162 ソーサラーの塔 その2
前回メジュラナと戦った時、俺達はある意味決定力に欠けていた。近接戦闘が出来るのが、俺を除けば、単純な攻撃力に欠けるナヴィとユアしかいなかったというのが何より大きい。
しかしその後、アリスとイルミスが加わった。お陰様で、これまで不足していた決定力が大幅に強化されることになった。
その結果、どうなったのかと言うと…
「まぁ、この程度なら問題ないわね」
「力加減、まだまだですね…」
あのメジュラナを、一分とかかることなく打ち倒していた。
あの時より、俺の力が増していたこともあるし、ランクは一つ下とはいえ、俺とはまた違った火力を見せつけてくれるアリスもいた。
が、一番の貢献者及び問題視しなければいけないのは、間違いなくイルミスである。
竜人族は、確かに多方面に強い種族ではある。しかし、イルミスは竜人族ではなくドラゴン。姿こそ竜人族にしているとはいえ、その力量は並の冒険者であれば瞬殺できてしまう。
だからこそ、イルミスは力加減を覚えようとしているのだが、中々上手くいっていないらしい。
とはいえ、それは戦闘時のみ。普段通り生活するぶんには困ることはない。しかし、裏を返せば、戦闘中はイルミス本来の力に近い火力が出てしまうということでもあった。
話を戻すが、メジュラナは堅い皮膚と柔らかい胴を持つモンスター。しかし、イルミスはその強さ故に、拳一つで足を壊し、竜の息吹の炎で灰に変えてしまったのだ。
一応、俺とアリスも一撃で足を壊していた。しかしそれは、俺達が制限解除を使っていたからであり、それ無しで破壊したイルミスとの力量の差は、火を見るより明らかだった。
「…イルミス、今どのくらいの力加減で戦ったんだ?」
「えぇと…二割、ほどです」
「二割か…なら、その辺りを基準にしよう」
「え…?良いのですか?あまり力を見せつけるのは良くないと…」
「確かにそうなんだが、力を隠しすぎるのもあまり良くないということだ。それに、例の中継の件もある。ここで二割を見せた以上、このまま見せておいた方が都合がいい」
「…そうですね、わかりました」
イルミスの力加減を定めたところで、次の階層へと向かう。
このソーサラーの塔は、どの難易度であろうと五階層で構成されている。つまり、あと四階層、戦い抜かなくてはいけない。
それに加え、俺達が挑戦している難易度は、恐らくこの二階層からが本番だろう。
それを体現するかのように、二階層へと到着した俺達の目の前に、ソイツは現れた。
「グンモォォォォオ!!」
「ゴブリンキング!?」
「ちょっ、早すぎですわ!?」
現れたのは、ゴブリンリーダーの群れと、それを率いるゴブリンキング。
まだ二階層に来たばかりだというのに、更なる強敵が現れたのだ。
が、それで負けるような俺達ではない。
「イブ!」
「うんっ!〝爆炎〟!」
イブが放った火球が、ゴブリンリーダー目掛けて飛んでいく。群れのうちの一体に当たった火球は、その場で大爆発を起こした。爆発に巻き込まれ、ゴブリンリーダーの数は一瞬で半分以下にまで減った。
そんなイブの常識はずれな攻撃を、ゴブリンキングが予想できるハズがない。あり得ないものを見たような目をしたまま、その場に立ち呆けていた。
「〝火炎波斬〟」
俺は、立ち呆ているゴブリンキングを火炎波斬で手早く処理。
そこでようやく身の危険を感じたのか、残党のゴブリンリーダー達が逃走を試みる。しかし、すでにメリアの防壁が道を塞いでおり、逃げることは叶わなかった。
「…なんというか、このパーティーも随分と強くなったわね」
「まぁ、俺からすれば、お前達に助けられているお陰で強くなれてる、って感じだけどな」
「それは私たちからも言えること。ケインが居るからこそ、こうして戦えてる。…ただ、私が出会った時みたいに、こそこそとした行動を取らなくなったなぁ…って、少しだけ思ったのよ」
「……そうだな。でも、あの時があったからこそ、今の俺達がある。そう思わないか?」
「…そうね」
まだ、俺とメリア、ナヴィの三人しか居なかった頃、俺達の戦い方は「メリアで敵を捉え、ナヴィが先制攻撃。初撃で仕留め損なった場合は、俺が対処する」というものだった。
だが、今ではメリアとユアで索敵して、全員で倒しに向かっている。人が増えれば戦い方も変わる。
それは決して悪いことではないが、昔のような戦い方はもうできない。そう言っているのと同じようなものだ。
だからこそ、ナヴィはあの頃の戦い方を思い出したのだろう。
「……さて、いきなりゴブリンキングが出てきたとなると、この先にも居ると見て間違いなさそうだな。全員、常に警戒しておいてくれ」
『了解』
メリア達に注意を促しつつ、先へ進む。この二階層も、一階層と同じく迷宮となっており、先程より複雑に入り組んでいる。
が、地図作成の前ではやはり無意味。
どれだけ複雑になろうと、一度通ってしまえばそれだけで地図として書き記される。そんな状況を、迷路や迷宮というのは想定していない。
やはり情報というものは、この世界を生きるうえで、世界を敵にするうえで、大切になってくる要素なのだろう。
「〝空気弾〟!」
「〝水刃〟!」
「轟け!ヴァルドレイク!」
勿論、情報だけでは世界を旅するなど不可能。その点、俺は仲間に恵まれている。例えそれが、罪の元に集まっているとしても。
地図を埋め、入り組んだ道をひたすら歩き回り、襲ってくるモンスターと戦う。
そうやって、何時間が過ぎたのだろう。
ようやく次の階層へ向かう階段が見えてくる頃には、黄昏時と言っても差し支えない時間になっていた。
「……よし、次の階層のどこかで一度休息を入れよう。このペースが続くなら、目標の二日は達成できそうだからな」
そんな指示を出しつつ、次の階層へと向かう。
そして、階段を登りきった先、俺達の目の前に現れたのは……
「……海?」
その頃のお外
「おい見ろよ!かわいこちゃんがいっぱい居るぞ!」
「マジで!?おっほぉー!全員レベル高いじゃねぇか!」
「おいまて……男が居るぞ!」
「はぁ!?ふざけんじゃねぇ!」
「良いとこ見せようとして盛大に失敗してくたばっちまえ!」
「……あれって、さっきの子達のことよね?後で刺されないかしら…?」
「大丈夫だと思うわ。だって彼、Bランク冒険者なんだし」
「び、B!?凄い子だったんだ……」
「えぇ、そこらで騒いでる連中よりも強いわ。さ、仕事に戻りましょう」
「そ、そうですね」




