153 捜索開始
「それじゃあ、ここからは分かれて行動しよう。片方はここで三人の手当てと襲ってくる敵からの防衛。もう片方はナーゼと共に薬草捜索だ」
「…ってことは、私とメリアはここに残る側だね」
「そうなるな。あと、地図がある俺は捜索側になるな。後はナヴィ、ユア、アリス、イルミスだが…」
「それなら、私はここに残るわ。この子たちが倒れてる以上、先に攻撃できる方が安全でしょう?」
「では、わたしは捜索の方でお願いします。もう少し、戦っていたいので」
ナヴィがこの場に残る側を、イルミスが捜索側を志願する。確かに、今遠方から攻撃できるのはナヴィしかいない。
アリスとイルミスもできなくはないが、前者は普通に近距離が得意分野であり、後者はまだ竜人族の体での戦いに慣れていない。
イルミスが捜索側を志願したのも、少しでもその体での戦いに慣れる為だろう。
「分かった。ナヴィとイルミスはそれで行こう。二人はどうする?」
「…なら、わたしがケインについていく。ユア、それでいい?」
「構いません。主様、私はここで、ナヴィ様と共に皆様をお守りしますので、薬草の方をよろしくお願いします」
「分かった。それじゃあ早速出発しよう。ナーゼ、どの辺りに目当ての薬草があ……」
「ちょっと待ってね…うん…うん…そっか、ありがとね。ここから東に行った辺りで見かけたって」
「…うん、なんで花に話しかけたんだ?」
「花って、子孫を残す為に種を飛ばすんだよ。だから、もしかしたらここに根付くまでに見かけてるかもしれない、と思ったんだ」
どうやら、薬草のありかを探していたらしい。それに加え、今のやり取りのおかげで、少しだけナーゼのことを理解した。
結晶蝶を取りに来るのが早かった理由とは別に、もう一つ分からなかったのが、どうしてあの町に結晶蝶がいるのを知っていたのか、である。
結晶蝶は、カーベルレンゲがなければ生きられない。しかし、カーベルレンゲはどこにでも咲いている訳ではない。
ただ、植物の声を聞くことができるナーゼなら、今のように情報を集め、生息場所を特定できる。
恐らく、色々な場所を転々としているのも、目当ての材料をほぼ確実に入手するためだろう。
「とにかく、東だな?急ぐぞ」
「えぇ」「はい」「うんっ」
「頼んだわー!」
ナヴィ達に見送られ、俺達は東の方へと向かっていく。
とは言え、この広大な森が相手では、基本的にナーゼを頼ることになる。ナーゼ自身も、この森を把握している訳ではないが、それでも、ドリアードであるという点は大きい。
「……っと、敵だ」
「あの、わたしがやってもいいですか?」
「えぇ、お願い」
「では、遠慮なく」
イルミスがほんわかした笑顔を向け、そして、すぐに敵の方を向く。
現れたのは、オーク五体。正直、イルミスの敵ではないのだが、イルミスにとっては、戦うことに意味がある。
イルミスは、ドラゴンという生まれのせいで、強い闘争心を宿して生まれた。そのせいで、穏やかに過ごしたいという心とは裏腹に、戦わなければ自我を保てない、という矛盾を抱いている。
これまでは、優しい人であろうとして、戦うことを避けてきたイルミスだが、今はその枷から外れ、戦うことで、誰かを守ろうとしている。
正直、前までのイルミスより、生き生きとしている感じがする辺り、こちらが本来のイルミスなのだろう。
イルミスが拳を握ると、それに呼応するように、肘から先が変化していく。白い鱗を纏った、龍の腕に。
部分龍化。初めて見た訳ではないが、やはり少しだけカッコいいと思ってしまう。何故かは分からないが、すごく惹かれる。
ちなみに、イルミスの服装は、村にいたときと同じ白のドレス。ただ、新たに袖の方にもスリットが入っている。恐らく、この部分龍化のためにいれたのだろう。
「さて、行きますよ?」
イルミスが、呟いたと同時に強く踏み込み、一気にオークの元へと跳躍する。オークも、突然の襲撃に混乱していた。
だが、イルミスは情を見せない。着地点にいたオークを爪の一裂きで倒すと、今度は左手に魔力を溜め込む。
「〝竜の息吹〟」
その言葉と共に、赤い熱線が放たれ、オークを二体、纏めて貫く。そして、残ったオークも、それぞれ一裂きで絶命させた。
「ふぅ……こんな感じでしょうか……」
イルミスが、なんだかやりきったような感じを出していた。
その一部始終を見ていた俺達はというと……
「うわぁ……ボク、竜人族の戦いって初めて見たんだけど、こんなにスゴいんだ…!」
「……ねぇケイン。どう思う?」
「……多分、俺達じゃ束になっても敵わないんじゃないか?」
「……わたしも、そう思う」
忘れていた訳ではないが、イルミスの正体は竜人族ではなく、Sランクモンスターのドラゴン。そのことを、改めて痛感させられる俺達であった。
「…えっと、仲間…なんだよね?」
唯一、事情を知らないナーゼを除いて。




