146 立ち上がる人々
「来たわね…」
ナヴィ達の目の前に、ゾロゾロとモンスターが現れる。
ケイン達が食い止めているとはいえ、その数は異常。対処しきれず、こちらに流れてくるモンスターもいる。
その対処を、ナヴィ達は任されていた。
「行くわよ!〝空気弾〟!」
ナヴィが風の弾丸を撃ち込む。それは一寸の狂いもなくゴブリンの頭を撃ち抜いた。
そして、ナヴィに続くように、ウィル達も攻撃を開始。水の刃が切り刻み、獄炎が焼き付くし、電が貫く。変な動きを見せるモンスターは、レイラが動きを封じ、仲間が討つ。
メリアは五感を活用して敵の位置を把握。回復と防壁でサポートしつつ、モンスターが攻め混んでくる範囲をできるだけ狭くしていた。
そもそも、メリアの安息があれば、村には一切手を出させることなく動くことができる。しかし、今安息はイルミスに使ってしまっている。
だからこそ、広範囲から攻められると、ただでさえ少ない人数で相手しているのに、守りきれなくなる。
ケインがメリアに託した指示には、そういう意図が組み込まれていた。
「ふむ…少し時間を使う!誰か援護を!」
「まかせて!〝爆炎〟!」
イブが放った炎が、モンスターに直撃して爆発する。それだけで、軽く二十体は消し飛んだ。
「ほぅ、アレを完成させたのか!」
「はい!アリスさまがおしえてくれたの!」
「アリスが…?なるほど、あの時か」
アリスが心を開いたのは、イブのお陰であることを再度認識したリザイアは、ニヤリと笑う。
元々アリスを、こちら側に引き込もうと言い出したのはイブであった。だがリザイアは、アリスが心を開かぬ限り、それは無理だろうと思っていた。
しかし、あの一件でアリスは心を開いた。誰でもない、イブによって。
「まったく…神の使いか?貴様は」
「そんなことない、っよ!」
再び爆発。さすがのモンスターも、これ以上食らうのを避けたかったのか、一瞬だけ動きを止めた。
しかし、一瞬の隙を狙い射つのが、リザイアという少女だ。
「充填35」
リザイアの呟きと共に、二丁のヴァルドレイクから電が走る。そして、空にその二丁を向ける。
「降り注げ」
先に打ち出したのは、右手側。まるで大砲のような雷撃の球体が、モンスターの頭上へと放たれる。
「雷神の豪雨!」
そして、構えたもう一つのヴァルドレイクから、圧縮された電が、球体目掛けて飛んでいく。
そして貫き降り注ぐ。それはまるで、神が放つ断罪の雨。
「雷神拡散弾!」
リザイアの叫びと共に、散り散りになっていたモンスターに、雷の雨が突き刺さる。
一発たりとも外すことなく、全て命中。雷に当てられたモンスターが、次々と倒れていく。だが…
「……まぁ、これで終わるわけがないか」
屍を踏みつけながら、ぞろぞろとモンスターが現れる。モンスターに自我などないに等しい。しかしそれは、生きる人々からすれば気味の悪い光景だ。
「いいだろう、相手にな―「っらぁ!」――!?」
ヴァルドレイクを構えようとしたリザイア。しかし突然、奇声を発する何かがリザイアの真横を通りすぎた。
そして、目の前にいたゴブリンに、手にしていたものを振り下ろす。それはゴブリンの頭に突き刺さり、ほどなくして意識を手放した。
突然飛び出してきたのは、村に住む男だった。手にしているのは鍬だろう。
「貴様、何を…」
「あんたらに任せっきりじゃ、顔が立たねぇ。戦うぜ…俺も、俺達も」
リザイアが後ろを振り向く。そこには鍬を手に、戦う意思を見せつける村人の姿が。
「貴様ら、避難は…!」
「嫁や娘、老人たちは終わった!だからこっちに来たのさ!」
「おれたちもやるぜ!」
「いくぜ!」
「ちょ、きさ……あぁ、もうっ!」
リザイアの制止も空しく、モンスターに突撃していく村人たち。ナヴィ達も、村人の突然の参戦に驚き、攻撃の手を止めてしまった。
だが、すぐに落ち着きを取り戻す。
「ナヴィ、ウィル、レイラ!我らで村の者共のサポートをするぞ!」
「え?…あ、えぇ!」
「イブ!暫くは爆炎の使用は控えろ!」
「う、うん!」
「メリア!怪我人は任せる!」
「ん、わかっ、た…!」
なぜリザイアが仕切る?という疑問はあったが、メリアのことを考えての指示だということに気がつき、すぐさま実行に移す。
村人たちが加わったことで、一度に殲滅することはできなくなったが、負担は確実に減った。
しかし、モンスターの流れが収まる気配はなく、むしろ増える一方だった。
「ケイン…」
心配のあまり、メリアがか細く呟く。
今も、全線で戦うケイン、ユア、アリスの三人。
大丈夫なのかと心配する余裕はないハズなのに、心がざわついて仕方がなかった。
*
「…う、ぅう…ぁ」
「聖女さま!」
ベッドの上で、イルミスが目覚める。
魘されながらも、ケイン達のお陰で少しずつ落ち着きを取り戻しつつあったイルミスだが、それでも苦しそうな顔は戻っていない。
「ぇ…あ、クーテちゃん…っ!」
「聖女さま、無理しちゃダメだよ」
「は、はい…」
とここで、イルミスは周りにクーテ以外誰もいないことに気がついた。
それだけではない。微かに、爆発音のようなものも聞こえてくる。
「あ、あの、クーテちゃん…なにが起きて…」
「そ、それが…聖女さまが苦しんで倒れちゃった後、メリアさんって人が敵がたくさん来るって言い出して…それで、ケインさんが…えーっと…そう、スタンピードが起きた!って…」
「スタン、ピード…?」
まだ良くないイルミスの顔色が、再び悪くなる。それを見たクーテは、思わず手を握っていた力を強めた。
「聖女さま!?」
「はぁっ…!はぁっ…!はぁっ…!」
「落ち着いて聖女さま!」
「はぁっ…はぁっ……うっ……」
荒れた呼吸を落ち着かせ、なんとか持ち直す。
それでもまだ、震える瞳にクーテは違和感を覚えた。
「聖女さま…その、変だよ?」
「……わたしの、せいです」
「……え?」
「わたしのせいなんです!わたしが…わたしがいるせいなんです!」
イルミスの突然の叫びに、思わずぽかんとしてしまうクーテ。それはそうだろう。いきなり自分が犯人だ、なんて言われても、それを理解するのは難しいことである。
「わたしが…わたしがいるから、みなさんが危険な目にあって…!わたしさえいなければ、今ごろ…!」
「聖女さま!!」
「っ!?」
自己嫌悪に陥ろうとしていたイルミスに、クーテが抱きつく。イルミスも突然のことに驚き、思わず動きを止めてしまう。
時間にしておよそ十秒。二人の間に、静寂が訪れる。それを破ったのは、クーテだった。
「……聖女さま、バカなこと言わないで。聖女さまは悪くない。……悪く、ないもん」
「で、でも……」
「知ってるよ、聖女さまが苦しんでたこと…でもね」
クーテが抱きしめる力を強める。決して離さないように、しっかりと。
「わたしも、皆も、聖女さまが大好きなの。例え、どんな姿をしていても」




