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155 役目の大切さ

 崖に引っ掛かったナーゼを助けてから、一時間が経過したころ、ようやく俺達は目的地にたどり着いた。だが…



「どうしよう、これ……」

「どうしよう、つってもなぁ…」

「普通に両方倒せばいいんじゃないの?」

「そうですね…あの程度なら、わたしたちでも大丈夫だと思いますが…」

「……まぁ、倒すだけならそうなんだが、被害を抑えられるのか?」

「難しい、ですかね……」



 俺達の目の前では、リザードマンの群れとオーガが睨み合っていた。それぞれ、リザードマンはDランク、オーガはCランクのモンスターだ。

 単独の強さで言えば、ランクの通りオーガの方が強い。しかし、リザードマンは数十匹という群れで行動するため、単独で動くよりも強くなる。

 そして、一番重要なのは、どちらもかなり気性が荒いということ。

 そのため、彼らが暴れた時に出る被害は尋常ではない。


 話を戻すが、ナーゼ曰く、この場所に目的の薬草があることはわかっている。幸いにも、まだ大丈夫なようだが、いつ戦闘が始まり、踏み潰されるかわかったもんじゃない。

 踏み潰される前に、なんとか手に入れなくてはいけないのだ。



「どうしますか?あまり時間はありませんが…」

「……ナーゼ、お前は植物を伝って移動できるんだよな?」

「う、うん。でも、体の一部だけを出し入れできる訳じゃないよ?」

「なら、採集する時間さえ作れれば問題ない。アリス、イルミス。行けるな?」

「「勿論 (よ)(です)」」

「ナーゼ、隙は俺達で作る。頼んだぞ?」

「わ、わかった」



 三人が、強く頷く。

 作戦はこうだ。まず、俺とアリス、イルミスでリザードマン達の注意を引く。その隙に、ナーゼが植物を伝って薬草の元まで向い、薬草を採集。採集し終えたら、後は牽制しつつ退散。

 退散を選んだのは、あまり時間をかけたくなかったから。リザードマンもオーガも、俺達だけでもなんとかなる。が、ナヴィ達がいない今、わざわざ相手をして、時間を食う訳にもいかない。

 無駄に体力を使うよりは、退散して早く薬を作って貰う方がいい。



「準備はいいな?行くぞっ!」



 俺の合図の元、俺とアリス、イルミスは茂みから飛び出し、ナーゼは植物に身を隠す。

 突然出てきた俺達に驚き、思惑通りに注意がこちらに向けられた。



「イルミス!」

「任せてください!〝威圧〟」



 俺が指示を飛ばすと同時、イルミスから強烈なプレッシャーが解き放たれる。

 〝威圧〟のスキルは、特定の範囲内にいる敵に、強烈な圧力(プレッシャー)をかけるスキル。

 一見、攻撃的ではないように思えるが、一瞬だけこのスキルを使ったり、最初から使って一瞬だけ解除するなど、相手の思考力を確実に狂わせることができる。

 先程も言ったが、戦闘における一瞬の隙というのは、致命傷になりかねない。威圧は、緊張感という形で、相手の隙を産み出すことができるのだ。



「アリス!」

「いくわっ!」



 威圧に当てられ、動きを止めたリザードマンとオーガに、俺とアリスが突撃。お互いに一撃ずつ与え、すぐに後退。

 そうすることで、完全に俺達に視線を向けさせることに成功した。

 そう、今リザードマン達が向けている視線とは真逆の位置。そこに、スッとナーゼが現れた。だが、ナーゼが現れたのは、リザードマン達のすぐ足元。早くしなければ、見つかってしまうような近さだ。

 ナーゼは馴れた手つきで薬草を手に取ると、素早く薬草を魔法鞄に入れていく。

 どうやらそこそこ数が必要なようで、少し手間取ってしまったらしい。

 リザードマンの一匹が、ナーゼを見つけてしまったのだ。



「っ!ナーゼ!」



 思わず俺は叫んでしまう。幸い、そのリザードマン以外は、ナーゼに気がついていない。

 だが、俺が叫んだことで、ナーゼは自身を睨んでいるリザードマンに気がついた。

 咄嗟に、俺とアリスがそのリザードマンに攻撃しようとするが、それより早く、ナーゼが動いた。

 手にした薬草を魔法鞄に突っ込むと、かわりに木でできた試験管を取り出した。一度見たことのあるそれは、瞬く間に弓へと変化し、そして、ナーゼは弓を引く。



「〝麻痺(パラライズ)〟」



 いつの間にか装填していた矢に、ナーゼが麻痺(パラライズ)を付与し、迷わず放つ。

 放たれた矢は、一寸の狂いもなく、ナーゼを襲おうとしていたリザードマンに命中。倒すまでには至らなくとも、そのリザードマンを行動不能にすることができた。



「やっ「早く引けっ!」……え?」



 しかし、その代償は大きかった。

 いくらこちらに注意を引いていたとはいえ、ほぼ足元で呟かれては、流石のリザードマンとオーガも気がつく。

 イルミスの威圧に気圧されながらも、その目はナーゼの方に向けられてしまった。

 ならば、やることは一つ。



「アリス!イルミス!」

「わかってる!」「こちらはお任せを!」



 俺はオーガへ、アリスとイルミスはリザードマンへ攻撃を仕掛ける。

 未だにリザードマン達を蝕むプレッシャー。その根源が近づいてきたことで、再び彼らの視線はこちらに向けられた。が、時すでに遅し。

 威圧の影響下にない俺達の攻撃を、オーガ達が凌げるハズもなく、オーガは片腕を失い、リザードマン達も、酷い重傷を負うことになった。



「ごめん!もう大丈夫!」

「わかった!引くぞっ!」



 なんとか必要量を集めたらしいナーゼ。その言葉に弾かれるように、俺達は一気に後退した。

 リザードマン達も、俺達を追おうとするが、やはり威圧によって足がすくみ、追うことはできない。

 そして、俺達は無事に薬草を入手し、戦線を離脱することができた。

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