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165 ソーサラーの塔 その5

「……ここが、五階層……」

「……なんにも、ない…?」

「……そう、ですね」



 苦戦した四階層を後に、五階層へやって来た俺達を待っていたのは、四方が壁に包まれた、何もない部屋。

 イブが明り(ライト)を照らしても薄暗く、不気味な感じがしていた。

 そして、何か無いか少しだけ前に進んだ瞬間、ガンッという音と共に、背後の階段が消え去った。それと同時に、霧が発生する。



「なっ!閉じ込められた!?」

「……っ!何、これ…!?」

「霧…?」

「……気を付けろ、何かいるぞ!」



 俺が叫ぶと同時に、ガチャリガチャリと音を立てながら、こちらに近づいてくる複数の影。

 それは少しずつ明り(ライト)に照らされ、その正体をあらわにした。



「デュラハン…それに、ガーゴイル……」

「はぁ…面倒なのがわらわらと……」



 デュラハン。そしてガーゴイル。どちらも、Bランクのモンスターである。

 デュラハンは、騎士のような鎧を纏ったモンスターである。首より上は存在しておらず、常に瘴気のようなものが吹き出ている。実体もほとんど無いことから、近接戦闘をする冒険者にとって、最も相性の悪いモンスターである。

 ガーゴイルは、石像のようなモンスター。その体は並の鉱石より硬く、それに加え、魔力をほとんど通さない。こちらはデュラハンとは違い、スキルを使って戦う冒険者が苦手としている。

 デュラハンとガーゴイル。対近接と対遠距離。

 さすが、難易度Bといったところだろうか。最後に、とんでもない地雷を用意してくれていた。



「…さて、デュラハン一体に対して、ガーゴイルが三体。完全に俺らに合わせた配分だな」

「……どうしますの?」

「そんなの、決まっているだろ?」



 俺とユア、アリスでガーゴイルを相手し、ナヴィ達がデュラハンを相手取る。それなら、この相性の悪さでもなんとかなるだろう。

 だが、そんなの―()()()()()()()()()()



「俺とユア、アリスで()()()()()()()()!お前らは()()()()()()()()()

『了解!』



 俺の指示のもと、全員が一斉に動き出す。

 相性が悪い?そんなの()()()()()()()()()

 俺達は旅を続ける限り、どんな状況に立たされるのか分かっていない。メアの洞穴のように分断されることもあれば、今回のように、対俺達に特化した相手が現れるかもしれない。

 ならばやるべきはただ一つ。知恵や経験、実力を以て、あらゆる状況を()()()()()。俺達に示された道は、それしかないのだ。



「〝増幅〟…ふっ!」



 ユアが一瞬でデュラハンとの距離を詰めると、増幅によって威力を増した短剣を振るう。

 しかし、デュラハンの鎧を傷つけただけで、まるで効いていない。そこへ間髪いれず、俺とアリスが同時に仕掛ける。



「「はぁぁぁ!!」」



 制限解除(リミットオフ)による、限界を越えた強烈な一撃が、デュラハンの両肩を襲う。

 実体が無い以上、本体にダメージは無いようなものだが、狙いはそこではない。

 俺達が狙ったのは、先程ユアが鎧につけた傷。その傷に攻撃が当たった瞬間、ピシッという音とともに、肩の鎧が砕け落ちた。

 デュラハンも一撃で壊されるとは思っていなかったのだろう。思わず後ずさっていた。


 デュラハンに実体はない。だが、()は存在している。それは心臓のようなものであり、それがなくなると、デュラハンは体を維持できなくなる。

 しかし、デュラハンの核は鎧によって守られており、おまけに核はあちらこちらに移動してしまう。

 が、唯一攻撃が通る場所がある。それこそが、デュラハンが常に纏っている鎧。

 デュラハンは実体がないとはいえ、人の姿から変わることができない。鎧さえ破壊してしまえば、それは人が真っ裸でいるのと同義なのだ。



「ユア!」

「お任せを…っ!」

「アリス!わかってるな!」

「もちろん!」



 怯んだデュラハンを逃がさぬよう、ユアが連続で切りつける。それはダメージにこそならないが、鎧を傷つけ、脆くしていく。そして再び、俺とアリスの攻撃。今度は脛辺りの鎧を破壊した。

 デュラハンも対抗しようと試みるが、ユアがそれを許さない。そうしている間にも、次々と鎧を壊していく。籠手、脚、腕、脛、二の腕と、時間をかけてでも外側から着実に壊していく。


 鎧を外側から壊しているのは、核の移動範囲を狭め、特定するため。核を守るには鎧が不可欠である以上、鎧がない場所に核を移動させる意味がない。

 ならば、あえて胴周り以外の鎧を壊し、核を動けなくすればいい。



「これで最後っ!」

「壊れろっ!」



 そして、残った胴の鎧を破壊。全ての鎧を破壊され、ついに核が姿を現した。

 その瞬間、デュラハンが逃げの姿勢を取る。

 皮肉にも、デュラハンは核と鎧以外に実体を持たない。そのため、核だけになったデュラハンを捕まえることは不可能となる。

 まぁ、そんなことは関係ないのだが。



「逃がしません」



 そう言って、ユアが丸見えの核に向かって短剣を振るう。核は移動することもできず、そのまま二つに分かれることになった。

 ユアはゴーレムやデュラハンのような、短剣による攻撃が通りにくい相手を倒すことは厳しい。しかし、裏を返せば、短剣さえ通せればどんな相手であろうと問題なく倒せるのである。

 今回のユアの仕事は二つ。一つは敵の動きを押さえながら鎧を壊しやすくすること。もう一つは、丸腰になった核を壊すことである。


 核を失い、デュラハンの実体なき体が霧散していく。それは、俺達の勝利を意味していた。



「お疲れ」

「お疲れ様でした」

「お疲れー」



 ダンジョンの中にいるとは思えない、気の抜けたような言葉を掛け合う俺達。

 そうして集まった俺達の視線は、もう一つの戦いの方へと向けられた。どうやらあちらも、もうすぐ終わりそうだ。



 *



 ケイン達の戦いが終わる少し前、ナヴィ達はガーゴイルをいなしながら、攻撃の機会を伺っていた。

 そもそもの話だが、ガーゴイル程度であれば、イブ、リザイア、イルミスの攻撃だけでも簡単に沈められる。しかし、ナヴィ達はそうしなかった。

 理由は単純。実力バレを抑えるため。

 武器を使って戦うケイン達とは違い、スキルを使って戦うナヴィ達は、目に見えて実力がバレやすい。

 メジュラナの群れを退けた際の攻撃も、全力ではないものの、派手に目立っている。目立つ、ということは、それだけ自分の力を見られるのと同義である。



「イブ!イルミス!次に撃てるのは!?」

「そうですね……あと五分ほどかと」

「五分ね!了解!」



 本来なら使えるスキルをわざわざ渋る二人。と言うのも、四階層を攻略していた時、全員に派手なスキルを使った後、暫くの間、戦闘に参加しないようケインから指示を出されていた。

 それは、本来の力を隠し、緊急時の大技に見せ掛けるための策であった。



「でもまぁ……二人にっ、頼りっきりなのはっ、癪ねっ!」

「癪って、どうするつもりですの!?」

「そんなの決まってるでしょ?一体は私たちで倒すのよ!」

「ナヴィ、それはいくらなんでも無茶な……」

「できるわ。私たちなら」

「っ!」

「二人も良いかしら?一体だけ、任せて貰っても」

「わかりました。お任せします」

「がんばって!」

「ありがと、おっと…!」



 防御をしながら、ひたすら耐えるナヴィ達。そして、再び二人の力を使えるようになった。



「レイラ!」

「りょーかい!」



 レイラが念力(サイコキネシス)でガーゴイルの動きを封じにかかる。ガーゴイルの体は魔力を受け付けない。しかし、一瞬だけでも押さえつけることは可能である。



「〝煉獄(インフェルノ)〟!」「〝竜の息吹(ドラゴニュート)〟!」



 その一瞬を狙い、イブとイルミスのスキルがガーゴイルを襲う。いくら魔力を通さなくても、二人の威力の前では無意味。

 二体のガーゴイルは、呆気なく崩れ去った。

 残されたガーゴイルは一体。そのガーゴイルは、ナヴィが倒すと宣言していた。



「それで、どうするつもりなんですの?」

「メリア、ゴーレムとやった時の戦法、覚えているわよね?」

「え…?あ、防壁(バリア)の圧迫?…でも、多分あれには効かないと思う……」

「いいえ、動きさえ封じてくれればそれでいいわ。動きを封じたら、ウィルの出番。ガーゴイルを水浸しにして欲しい」

「わかりましたわ……でも、それだけじゃ倒せませんわよ?」

「まぁ見ていなさい。リザイア、誘導してもらってもいいかしら?」

「ふっ、いいだろう!我に任せるがよい!」



 リザイアが雷弾を連射し、ガーゴイルを誘導しにかかる。ナヴィ達は、タイミングを伺い、そして仕掛けた。



「今よ!メリア!」

「ん…〝防壁(バリア)〟!」

「ウィル!」

「〝(ウォーター)〟!」



 防壁(バリア)によって逃げ道を失ったガーゴイルに、ウィルの(ウォーター)が浴びせられる。

 そして、ナヴィが手を広げる。すると、どこからともなく砂が集まりはじめ、まるでドリルのような形を形成し、高速で回転する。



「これで終わりよ!〝砂塵弾(サンドバレット)〟!」



 放たれた砂の弾丸が、ガーゴイルを襲う。たとえガーゴイルが、魔力を通さない体を持っているとしても、その体は鉱石のようなもの。

 ならば、細かい砂を高速回転させながらぶつければ、その体は次第に削れていく。

 だが、まだ足りない。



「〝空気弾(エアーバレット)〟!」



 砂の弾丸に風の弾丸が混ざりあい、更なる回転を生み出す。それはガーゴイルの削れた破片を巻き込み、巨大化していき、ついにはガーゴイルの体を貫いた。

 体に巨大な穴が開いたガーゴイル。僅かながら動いていたものの、やがて、事切れたように動かなくなった。



「ふぅ……ほら、倒せたでしょ?」

「ほ、ほんと、ですわね……」

「……ナヴィ、さっきのスキル、いつの間に?」

「……実は、裏でこっそりと使えるように練習していたのよ。未完成だったんだけど……血を飲んだらすぐ完成って、なんか複雑……」

「あ、あはは……でも、おかげで倒せたよ」

「そうですわね」

砂塵弾(サンドバレット)……新たな力、見せてもらったぞ」



 若干落ち込むナヴィだが、そのお陰でガーゴイルを倒せたのは事実。

 メリア達からは、称賛の声がかけられた。


 その後、その様子を見ていたケイン達と合流。

 ケイン達は、目標であった二日で、ソーサラーの塔を攻略したのだった。

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