表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/414

137 仲間だから

「うぅ…はぁっ、はぁっ…」



 イブは追い込まれていた。いくら倒しても次から次へと沸いてくるモンスター。ケイン達の中でも異常とまで言える魔力を持つイブであっても、その減りは尋常ではない。

 だが、そんなことでモンスターが待ってくれる訳がない。これ見よがしにと襲いかかるモンスター達を、イブは再び(フレイム)で蹴散らす。

 だが、その一発で、イブはとてつもない頭痛に見舞われた。続けて激しい目まい、嗚咽感が襲ってくる。立つことすらままならなくなり、ついにその場に座り込んでしまった。



(たたかうっていったのに…まけないってちかったのに…!)



 イブは、自分を攻めた。アリスに、自分は戦い続けると言ったのに、その約束を守れなかった。

 戦わなくては。生き残るために。そんなことは分かっていた。しかし、体は動かない。

 ゴブリン達が、イブを完全に取り囲んだ。もう、逃げ場なんてない。オークの一体が、棍棒を振り下ろす。イブは思わず目を瞑った。


 しかし、いくら待っても、イブに衝撃がくることはなかった。

 イブは、恐る恐る目を開く。



「…ったく」



 そこには、イブを守るようにして立つアリスがいた。

 アリスが槍を一振りすると、集まっていたモンスターを一掃。一瞬のうちに、退路を作り出した。

 アリスはそのままイブを素早く背負うと、そのまま階段目掛けて走り始めた。



「アリスさま…どうして…」

「お人好しすぎるわ。貴方は」

「…え?」



 イブはアリスに背負われたまま、アリスに問う。それに対して、アリスは問いで返す。



「わたしが裏切るとか、正しく伝えないとか考えないの?赤の他人…いえ、貴方たちを仲間とも思っていないわたしが」

「そんなこと、アリスさまはしないよ」

「本当に、そうかしら?」

「うん。だって、アリスさまは好きなんでしょ?ケインさまのことが」

「…っ!」



 イブの答えに、アリスの足がピタリと止まる。

 すでにアリス達は階段の半分まで上っていた。そのため、モンスターが襲ってくることはなかった。

 しかし、アリスにとってイブの答えは、()()を思わせるものだった。

 突然止まったことに驚くイブに、アリスは背負ったまま問いかける。



「…どういう、意味かしら?」

「そのままだよ?アリスさまはケインさまが好き。だから、ケインさまがいやがることはしない」

「なぜ言い切れるの?」

「え?」

「わたしは、貴方たちを殺そうとした。それに今だって、貴方たちとケインを引き離そうとしている。それなのに、どうして信用できるの?」

「そんなのきまってます。アリスさまが、イブたちのたいせつななかまだからです」



 迷いなくそう告げたイブを、アリスは下ろす。イブも、ゆっくりとアリスの背中から下りた。

 そのイブを、アリスは見つめている。まるで、その言葉の答えを求めているように。



「…どうして。どうして、仲間だなんて言えるの?だってわたしは…」

「アリスさま。イブたちは、アリスさまをきらってなんていないよ」

「っ、どういう…」

「なかまだっておもってるから。イブたちとおなじ、ケインさまといっしょにいたいっておもってる」

「あり得ないわ!仲間だって思ってるなら、あの二人がわたしと喧嘩する意味が」

「いちどでも、アリスさまをじゃまものあつかい、した?」

「…!」



 確かに、ナヴィとウィルはアリスと険悪な感じだった。しかし、アリスは思い出した。

 二人は、アリスに連携をちゃんとしてほしいと言ってきた。二人が求めたのは、()()()()なのだ。

 本当に邪魔者だと思っているなら、それ以上のことを望むハズなのに。そういう行動を、起こしてもおかしくないのに。


 そのことにようやく気がついたアリスは、自分を恥じた。



「………よ」

「アリスさま?」

「なによ…ったく。一人で突っ走って…馬鹿みたい」

「……」

「…イブ、満足に歩ける?」

「え?えっと…まだむりかも…」

「そ。…ほら、早く乗りなさい」

「え?」

「乗らないならそれでもいいけど」

「あ、まって!のる!のらせてください!」



 しゃがんだアリスに再び背負われるイブ。アリスは簡単に起き上がると、再び階段を上り始めた。



「…ねぇ、貴方はどうなの?」

「ふぇ?」

「ケインのこと、どう思ってるの?」

「それはもう、だいすきにきまってます!」

「…それは、ラブの意味で?」

「はい!」



 元気な返事に、アリスは「やっぱりか」といった顔になる。薄々気がついていたが、本人から肯定されては認めざるを得ない。

 そして、イブの幼子らしからぬ言動と視野は、恋心によるものだと改めて認識した。



「貴方は、ケインを独占したいとか思わないの?」

「ないよ」

「どうして?」

「だって、ケインさまをすきなのはイブだけじゃないから。メリアさま、アリスさま。それに、ナヴィさま、ウィルさまも。まだ、きづいてないけど」

「やっぱりそうなのね…」

「ほかのみなさまも、ケインさまがだいすきだよ?それなのに、イブだけがどくせんなんてできないよ。だからっ!」



 イブはいきなり拳を掲げる。突然の行動に、アリスは思わずビクッとなる。



「イブのもくひょうはケインさまのハーレムをつくること!」

「ハーレ…え、はっ!?」

「そうすれば、みんなしあわせ、でしょ?」



 流石のアリスも、これは想定外。まさかこんな幼女から、ハーレムなんて言葉が出てくるなど誰が予想できようか。

 それに、アリスも同じくケインを好いているからこそ理解できる。イブは冗談を言っているのではなく、本気でハーレムを作るつもりなんだ、と。



「……そうかもね」

「…やっぱり、ゆるせない?」

「いいえ。むしろ、妙に納得してるわ」

「じゃあ、アリスさまも手をかしてくれませんか!?」

「それは………っと、ここは…」

「おっきなへや……ってことは」

「間違いないなく、なにかがいるわ。…立てる?」

「…だいじょうぶです」

「……なら、行くわよ?」

「…はい!」



 アリスの背からイブが下り、同時に部屋へと足を踏み込む。

 その瞬間、中央から巨人が出現した。人一人なら簡単に捻り潰せそうなほど大きな腕や足、そして、巨大な一つ目が特徴的だ。



「サイクロプス…」

「お、おっきい…」

「イブ、わたしが注意を引き付ける。貴方は隙をついて、コイツの目を狙いなさい」

「う、うん!」

「それじゃ、いくよ?」



 アリスが駆け、イブが構える。

 今、アリスが本当の仲間になるための戦いが始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ