんで城に畑があるんだ?しかも、かなり大きいし」
たしか、ここはかなり神聖な場所だって言っていた。
それなら、城の庭にそれなりに大きな畑があるのは場違いにもほどがある。
…やはり、直接会ってみるのが一番か。
「メリア。野菜もいいけど、とにかく会いに行くぞ」
「むぐむぐ…んぐっ、りょーかい」
「まだ食べてたのか…」
「結構甘かった。野菜とは思えないくらいなに」
「へぇー…」
…そう言われると、俺も食べてみたくなるな。
でも、町を怯えさせている元凶に会ってみないと、どんな目に会うか分からないしなぁ…
という考えをしながら、俺達は城の入り口にたどり着いた。
入り口はドアになっており、触った感じ鍵がかけられている様子はない。
また、メリアの五感にも罠らしきものは感知できない。とのことなので、普通にドアを開けて城の内部に侵入した。
城の内装はちゃんと整備されており、月明かりに照らされた床が輝きを放っている。
この城は、町の人々にどれだけ大切にされてきたのか、それがよく分かる状態だった。
などと感心していると、上の方から足音が聞こえてきた。
俺は、なるべく小声でメリアに話しかけた。
「…メリア、一応気をつけて。襲われる可能性もあるからな」
「分かってる。話し合えればいいなぁ…」
そんな会話をしているあいだも、足音はどんどん近づいてきている。
俺達は、いつでも動けるように構える。
足音が止まり、その場に居たのは…
「むにゅ…?お客しゃんか?」
威厳が一切感じられない姿で居る、吸血鬼であった。
「いやぁー…まさかこんな時間にお客さんが来るなんてね。はい、お茶がはいったわ」
「え…あ、ありがとうございます?」
「んぐ…ぷはぁ……おいしい」
「そうでしょそうでしょ!自家製の茶葉を使っているからね」
「自家製なのか…」
俺達が件の吸血鬼と出会って数分。襲われる、ということもなく、普通にもてなされている。
疑うようで悪いとは思ったが、一応毒が無いかこっそりと道具を使って調べたものの、そういったものは無かった。
なので、特に敵対するような人?では無いだろう。
…しかし、改めて見ると、さっきの威厳無さが嘘のように見える。
最初会ったときは完全に寝間着だったが、今はちゃんとした服装に着替えている。紺と白をベースにした、いかにも吸血鬼らしい服装だ。
それと、吸血鬼本人もかなり可愛い。
銀に輝くふわりとした髪。赤と青のオッドアイ。スラリとした手足。背は低めだけど、胸はそこそこあ「なに見てるの?」…
「イエ、ナニモ?」
「ふぅーん」
少し脱線したな。そろそろ話をしようか。
…というかメリア。ずっとお菓子食べてるけど、話したいって言ったのお前だからな?
まぁ、いっか。
「…で、そろそろ本題なんだが…お前、吸血鬼だよな?」
「そうね、私は誇り高き吸血」
「そういうのはいいから。で、なんでお前はこの城に居座ってるんだ?ここはあの町の人の大切な場所なんだ」
「ぶー。ちょっとぐらい、名乗らせてくれたっていいじゃない…で、なんで居座ってるのか、だっけ?そうね……一言で言うなら、家出?」
「い、家出?」
「そっ、家出。私、元々はそこそこ名の知れた一族の娘なのよ。でも、跡継ぎとかそういうのに縛られたくないから家出したの」
「はぁ…」
吸血鬼はおもいっきり机を叩くと、一気に親を叩き始めた。
「そもそもさ!いい年して娘にベッタリとかおかしいのよ!私がいろいろやりたいと思っても「それは危険だ。私たちがやるからお前は下がっていなさい」って!どんだけ過保護なのよ!食事もそう!なーにが「お前が立派に育つように、いい血をふんだんに使った料理だぞ!」よ!私、血の味ものすごく苦手なのに!」
「ちょ、ちょっと待って!今なんて?」
「え?親が過保護すぎて…」
「その次その次」
「私が血の味が苦手なこと?」




