137 仲間だから
「うぅ…はぁっ、はぁっ…」
イブは追い込まれていた。いくら倒しても次から次へと沸いてくるモンスター。ケイン達の中でも異常とまで言える魔力を持つイブであっても、その減りは尋常ではない。
だが、そんなことでモンスターが待ってくれる訳がない。これ見よがしにと襲いかかるモンスター達を、イブは再び炎で蹴散らす。
だが、その一発で、イブはとてつもない頭痛に見舞われた。続けて激しい目まい、嗚咽感が襲ってくる。立つことすらままならなくなり、ついにその場に座り込んでしまった。
(たたかうっていったのに…まけないってちかったのに…!)
イブは、自分を攻めた。アリスに、自分は戦い続けると言ったのに、その約束を守れなかった。
戦わなくては。生き残るために。そんなことは分かっていた。しかし、体は動かない。
ゴブリン達が、イブを完全に取り囲んだ。もう、逃げ場なんてない。オークの一体が、棍棒を振り下ろす。イブは思わず目を瞑った。
しかし、いくら待っても、イブに衝撃がくることはなかった。
イブは、恐る恐る目を開く。
「…ったく」
そこには、イブを守るようにして立つアリスがいた。
アリスが槍を一振りすると、集まっていたモンスターを一掃。一瞬のうちに、退路を作り出した。
アリスはそのままイブを素早く背負うと、そのまま階段目掛けて走り始めた。
「アリスさま…どうして…」
「お人好しすぎるわ。貴方は」
「…え?」
イブはアリスに背負われたまま、アリスに問う。それに対して、アリスは問いで返す。
「わたしが裏切るとか、正しく伝えないとか考えないの?赤の他人…いえ、貴方たちを仲間とも思っていないわたしが」
「そんなこと、アリスさまはしないよ」
「本当に、そうかしら?」
「うん。だって、アリスさまは好きなんでしょ?ケインさまのことが」
「…っ!」
イブの答えに、アリスの足がピタリと止まる。
すでにアリス達は階段の半分まで上っていた。そのため、モンスターが襲ってくることはなかった。
しかし、アリスにとってイブの答えは、それを思わせるものだった。
突然止まったことに驚くイブに、アリスは背負ったまま問いかける。
「…どういう、意味かしら?」
「そのままだよ?アリスさまはケインさまが好き。だから、ケインさまがいやがることはしない」
「なぜ言い切れるの?」
「え?」
「わたしは、貴方たちを殺そうとした。それに今だって、貴方たちとケインを引き離そうとしている。それなのに、どうして信用できるの?」
「そんなのきまってます。アリスさまが、イブたちのたいせつななかまだからです」
迷いなくそう告げたイブを、アリスは下ろす。イブも、ゆっくりとアリスの背中から下りた。
そのイブを、アリスは見つめている。まるで、その言葉の答えを求めているように。
「…どうして。どうして、仲間だなんて言えるの?だってわたしは…」
「アリスさま。イブたちは、アリスさまをきらってなんていないよ」
「っ、どういう…」
「なかまだっておもってるから。イブたちとおなじ、ケインさまといっしょにいたいっておもってる」
「あり得ないわ!仲間だって思ってるなら、あの二人がわたしと喧嘩する意味が」
「いちどでも、アリスさまをじゃまものあつかい、した?」
「…!」
確かに、ナヴィとウィルはアリスと険悪な感じだった。しかし、アリスは思い出した。
二人は、アリスに連携をちゃんとしてほしいと言ってきた。二人が求めたのは、それだけなのだ。
本当に邪魔者だと思っているなら、それ以上のことを望むハズなのに。そういう行動を、起こしてもおかしくないのに。
そのことにようやく気がついたアリスは、自分を恥じた。
「………よ」
「アリスさま?」
「なによ…ったく。一人で突っ走って…馬鹿みたい」
「……」
「…イブ、満足に歩ける?」
「え?えっと…まだむりかも…」
「そ。…ほら、早く乗りなさい」
「え?」
「乗らないならそれでもいいけど」
「あ、まって!のる!のらせてください!」
しゃがんだアリスに再び背負われるイブ。アリスは簡単に起き上がると、再び階段を上り始めた。
「…ねぇ、貴方はどうなの?」
「ふぇ?」
「ケインのこと、どう思ってるの?」
「それはもう、だいすきにきまってます!」
「…それは、ラブの意味で?」
「はい!」
元気な返事に、アリスは「やっぱりか」といった顔になる。薄々気がついていたが、本人から肯定されては認めざるを得ない。
そして、イブの幼子らしからぬ言動と視野は、恋心によるものだと改めて認識した。
「貴方は、ケインを独占したいとか思わないの?」
「ないよ」
「どうして?」
「だって、ケインさまをすきなのはイブだけじゃないから。メリアさま、アリスさま。それに、ナヴィさま、ウィルさまも。まだ、きづいてないけど」
「やっぱりそうなのね…」
「ほかのみなさまも、ケインさまがだいすきだよ?それなのに、イブだけがどくせんなんてできないよ。だからっ!」
イブはいきなり拳を掲げる。突然の行動に、アリスは思わずビクッとなる。
「イブのもくひょうはケインさまのハーレムをつくること!」
「ハーレ…え、はっ!?」
「そうすれば、みんなしあわせ、でしょ?」
流石のアリスも、これは想定外。まさかこんな幼女から、ハーレムなんて言葉が出てくるなど誰が予想できようか。
それに、アリスも同じくケインを好いているからこそ理解できる。イブは冗談を言っているのではなく、本気でハーレムを作るつもりなんだ、と。
「……そうかもね」
「…やっぱり、ゆるせない?」
「いいえ。むしろ、妙に納得してるわ」
「じゃあ、アリスさまも手をかしてくれませんか!?」
「それは………っと、ここは…」
「おっきなへや……ってことは」
「間違いないなく、なにかがいるわ。…立てる?」
「…だいじょうぶです」
「……なら、行くわよ?」
「…はい!」
アリスの背からイブが下り、同時に部屋へと足を踏み込む。
その瞬間、中央から巨人が出現した。人一人なら簡単に捻り潰せそうなほど大きな腕や足、そして、巨大な一つ目が特徴的だ。
「サイクロプス…」
「お、おっきい…」
「イブ、わたしが注意を引き付ける。貴方は隙をついて、コイツの目を狙いなさい」
「う、うん!」
「それじゃ、いくよ?」
アリスが駆け、イブが構える。
今、アリスが本当の仲間になるための戦いが始まる。




