16 違和感の正体
「怯え…?」
「な、何を言うんだい嬢ちゃん。そんな、怯えてるだなんて…」
「ううん、貴、方だ、け、じゃ、ない。この町、から、時々、怖が、られ、てる、視、線を、感じ、たもの」
「………」
「そ、れも、別に、私、達に、じゃ、なくて、こ、の町に、来て、る、人全、員に、向け、られ、て、るよう、な、視線、だった、のも、気に、なる。…どう、して?」
俺も気づいてはいたが、メリアは時々向けられていた視線の違和感が気になって仕方がなかったようだ。
それに、恐らくこの人の視線や仕草を見て確信したのだろう。向けられてる視線には、外の人に対する恐怖が込められている、と。
そんなことを諭されたのか、出店のおっちゃんはこわばった声で話しかけてきた。
「…嬢ちゃん。それにあんちゃん。悪いが、オレについてきてくれ」
「…どうしてですか?」
「後で説明する。いいから来てくれ」
「…わかっ、た」
「いいのか?」
「大、丈夫、あの人、罠、には、める、とかは、考え、てない、から」
「そうか…なら、行くか」
俺達はおっちゃんについていくことにした。
大通りをさけ、連れてこられた先は、この町のなかでは一際豪華な建物だった。
おっちゃんが門番のような人の前に立つと、慌てたように門が開かれた。
それほど、すごい人なのだろうか?そう思っていながらおっちゃんに連れてこられた先は、応接室のような場所であった。
「…さて、君達はそこにかけたまえ」
「…!?」
おっちゃんが先にソファに座った瞬間、先ほどまでのフレンドリーな声から、一気に威厳のある声に変化した。
言われるがまま俺達は向かいのソファに座った。
「おっちゃん…いや、貴方はいったい?」
「…オレはこのツィーブルの市長、ドガルという」
「市長だって!?」
「…?」
俺は思わず声を上げた。
まさか、たまたま立ち寄った店の店主が市長だとは思わないだろう。
…あと、この町はツィーブルと言うのか。
「失礼しました。俺はケイン。こちらはメリアと申します。…つかぬことを聞きますが、どうして市長自らが出店をやっているのです?」
「たしかにオレはこの町の市長だが、特別忙しいって訳ではない。だから月に数日、あそこに出店を出して、親睦を深めているのだ。それに、オレ自身が商売好きだからな」
「なるほど…ありがとうございます。」
「なら、話を戻そう。…メリア君、だっけ?」
「…?」
この部屋の内装がよほど物珍しかったのか、部屋をキョロキョロと見ていたメリアが突然呼ばれてビクッとした。
「君はこの町の人々が、君達のような外から来た者に怯えていると言ったね」
「…うん。なんか、目、線が、怯え、てた」
「…正解だ。この町の人は今、外から来たヤツに怯えているんだ。」
「ヤツ?それはいったい?」
「ヴァンパイアだよ」
ヴァンパイア。それは亜人である吸血鬼達のモンスターとしての名称である。
彼らは他の生物の血を主食とする特徴がある。
そのため、商人が襲われた。という報告がギルドにもたびたび来ていた。
そんなことがあってか、亜人でありながらモンスターとしても扱われている種族。それが吸血鬼である。
「あそこに大きな城があるだろう?あれは遥か昔、とある王の一族が住んでいた場所だったのだ。今はこの町の遺産のような扱いで、町に住む者達と共に管理していたのだ。
だが、ある日突然、あそこに一人のヴァンパイアが住み着いてな。清掃に向かった町の者が襲われたとの報告が来ているのだ。オレ自身も調査に向かい、襲われたからな」
「…じゃあ、あの、人たち、が、恐れ、てるの、って」
「外から来た奴らに、襲われるんじゃないか…という思い込みがあるからだ。そんなこと、そうそう無いと分かっているはずなのにな…」
俺達があの丘で見た城。あそこに住み着いた吸血鬼に襲われたことが恐怖心となって、町全体に広がっている。
それが、メリアが感じた違和感の正体。
「こんな事情を抱いているとは知らず、毎日のようにこの町には人が来る。だから皆、内心恐怖しながらもなかば無理矢理笑顔を作って接客している」
「そこの違和感に、メリアが気づいてしまった、と」
「あぁ。だから、君達にはどうかこの事は内密にしてほしい。頼む」
ドガルさんは頭を下げた。
それだけ、この町の事を考えているのだろう。
俺達は頷く事しかできず、その日は少し豪華な宿に泊まる事になった。
「ねぇ、ケイン」
「…何?」
「ヴァンパイア…だっけ?どうするの?」
「どうする、ってもなぁ…」
実際なにかできるのかと言われると、あまり思い浮かばない。
この町の事はなにも知らなかったのに、たった一日でこの町の抱える問題を知ってしまった。
さて、どうするか…
「そのことなんだけど、ひとついい?」
「あぁ、言ってみてくれ」
「私、その人と会ってみたい」
「!?あの城に向かうのか!?」
「うん。会って、話を聞きたい」
メリアからそんな発言が来るとは思わなかった。
だが、メリアの案にも一理ある。
吸血鬼の問題を解決すれば、この町の人々の不安を取り除き、再び心から笑顔で接することができるようになる手助けができるかもしれない。
「…よし。じゃあ、いこう。会って話をする。それで解決策が浮かぶかもしれない」
「…いいの?」
「あぁ、じっとしてても解決しない。なら、動かないとなにも始まらないから、な」
「いつでるの?」
「もちろん今からだ。ほら、準備をして」
「わかった」
会って話をする。そう決めた俺達は、すばやく城へ向かう準備をした。




