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138 友情の爆炎

 アリスが近寄ると、サイクロプスが巨大な拳を振り下ろす。しかし、アリスは軽々とかわし、槍を一突きする。が、こちらもかわされる。

 一進一退のようにも見えるが、戦況はアリスが圧倒的に不利。理由は、決定力の無さだ。


 サイクロプスは巨体ゆえに、その体を支える筋力がとてつもなく発達している。そのため、拳一つでも食らえば、並以下の冒険者では一撃で死ぬこともある。

 そのため、ランクCに指定されている。


 対するアリスは、槍のリーチを生かした攻撃がメイン。ただし、槍というものは突きという単調な行動が主なため、どうしても決定打に欠ける部分がある。

 その点、アリスは決定力の少なさを、才能と技量で利点としている。

 ただ、それは相手が同格のような場合の話。サイクロプスのような相手では、やはり決定力不足になってしまうのだ。



(決定力はコイツの方が上…だったら)



 アリスは、致命傷を狙う行動から一転、連続攻撃をするヒット&アウェイ戦法に切り替える。すると、先程までの不利な状況から一変、アリスが優勢になった。

 しかし、サイクロプスの肉を貫くには火力が足りない。だが、今のアリスは一人ではない。



「イブっ!」

「はい!〝(フレイム)〟!」

「ゴァァ!?」



 死角から、イブの(フレイム)がサイクロプスに浴びせられる。狙っていた目には、左腕でカバーされたこともあり当たらなかったが、それでもイブの(フレイム)を受けて、無傷でいられるハズがなかった。

 サイクロプスは左腕に酷い火傷を負い、その一部は溶けた。火の粉を浴びた場所も、チリチリとした火傷が残っている。

 その傷口を抉るように、背後からアリスが飛び出し、的確な一撃。サイクロプスの左腕から、大量の血が溢れ出し始めた。



「イブ、もう一度やるよ」

「はい!」



 再びアリスが、火傷の酷い部分に向かって走り出す。サイクロプスも、やらせないと言わんばかりに反撃しようとする。が、アリスが突然滑るような体勢になる。

 サイクロプスの放った拳は空振り、アリスはその隙をついて足の腱を切りつける。

 しかし、普通のモンスターなら動けなくなるであろう怪我を追っているハズなのに、サイクロプスはその動きを止めない。無理矢理体を動かしているようだった。

 そのうえ、サイクロプスはアリスの相手をしながら、最も警戒すべきイブ(相手)から目を離さない。先の一撃で仕留められなかったのは、アリス達にとって最悪の状況だった。



「ほんっと面倒ね…イブ!さっきの爆発する炎、あれを使って、無理矢理にでもここを通りすぎるわ」

「えっ!?で、でも…」

「恐らくコイツは、この場所でしか活動できない。だから問題ない」

「ちがうの!まだあれはうまくコントロールできてなっ!?」

「しまっ!?」



 イブがアリスとの会話に気を取られた結果、サイクロプスの拳がイブを襲う。幸いにも、アリスが負わせた怪我によって体勢を崩したため、直撃は免れたが、それでも風圧で壁際まで吹き飛ばされる。



「あぐっ…」

「イブ!クソッ…〝制限解除(リミットオフ)〟」

「ガグァ「邪魔っ!」ァァァァ!?」



 アリスが制限解除(リミットオフ)を使い、一瞬でイブの元へと向かう。途中、イブに止めを刺そうとしていたサイクロプスを攻撃するのも忘れない。



「イブ!怪我は!?」

「ごめんなさい…でも、だいじょうぶです」

「ったく…」

「しんぱい、してくれるの?」

「まぁ、わたしが原因みたいなものだし…それだけよ」

「ふふっ、ありがとうございます」



 イブはお礼を言うと、すぐさまサイクロプスに杖を向ける。

 すると突然、アリスがイブ背後に回り、イブの手を包み込むように握ってきた。



「アリスさま…?」

「一度しか言わないし、手伝わない。だから、今ここで覚えなさい」

「っ!?う、うん!」



 アリスが何を言いたいのか分からなかったが、イブはアリスを信用し、アリスのやりたいようにさせることにした。

 次の瞬間、イブの体に別の魔力が流れてくる。アリスが、自身とイブの魔力を同調させたのだ。



「イブ。貴方が魔力を上手く扱えていないのは、無理矢理蓋をして、押さえ込もうとしているからよ」

「で、でも…イブのまりょくは…」

「膨大、なんでしょ?だからこそ、蓋なんてするべきじゃない。蓋をすれば、それだけ開いた時の爆発が大きくなる。だから」



 アリスがイブの手を強く握ると、イブの魔力が杖に溢れるように流れていく。イブは流れを止めようとするが、アリスがそれを許さない。

 溢れ出る魔力が、杖を一瞬で満たす。すると、イブの杖が強い輝きを放ち出す。それは、これまでのどの時よりも温かいものだった。



「これって…」

「傷つきたくない、傷つけたくないと、臆病になるのは構わない。けれど、押さえ込もうとするのは違う」

「……!」

「逆らわず、身を任せる。操ろうとせず、一体化する。貴方が魔力を上手く扱えないのは、それを理解していないから」



 イブは感じていた。これまで思い通りにできなかった魔力が、今は体の一部のようになっていることに。

 自分が自分でないような感覚に、イブは少し酔っていた。それでも、自我を保ち続ける。まだ、アリスの教えは続いているからだ。



「貴方はまだ、操ることは考えなくていい。考えるべきは放つこと。拳を出して相手を殴ろうとするように、体の一部(魔力)を使って、相手を吹き飛ばす。それを強くイメージして」

「……っ!」

「焦らなくていい。驚かなくていい。それはイメージがちゃんと形になろうとしているだけ。否定せず、受け入れて」

「はい…!」



 イブはイメージする。炎を使って相手を吹き飛ばすことを。思い浮かべたのは、炎を地面にぶつけて爆発させる方法。

 それを「相手にぶつけて爆発させる」というものに変換して再度イメージ。それはやがて魔力に伝わり、杖を通して外に漏れだし、形になり始める。


 そして、それは生まれた。



「イブ!」

「はい!いっけぇぇぇ!」



 イブが杖をつき出す。その行為に合わせるようにして、生み出された火球がサイクロプスめがけて飛んでいく。

 その火球を、サイクロプスがなんとか振り払おうとした瞬間、触れた火球が大爆発を起こした。

 その衝撃は凄まじく、サイクロプスの巨体を一気に壁に叩きつけた。



「……できた…できた!」

「そうね」

「やった…やった!」



 無邪気に喜ぶイブと、少し驚きを隠せていないアリス。イブと魔力を同調したときに、イブの身に宿る魔力量を知ったとはいえ、ここまでの威力になるとは思っていなかったからだ。



「そ、そうだ、なまえどうしよう…」

「〝爆炎〟でいいんじゃない?」

「…!いいかも…ぉっ?」

「っと、無理しない方がいいわ」

「ご、ごめんなさい…」

「初めてのことで頭を使いすぎたみたいね。暫く休んだほうがいい」

「う、うん…」



 アリスがイブを再び背負い、この場所を去ろうとする。しかし



「グォォォ!」

「ぇ!?」

「っ、まだ動くの…!?」



 入り口を塞ぐようにして、サイクロプスが立ちはだかる。左腕を無くし、下半身も動かなくなっているにも関わらず。



「だったら、制限解除(リミットオフ)で…!」

「グルァァァ!」

「きゃぁ!」

「くっ、背負いながら戦うのは…」



 アリスがイブを背負ったまま後ろへ下がる。

 イブも、今は自分が邪魔になっていると分かっており、すぐに降りようとする。が、それは杞憂に終わった。



「〝闇黒波斬(ダークスラッシュ)〟!」



 聞こえてくる人の声。放たれた黒い斬撃が、サイクロプスの体を切断する。

 二人は、声のした階段の方を見る。そこから、こちらに向かって来る一団の姿が見えてきた。



「二人とも、大丈夫か!?」

「「ケイン(さま)!」」



 やって来たのは、自分達のリーダーであり二人の思い人、ケインであった。

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