160 裸の戦場
温泉回であり、珍しいサービス回であり、作者が書いてて最も苦戦する回
8/16追記:台詞を追加しました
「うわぁ~!」
「これは…すごいですわね……」
圧巻とも呼べる光景に、思わず声を漏らしてしまうイブ達。
今メリア達は、〝黒羽の峡湯〟という温泉施設に来ていた。他にも王都には温泉施設があるのだが、ここは王都の中心部からそこそこ離れている。そのため、客足も他の施設に比べて少ない。
そのかわり、他の施設よりも極めて大きな露天風呂がある。今メリア達が入ろうとしているのも、その露天風呂であった。
「にしても、それよく見つけたわね…」
「うん…その、ありがと…アリス」
「ま、少しでも見せるわけにはいかないし、それくらいは問題ないでしょ」
ケインの考えに加え、メリアの両腕両足にはレース状の布が巻き付けてあった。これは、王都を散策していた時アリスが見つけたもので、防水加工がされている。
色もメリアの肌に近い色を選んでおり、また、この湯気により、よく目を凝らさない限りは、布が巻き付いているとは気づかないだろう。
「……」
「レイラ?どうしましたか?」
「…え?あぁ、うん。私は入れないから気分だけ…と思ったんだけど……」
「……?」
「…ちっくしょう!」
レイラはユアを見た後、ふらふらと地面に降りてくると、床に拳を叩きつけた。
レイラは、メリア達を脱衣場で服を脱いでいた時からずっと見ていた。その視線は、彼女達についている二つの膨らみに向けられていた。
レイラは知っている。自分が成長しきる前に亡くなってしまったことを。それゆえ、もう成長することはないことを。
まぁ、元々ないに等しかった膨らみだが、人数の増えた今、改めて彼女達を見ていた。
だから気がついた。イブを除いて、この中で一番薄いのが、自分だということに――
「あら?レイラさん、どうかしましたか?」
「ふむ…貴様、なにを項垂れている?話してみるがよい」
と、そこにやって来たのはリザイアとイルミス。
二人は心配してくれているのだが、レイラにとっては、今一番来てほしくなかった人物であった。
理由は単純。今レイラの周りにいる彼女達の膨らみが、化け物級だから。
男にとっては天国とも言える光景だが、無に等しいレイラにとっては、地獄絵図にも等しい光景だった。
「あふっ……」
「なっ!?本当にどうしたのだ!?」
「き、気にしなくて、いいから……私、ゴーストだから、ほんと…」
「な、なんか色々と心配ですが…本人が大丈夫と言っていますし、そっとしておくべきなのでは…?」
「かもしれません」
「ほんと…少し一人にさせて…ほんと…」
無意識にレイラの心を折ったリザイア達。
そんな四人より先に、メリア達は温泉に浸かっていた。
「ふぅ……生き返りますわ……」
「はぁぁぁぁ……」
「ポカポカだぁ~」
「みんな…溶け、てる……」
「まぁ、旅の間はのんびりとできないし、仕方がないと思うわ」
完全にだらけきるウィル、イブ、アリスの三人。
ナヴィの言う通り、旅の間は、風呂に入ることすら難しい。ウィルがいるため、体を洗うこと自体は毎日やっているのだが、中々のんびりとすることはできていなかった。
だが、ここは温泉。敵に襲われる心配もない。こうしてだらけきってしまうのも、仕方のないことだろう。
そんな五人の近くに、ユア達がやって来た。そして三人も温泉に浸かると、だらしない声を上げた。
「はふぅ……いいですね…」
「うむ…やはり温泉はいいものだ…我が古傷が癒えていく……」
「……良いものですね」
三人とも、この温泉は気に入ったようだ。ユアは相変わらずの無表情だが。
「ところで…リザイア?眼帯、外さないの?」
「ふっ…我が右目は、決して解いてはならぬ封印が施されているのだ。たとえこのような場所であろうとも、我はこの封印を解くつもりはない…!」
「あっ、えっと…そ、そう…なのね…あはは…」
リザイアが温泉に来てもなお、眼帯をしていることに疑問を抱くナヴィ。しかし、当人は外す気が全く無いらしく、いつものように語るだけで終わってしまった。
と、そこに、レイラがふよふよとやって来て、そのまま湯の中に落ちてきた。ゴーストであるため実体はないハズなのだが、ちゃんと浸かっているように見えてしまう。
「…それにしても、本当に色々あるわね」
「色々…?」
「そ、色々よ。私は、貴方とケインに興味を持ったからついてきたけど…まさか、こんなに旅仲間が増えるだなんて思ってなかったわ」
「…そうだね。こんな、危険な、旅なのに」
「メリアよ、そんな顔をするでない。我らは全て理解した上でここにいる」
「そうですよ。それに、ここにいるみなさんは、同じ気持ちで仲間になったハズです」
「主様が私達を繋げた。それは、紛れもない事実です」
「そうだねー…ケインがいなかったら、私だってこんなに楽しんでないかもね」
彼女達は、良くも悪くもケインに救われている。例えどんな内容だとしても、それは変わらぬ事実である。
だからこそ、彼女達は自分の意思で、ケインについていくと決めたのだから。
「…ケインって、かなり変わった存在よね」
「そうだな…人一倍悪意に敏感であるのに、その実仲間の罪を自らも背負おうとする。自分の力で助けられるなら救いたいと願うのに、優先するのはケイン自身ではなく我ら。矛盾している点も多々ある」
「…その矛盾は、主様の過去が産み出したものでしょう。家族に裏切られ、捨てられ、それでも生きようと必死だった。だからこそ、そんな矛盾した人柄になってしまったのだと思います」
ユアの意見は、的を得ているものだ。
ケインの矛盾している思考は、三年前の事件によって生まれたもの。
元々ケインがもっていた善意が、強い悪意に晒されたことで、「どんな罪であろうと、仲間であれば自分も背負う」という歪んだ善意が生まれた。
家族に裏切られた悲しみが、「信じられる仲間を誰一人として失いたくない」という、一種の依存心を産み出した。
ケインの思考は、確かに間違っている点もある。しかし、人は誰しも裏と表が存在している。そういった意味では、ケインはとてもまともな思考の持ち主でもあるのだ。
そんな中、唯一ケインの過去を知らないイルミスが、ユアの発言に少し顔を歪めた。
「家族に捨てられた…?ケインさんに、そんな過去があったのですか…?」
「ぬ…?あぁ、そういえば貴様はまだ知らぬことであったな」
「まぁ、今ここで話すことではないし…後でケインに直接聞けばいいと思うわ。部屋も一緒なのだし」
「そうですね…そうさせて頂きます」
イルミスも、その場で深く追求しようとは思わなかった。まだ出会って間もないケインの過去を、他人の口から聞くべきではないと思ったからだ。
「さて、暗い話はここまでにしましょ。せっかくの温泉なんだし、ね?」
「そうですね。せっかくの温泉ですし」
「……ところで」
「む?どうしたメリアよ」
「…どうしたら、そんなに大きくなるの?」
「あぁ、それは気になっていたわね。どうして?」
「えっと……なんのことでしょうか…?」
二人の視線が、湯に浮くそれに向けられる。二人とも、決してない訳ではないが、やはり気になっているのだ。
ただ、イルミスはわかっていないようだ。リザイアは、なにを指しているか、すぐに気がついたようだが。
「我の場合は種族故、としか言えぬ。イルミスは天然ものだが」
「ええと……もしかして……」
ここまで来て、ようやくなにが言いたいのかを察したイルミス。少し嫌な予感を感じ、僅かに後ずさる。
「ねぇ、イルミス。ちょーっと触らせてくれないかしら?」
「い、嫌です…!」
「大丈夫よ、少し揉むだけだから」
「ですから!やめてくだっ、ひゃぅ!?」
「……なにこれ、すっごい柔らかいんだけど…」
「ゃ、その、やめっ…!」
「ふむふむ…感度は中々…こっちの方は…」
「やめてくださいっ!」
「ちょおっ!?」
羞恥心に刈られたイルミスが、思わず竜の息吹を使ってしまう。勿論威力は抑えられていたが、ナヴィは寸での所で回避した。
「何事だ!?」
と、そこに、メリア達のものではない声が響く。メリア達が声のした方を見ると、そこには一人の女性がこちらに向かってきていた。
「どうした!なにがあった!」
「あぁいや…ちょっと悪ふざけしたら、怒られて…」
「…思わずスキルを使ってしまいました…ご迷惑をおかけして、申し訳ありません…」
「む…そうか、悪ふざけも程々にしておくがよい。今こそ人は居らぬが、ここは民間施設。危険な行為は許されざることである」
「はい…」
「まぁ、今回は見逃しておこう。あまりやり過ぎると、王国騎士団に目をつけられる可能性がある。肝に命じておけ」
「わ、わかったわ…」
二人が反省しているのを見ると、その女性はそのまま脱衣場の方へと歩いていった。
その様子を、メリア達はじっと見ていた。
「…なんか、怖い人だった…のかな?」
「よく分からないけれど…大事にはしないでくれるみたいね…」
「騎士団もいるみたいですし…あまり迂闊な行動はしない方が良さそうですね」
その後、メリア達は大人しく温泉を楽しんだ。
イブがのぼせたり、レイラが時々恨むような目で見ていたりしたが、十分に旅の疲れを癒すことができたのだった。
その頃のケイン
「畜生なにしやがる!離せ!」
「覗きをしようとしてる奴を止めてるんだが?あと、離すわけないだろ」
「男なら、覗きたいと思わないのか!」
「思わないし、今仲間が入ってるしで絶対に覗かせん」
「ちくしょー!」
――――
おまけ
何がとは言わないヒロインヒエラルキー
リザイア>>イルミス>>ユア≧ウィル>ナヴィ>メリア=アリス>レイラ≧イブ
イブはまだ成長期なので望みあり
対するレイラは……




