156 偶然の縁
22話で地図の初期表示範囲を半径三キロにしていましたが、直径一キロに変更しました。
今後も多用するスキルである以上、初期値が高すぎると判断したための変更ですので、ご理解の方をよろしくお願いします。
「…うん、これでいいかな」
戦線から離脱した俺達は、真っ直ぐメリア達の待つ岩場にやってきた。症状がまた悪化していないことを確認した後、ナーゼはすぐさま薬の作成に取りかかった。
そして、待つこと五分、ついに解毒薬が完成したのだ。
「はい、これで大丈夫だよ」
「ありがとう」
ナーゼから試験管を受け取り、イブ達に飲ませていく。すると、すぐに顔色が良くなっていき、呼吸も落ち着いてきた。
そうして、様子を見ながらさらに十分後。ようやく、イブが目を覚ました。
「う…うぅん……」
「イブ!大丈夫か?」
「け、ケインさま…?」
「はぁぁぁ……」
安堵から、少し大きなため息をついてしまった。よく見れば、ウィル達も目を覚ましたようで、状況が分からずキョロキョロとしていた。
「えっと……ケインさま、イブはいったい……それに、このひとは…?」
「それはちゃんと説明する。…ただ今は、お前達が無事で良かった」
「あ……うん、しんぱいかけて、ごめんなさい…」
素直に謝るイブの頭を撫で、イブ達に、今の状況を説明した。三人とも、少し複雑そうな顔をしていたが、あまり気にすることでも無いだろう。
「なんだ、その………ごめんなさい」
「私もです……油断していましたわ……」
「そう落ち込むな。確かに油断していたことは悪いかも知れない。だが、元はと言えば、あそこに入り込んでしまった俺の責任でもある。だから、気に病む必要はない」
正直なところ、責任を分散させるより、全部自分のせいにしてしまった方が楽なのだが、それは仲間達が望むことではない。
仲間だからこそ、全員で責任を負う。それが俺達なのだから。
「それで、ナーゼだったか?我らの毒を消してくれたこと、感謝するぞ」
「ううん、こっちも助けて貰ったし、お互いさまだよ」
「謙虚ですわね…って、それは私たちもですわね」
最初は三人とも警戒していたので、どうなることかと思っていたが、どうやら問題なく打ち解けたようだ。
ただ、メリアだけは少しナーゼを避けていた。
まぁ、理由は分かっている。解析の存在だ。
解析は人の情報を盗み見るスキル。つまりメリアに使われれば、メドゥーサであることが一発でバレてしまう。
人柄自体は問題ないようだが、そのスキルがあるせいで、少し仲良くしづらいのかもしれない。
そんなメリアを見てか、ナーゼは少しだけ困ったように首を傾げた。
「…なんかボク、その子に嫌われるようなことしたかな…?」
「あ…えっ、と…」
「ナーゼは解析を持っているだろ?そういうことだ」
「あぁ、勝手に見られるのが嫌ってことだね。心配しなくても、ボクはそういうことはしないよ。ボクが見るのは、あくまでも名前と症状。それ以外は、見ても必要ないからね」
「他の項目は見ないって、そんなことできるのか?」
「もちろんできるよ。解析って、必要な情報だけを見るスキルだからね。ボクが必要だって思わない限りは見えないよ」
他に解析を使っている人物を知らないのでわからないが、少なくともナーゼは個人情報に興味がないようだ。
そういった点も、薬師としてしっかりしているように感じた。
「…ふふっ、君たちって面白いね」
「なにがだ?」
「吸血鬼、魔族、エルフ…こんなにバラバラの種族が、仲良くしているんだよ?それって、スゴいことだと思わないかな?」
「……そうかもな」
「きっとさ、君たちにはこれからも、いろんな出会いがあるんだろうなぁ…って思ったら、なんか面白くてね」
「面白がるなよ…」
「ごめんごめん。まぁ、なにが言いたいかって言うとね…今日この場所で、ボクたちが出会えたのは、偶然じゃないのかもしれないってことだよ」
「…まぁ、少なくとも縁はあったけどな」
「そうだね、ボクも縁があったからこそ、君たちと出会えたんだと思うな」
俺とナーゼは、お互いに少しだけ笑いあった。
ナーゼがティンゼルに依頼を出し、俺達がその依頼を選んだからこそ、俺達はナーゼと出会うことができた。
そうでなければ、きっとこの出会いはなかっただろう。
そんなことを、お互いに思っていた。
*
「それじゃ、ボクはこれで失礼するよ」
「引き留めて悪かったな」
「大丈夫だよ。ボクも楽しかったからさ」
あれから数分後、イブ達が完全に復帰した。
それに合わせるように、ナーゼとも別れることになった。
「それにしても…いいのか?薬代を貰わなくて」
「いいのいいの。せっかく助けて貰ったんだ。これくらいはしないとね」
「ありがとうございました、ナーゼさま!」
「うん!やっぱり、笑顔が一番だね」
イブが笑顔でお礼を言うと、ナーゼも釣られてはにかんだ。
こういった言葉を使える少女なら、きっといい薬師になれるだろう。
「そうだ、ケイン君たちって、町に向かってるんだよね?特に宛もなく」
「うぐっ…確かにそうだが…それが?」
「ここから南にいった先に「エルトリート王国」っていう都市があるんだ。この大陸における主要国家…つまり、王都ってことになってる。少しだけ面白いことはしているけど」
「面白いこと?」
「それは、行ってみてのお楽しみってことで」
そう言って、悪戯に笑うナーゼ。
少しだけ別れが惜しいと感じてしまったが、そうは言っていられない。ナーゼは、友人のために走っている。それを止めることは絶対にできない。
それに、王都にも興味があった。この大陸における、最大の権限を持つ都市。危険もあるが、行ってみる価値はあるだろう。
「それじゃ、今度こそお別れだね」
「あぁ、色々と世話になった」
「こちらこそ!それじゃ、またね!」
「あぁ、またな」
軽く手を降りながら、ナーゼは森の中へと消えていく。俺達は、それを見送っていた。
―それじゃ、またね!
少し前も、そんなふうに約束したことがあった。きっと今度も、どこかの町で会えるだろう。
そんな気がしていた。
「さて、俺達も行くか」
「…うん」「えぇ」「行きましょう」
俺達も、ナーゼが示してくれた都市へと向かって歩き出す。
向かうは、エルトリート王国。きっとまた、いい出会いがあると信じ、俺達は前へと進んでいく。
その時の俺達は、まだ知らない。
エルトリート王国で、沢山の厄介事に巻き込まれ、その中で、沢山の出会いがあることを。
これにて十五章「新たな出会い」編完結です。
次回十六章も、よろしくお願いします。




