閑話 運命、来る
「なんということだ……!」
ヘンゲート国の王、ゾーハは、頭を思わずかきむしっていた。
ことの発端は、一通の手紙。それは、各国のトップだけに届けられた密書。
その内容は、あのデュートライゼル崩壊に関する新たな情報だった。
*
デュートライゼル跡地にて、欠けた鱗を発見。
詳しく調べたところ、その鱗の持ち主はメドゥーサであると判明。
市民の混乱を避けるため、この情報は決して外に漏らしてはならない。
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手紙の内容を簡潔にすると、このような内容になった。
「メドゥーサだと…!?デュートライゼルめ、とんでもないものを世に放ってくれたな…!」
メドゥーサ。それは、存在自体が災害そのもの。その凶悪性は計り知れず、一度逆鱗に触れれば、死は免れない。
そんな存在が、すでにこの世に現れている。そう知らされたのだ。
「陛下、いかがなさいましょう…メドゥーサが相手となると、我々では…いえ、各国が総力を上げても勝てるかどうか…」
「分かっておる!分かっておるのだ!」
机を叩き、王は怒鳴る。
唯一側にいた執事も、王の様子に困惑していた。
「なにか…なにか策は…!」
悩み、苦しみ、数刻の葛藤の末、ついに王は思い至る。
デュートライゼルという町は、誰によって作られたものなのかを。
「…おい、例の研究はどうなっている?」
「あの研究ですか…?少なくとも、実用的なものではない、ということは分かっておりますが…」
「そういうことではない。今すぐ発動させられるのかを聞いておるのだ」
「陛下、まさか…!」
「どうなんだ?」
「はっ…一応、使用することは可能です。しかし、一度きりが限度かと。使ってしまえば、二度と使用できません」
「そうか、なら今すぐ準備せよ!」
「はっ!」
執事は部屋を後にすると、すぐに城で働く者たちに指示を飛ばしていく。
王もゆっくりと目的の場所―王の間へと向かう。
*
「陛下、準備が整いました」
「うむ、ご苦労であった。それで、これはどうすれば起動するのだ?」
「我々の魔力を媒体にして、この魔方陣を起動させます。…ただ、我々の魔力だけでは少々起動させるには足りないようで…」
「構わぬ。ワシも手を貸す」
「陛下!?よろしいのですか!?」
「世界の為だ。ワシも手を貸さんでどうするというのだ」
王も加わり、総勢二十名が魔方陣を取り囲む。
そして、一斉に魔方陣に魔力を流し込むと同時、一気に魔力を吸われる感覚に捕らわれる。
何人かが魔力切れで倒れる中、王は最後まで立っていた。
そしてついに、その時がやって来た。
「ぬおっ!?」
「こ、これは…!」
魔方陣が、これまでないほどの輝きを放つ。
殆どの魔力を持っていかれ、立っているのもやっとな王だが、待ち望んでいたその時を前に、興奮を抑えきれなくなっていた。
魔方陣の輝きが強くなる。やがてその光は、魔方陣の中心へと集り、一本の光の柱となる。
その柱が消えた時、そこには一人の姿があった。
「っ…!ここは…!?」
「お、おおっ…成功だ…!」
「っ、誰だ!」
「ワシは、このヘンゲート国の王ゾーハ。今この世界に危機が迫っておる。どうか力を貸してくれぬか?異界の勇者よ」
「俺が、勇者だと…?」
突然のことに困惑する少年だったが、勇者と呼ばれたことに、思わず顔をにやけさせる。
「俺が…勇者…!」
「返事を聞かせてくれるか?」
「ふっ…ふははっ…!いいぜ、力を貸してやる!俺は勇者…物語の主人公なんだからな!」
こうしてこの世界に、新たな勇者―滝沢健也が召喚された。それは同時に、絶望がもたらされた瞬間でもあった。
次回から、再び本編に戻ります。




