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136 二人ぼっちの戦い

「……んっ、うぅ…」

「あっ、だいじょうぶですか?アリスさま」

「……イブ?って、ここは?」

「たぶん、さっきまでいたどうくつのちかです」

「…地下?どうしてそんな場所に…」

「アリスさまがトラップにひっかかって、ここにとばされました」

「そうだった…」



 アリスとイブが飛ばされたのは、イブの予想通りメアの洞穴の地下。本来なら一面真っ暗なハズの地下は、微かに光る鉱石により、薄暗く不気味な雰囲気になっている。



「それで?どうして貴方までここにいるの?」

「…たすけようとして、まきこまれました…」

「……はぁ?」

「ごめんなさい…」

「…いや、いいよ。別に謝らなくて」



 流石のアリスも、イブの行動に文句をつけようとはしなかった。面倒事にはかわりないが、助けようとしたうえでのことなので、あまり口を出せることでもなかった。



「…と、とにかく!うえにもどれれば、ケインさまたちともごうりゅうできます!」

「そうね、さっさと戻りましょう。ケインが私を心配しているだろうし」

「あ、あかるくするね。〝明り(ライト)〟」



 イブが明り(ライト)を使うと、洞窟の様子が一瞬で伺えるようになる。アリスはその光景に驚きはしたものの、すぐさま気持ちを切り替え前へと進みだした。


 洞窟の中は、静かだった。モンスターも出てくる気配はなく、ただ静寂が広がっている。

 曲がりくねった道、枝分かれしている道、入り組まれた道。人を絶対に出す気が無いような道を、二人はひたすらに進み続けた。

 進んで進んで、進み続けた先で見つけたのは、開けた部屋らしき場所。そしてその奥に、上の層へと繋がる階段があった。

 しかし、アリス達がその部屋に足を踏み入れた瞬間、その部屋にモンスターが沸いて出てきた。



「ゴブリン、オーク、クラヤドネ…雑魚ね」

「ざ、ざこ…」

「さっさと突破するわ」

「は、はい!」



 そう言ってアリスは踏み込むと、一気に敵との距離を詰める。そして、たった一振りで三体のモンスターを絶命させた。その光景を見ても、ゴブリン達は怯まず襲ってくる。

 そして、襲うのはアリスだけではない。

 イブにも、ゴブリン達は容赦なく襲いかかってくる。イブは明り(ライト)の発動を中止し、イブがいる場所の、少し手前に狙いを定める。



「〝(フレイム)〟!」



 イブから放たれた炎は、狙った場所より少し奥に被弾する。そして、地面に当たった瞬間、爆発を起こした。


 イブは、自ら新しいスキルを作ろうとしていた。今の(フレイム)も、模索している使い方の一つだ。

 というのも、イブは未だに魔力を上手く扱えていない。そのため、繊細な機動を持たせることも、無理ない威力に抑えることもできない。

 そこでイブは考えた。ならばいっそ、威力を活かした攻撃ができないだろうか、と。

 そのことをリザイアに相談したところ、この使い方を教わったのだ。


 爆発に巻き込まれたゴブリン達が、跡形もなく消し炭になる。これにより、イブを襲おうとしたオークは全滅。直撃を免れたゴブリンやクラヤドネは何体かいたが、それでも瀕死状態だ。

 そこに、アリスが現れる。アリスは残ったゴブリン達を素早く片付けると、すぐさまイブの元へと向かう。



「…貴方、今のなに?」

「え…(フレイム)、だよ?」

「…そう」

「あっ、まって!」



 アリスはイブに問い詰める。しかし、イブの態度を見て興味が失せたのか、先に進もうと踵を帰した。

 イブは少しポカンとしていたが、すぐに我に帰ると、アリスの後を追った。


 上の層も、同じような感じだった。違う点をあげるとすれば、先程は道中にはモンスターはいなかったが、今回は出てきたことだろうか。

 しかし、出てくるのは先程と同じゴブリン達。アリスの敵になるわけもなく、淡々と倒されていく。

 その際、イブはなにもしていなかった。否、なにもできなかった。イブが動くより早く、アリスが動く。イブが考えるより早く、アリスが考える。

 まるでアリスは、イブをいないものとして扱っているようだった。



「……ん?」

「アリスさま?いったいどうしっ…!?」

「っ、なにこれ……!」



 アリスがふと違和感を感じて立ち止まる。次の瞬間、アリスとイブを分断するように、大量のモンスターが出現した。流石のアリスも予想外だったのか、目を見開いた。



「くっ、どいて!」

「次から次へと…面倒ねっ!」



 アリスとイブは、それぞれ迫り来るモンスターを次々と倒していく。しかし、一行に減る気配がなかった。

 それもそのはず、モンスターは次から次へと産まれているのだ。これでは、どれだけ倒しても、逆に追い込まれるだけだ。

 しかし、アリスはどうしてこのような現象が起きたのか知っていた。というのも、暗闇の奥に見えているのだ。上の層へと向かう階段が。

 つまりこの場所は、先程の部屋のような場所なのだ。



「なら…ふふっ」



 アリスは小さく微笑むと、モンスターを倒しながら進んでいく。()()()()()()

 それは紛れもなく、イブを囮にする行動だった。



「アリスさま!?」



 イブも、アリスの思わぬ行動に、一瞬気を取られてしまう。その隙をつき、ゴブリン達が一気に距離を詰める。その結果、イブは来た道の方へと押し戻されてしまう。

 しかし、アリスは全くイブの方を気にする様子はない。そのことに気がつかないイブではない。だが、押し戻されている今、追いかけることもできない。

 だから、イブは叫んだ。アリスが、その言葉を受け取ってくれると信じて。



「アリスさま!さきへ行ってください!さきへ行って、ケインさまたちをよんできてください!それまでイブは、ここでたたかってますから!」

「………」



 アリスは答えない。モンスターの攻撃が激しくなり、イブもそれ以上のことを言うことはできなくなった。

 やがて、アリスの姿は完全に見えなくなり、イブは孤立した。



「…だいじょうぶ、イブはやれる…!こんなところで、まけたくない…!」



 *



「はぁ…馬鹿ね。本当にわたしが伝えるとでも思ってるのかしら」



 モンスターの包囲網を抜け、階段を上りながら、アリスは呟いた。

 アリスにとって、先程の出来事は大したことではない。数が多くても所詮は低ランクモンスター。全滅はできなくても、包囲網を突破することは簡単だった。

 しかし、イブは違った。一つ前の層でのイブの戦い方を見て、アリスはイブがまだうまく戦えていないことに気がついていた。

 そして、先の包囲網でイブと分断された時、アリスの中の黒い部分が目覚めてしまった。孤立したイブを置き去りにして、自分のケインにまとわりつく虫を一匹排除しようとしたのだ。



「ふふふ…さて、どう説明しようかな?道が塞がれて合流できなくなった?守りきれずに亡くなった?それとも…」


(それまでイブは、ここでたたかってますから!)


「………」



 階段を上りきり、次の層へと踏み出そうとしたアリスの足が止まる。

 今アリスがした行為は、アリスにとって何一つ問題のないこと。むしろ、喜ばしいこと。


 では、ケイン達にとっては?


 ケイン達の中でも、最も幼い少女イブ。そんな少女が、死んだとなったらどうなるのか。

 そもそも、ケインは仲間を失うことを特に嫌っていた。

 もしアリスが、ケインに嘘をついて死なせたとしたら?



(こんな、ことして、ケインが、喜ぶと、思ってるの!?)

(ケインが大切にしたいものを壊すなんてことはしないで!ケインの心を壊すようなことはしないで!)



 思い出すのは、暴走し、メリア達を手にかけようとしたあの日、メリアに言われた言葉。

 忌々しい、けれど、忘れてはいけない言葉。



「……あぁっ、もうっ!」



 アリスは頭を抱える。一体、自分は何をしているのだ、と。

 望んだことをしただけなのに、どうしてこんな気持ちになるのだろうか、と。


 だから、アリスは駆け出した。

 目の前に見えている層を背にして、階段を駆け下りていく。


 今も自分(アリス)を信じて戦っている、仲間(イブ)の元へと向かうために。

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