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167 謎の狂戦士

十七章開幕です

 ソーサラーの塔を攻略し、新たなスキルを会得した俺達。そんな俺達に、朝早くギルドからの呼び出しがかかった。



「ケイン……私たち、どうして呼ばれたのかわかりますの?」

「いや……まっったく心当たりがない。強いて言うなら、昨日の攻略が目立ちすぎたことくらいだと思うんだが……」

「迷惑、かけ、た、から……?」

「かもなぁ……」



 昨日塔から出た後、一時期俺達の周りへ冒険者が押し寄せてきた、ということがあった。

 あの時は、塔の担当をしていた職員達の力を借りて、なんとか鎮圧させたのだ。そのことで、なにかしら文句があったのかもしれない。

 そんな軽い気持ちで、俺達は冒険者ギルドへと足を踏み入れ……異様な空気に、違和感を覚えた。



「……静かだな」

「えぇ……仮にもここは王都のギルド、こんなに活気がないはずがないわ」

「……あっ!皆さぁぎゃっ!?」

「うぉい!?大丈夫か!?」

「だ、だいびょーぶ、でしゅ……」



 こちらに気がついた少女―もとい、俺達が初めて来たときに受付をしてくれた新人さんが、俺達の元へ駆けようとして、盛大に転んだ。

 頭からベシッと行ったんだが……どうやら、平気なようだ。……鼻血は、出ているが。



「メリア、頼む」

「ん……〝回復(ヒール)〟」

「ふぁ……あ、ありがとうございま……ではなくて!」

「うぉっ!?」

「は、はやくこちらに来てください!」

「ちょっ、わかった!わかったから!先ずは落ち着け!」

「へ…?あっ!も、申し訳ありません!」



 起き上がるや否や、いきなり手を引いて奥の方へと連れていこうとする新人さん。

 理由も分からぬまま連れていかれる訳にもいかないので、とりあえず落ち着いてもらうことにした。

 慌てていた新人さんも、なんとか落ち着きを取り戻し、謝罪してくれた。



「……それで、どうして俺達が呼ばれたんだ?それに、この空気は一体……」

「それは、この場では詳しく説明できないので……本人から聞くのがよろしいかと思います」

「本人?」

「はい。アブゾンさんです」

「アブゾン?彼がどうかしたのか?」

「会えばわかると思います。こちらです」



 新人さんの案内の元、連れてこられたのは二階にある一室。扉を開けた先にいたのは、少し身なりの整った男性と、全身ボロボロの状態で横たわるアブゾンだった。



「……来たか」

「よ、よぉ……久しぶり、だな……」

「なっ……大丈夫なのか!?」

「心配する気持ちはわかる。ただ、今はこちらの話を聞いてくれるかな?」

「……わかった」



 アブゾンの身を心配するも、もう一人の男性に話しかけられた。俺の予想が正しければ、間違いなく彼は、このギルドの上層の者だろう。ギルド長と言われてもおかしくない。

 だから、素直に従うことにした。



「さて…はじめまして、だね。私はカイル。このギルドのギルド長を勤めている」

「……やはりそうか」

「おや、気づいていたのかい?……いや、君のような優秀な冒険者なら、すぐに気がつくか」

「それで、俺達を呼び出した理由はなんだ?……と言っても、アブゾンに関係することなんだろうが……」

「……半分は正解だ。実は、君たちを指名する声があってね」

「俺達を指名、だと?」

「あぁ」



 少し、面倒なことになった。

 俺達……というより俺は、確かに指名依頼をされてもおかしくないランクではある。が、王都に来て早々に来るのは、怪しい感じがしてならない。

 なので、探りを入れることにした。



「……断る、と言ったらどうなる?」

「考えたくはないが……大勢の怪我人が出るだろう。最悪、死人も」

「……俺達を指名したのは?」

「……それにはまず、彼がこうなった経緯から話す必要がある」

「アブゾンが?」

「あぁ。近頃、西の森に向かった冒険者が戻ってこないという事件があってね……彼には、その調査を依頼していたんだ」

「その調査の最中に、こうなった……いや、()()()()()()()

「あぁ。曰く、犯人は一人……だが、かなりの戦闘狂なようで、手も足も出なかったそうだ」

「……でも、逃げられたのよね?こうしてここにいるわけだし」

「……いいや、見逃された、と言うのが正しいんだろうね。聞いた話によれば、王都に強い力があるのを感じて、一方的に「連れてこい」と言われたそうだ」

「……ちょっと待て。それじゃあ、俺達を指名したのって…!」

「その通り。彼をこんな状態にした狂戦士だ」



 少し、頭が痛くなった。

 アブゾン……つまり、Bランク冒険者を単独で瀕死に追い込むような相手が、俺達を次の相手に指名してきた。

 そして、わざわざアブゾンを生かしてまで、俺達を呼び出そうとしている理由はただ一つ。



「……なるほどな。つまりそいつは、この国と戦いたい訳じゃない。ただ強いやつと戦いたいだけ、ってことか」

「恐らくは。騎士団には、下手に相手を刺激する方が危険だという旨を伝えてはいるが、どう動いてくるか分からない。二日だけ待つ、とも言っていたようだし、できることなら君たちに行ってもらいたい所なんだが……」

「二日……少なく見積もっても、明日が期限ってところか……」

「……どうするんですの?」

「我らはケインに従うのみ。ケイン、貴様はどうしたい?」



 ギルド長と、仲間達の視線が俺に向けられる。

 正直、これは俺達になんのメリットもない。受ける必要もないだろう。

 だが、そんな理由で断るほど、俺は落ちぶれてなどいない。



「……行こう。戦うことで満足させられるなら、乗ってやろう」

「いいのかい?」

「どのみち、俺達に選択肢はないんだろ?だったら行くしかない。行って、勝てばいいんだから」

「……うん。そう、だね」

「ふふっ、さすがはケイン。それでこそ、我らのリーダーよ」

「……感謝する」

「それで、どの辺りなんだ?」



 俺達はアブゾンとカイルから情報を得ると、すぐさまその場所へと向かうことにした。

 王都からその場所までは、急いで進んだとしても、半日以上かかる。アブゾンが半日で王都に戻ってこれたのは、非常用に持っていた、帰還用の魔導具のおかげらしい。

 とにかく、アブゾンがすぐさま戻ってきたおかげで、今から普通の速度で向かったとしても、期限に間に合うだけの十分な時間を得られた。

 向かう最中に体力を消費しては、戦いになった時、不利が働いてしまう。アブゾンはそれを危惧して、魔導具を使ってまで早く帰ってきてくれたのだ。


 後は、その思いに答えられるかどうか、だ。



 *



「こ、これは……」

「凄まじいわね……」

「な、なんか……こわい、です……」



 日が上った翌日、俺達は目的地へとやって来た。そこに広がっていた光景は、あまりにも異質なものであった。

 そこは広場のように開けており、草や木が、僅かに生えている程度。さらに、その僅かな木や、周りの木々は、無惨にもへし折られていた。

 しかも、かなりの力をぶつけられたのか、爆発したようなものもあれば、余波でへし折られたものもあった。

 中には、血がべっとりとついている木も。



「……っ!来る…!」



 呆気に取られるのもつかの間、メリアがこちらに近づいてくる気配を感じ取った。

 俺達はそちらの方を向くと、すぐさま警戒体勢をとった。その数秒後、それは森の中から現れた。


 赤褐色の肌を持ち、胸元と腰周りには、僅かに布が巻かれている。

 赤一色と言わんばかりに、髪も瞳も赤く染まっており、その額には、深紅に染まる一本の角。

 そして、細身の体格に全く合っていない、長く巨大な金棒らしきものを引きずりながら、こちらに気がつくや否や、ギラギラとした笑みを浮かべる。



「待っていたぞ……貴様らが来るのを!」



 戦場に現れたのは、返り血を浴びたような、赤に染まった鬼だった。

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